なぜ「知り合い」なんて聞き方をしたのかはわからない。
まだ心のどこかでは認めていなかったのか、それともありもしない可能性に賭けたかったのか…。
なによりも直接の答えを聞くのが、怖かったからかもしれない。

「!」
思考は一瞬にして途切れ、暗闇の世界が広がった。
凍りつきそうなほど冷たい月の下、俺は全身から血をしぶかせながら、敵に対して捨て身の特攻を決行する。俺の身を何度も何度も残酷に切り刻んだ無数の刃もさえも、満身創痍の俺を止めることはできなかった。
敵の砦は目の前。俺は主砲を全身で構え、同じく全身を使ってぶちかます。
上半身が無理矢理に反らされ、それとほぼ同時に何もない空間が、一瞬にして爆炎に彩られた。
「ぐはっ…」
俺は空中で反動の衝撃を逃がしきれずに、背中から地面へと叩きつけられる。
とっさに受身を取ったものの、傷口が更に開きボタボタと血の滴が地面をぬらした。
「やった…か、うっ」
レンガが燃える臭いと、錆びた鉄の臭いが鼻について蒸せる。爆炎で少し焦げた手袋で、口をふさぐが、なんとか吐かずには済んだ。
俺は敵のいた位置から立ち上る大量の煙を見て、勝利を確信し、絶望した。
爆発の威力、発射速度、そして相手の攻撃の最中のカウンターと……人間が簡単に死ねる理由が三つもそろってしまっていた。あんな攻撃を食らった相手は圧力でぺしゃんこか、バラバラ死体か…どちらにせよ、原形をとどめているかどうかは絶望的だった。
「終わったのか…?」
俺は誰もいない、まだくすぶり続ける炎に向かってつぶやく。
……。ただ呆然と、立ち尽くすだけで返事などあるわけが…。
「シュウ」
返事があった!? これは夢なのか、それとも幻聴なのか…。
燃え殻が最後に大きく燃え上がるろうそくのように、巨大な火を作る。
それが俺には人影に見えた。
「シュウ…」
また俺の名を呼んだ。幻聴なんかじゃない。絶対に呼んだ。
それも…親友の声で。弱弱しく、だがはっきりと胸に響く声で。
俺はありったけの声で答える。
「おい、お前なのか…!? 生きているのか? どうしてこんな……」
最後のほうは言葉にならなかった。今まで自分を殺そうとしていた相手が生きていたことを、どうしてこんなに喜んでるのか、とにかく言葉にならなかった。
燃え殻は弱弱しくも、聞きなれた声で言った。
「シュウ……相変わらず甘いな」
幻みたいに透明な殺気を背中に感じた瞬間には遅かった。
背中から腹にかけて、冷たい刃が刺し込まれた。
「ぐ、お…」
一本、二本、三本………。冷たい感触はすぐに燃え上がるような灼熱に変わっていく。
四本目がきたと感じた瞬間、俺は残された力をすべて足にだけに使い、……から距離をとった。
俺は、手探りでアサシンのナイフを掴み、一本ずつそっと抜いていく。
抉られはしなかったものの、三本中三本すべてが腹まで貫通していた。
とめどなく流れ出る血と一緒に生気まで失われていく様子がはっきりとわかった。
俺を刺した人間は…逃げた俺を追うわけでもなく、元の場所で……笑っていた。
その様子はあざ笑うわけでも、苦笑しているという様子でもなく……懐かしむような笑顔だった。
「……ぐ!」
三本目の刃を体から抜き去ったとき、そいつは俺を見て一言こぼした。
「シュウ、相変わらずしぶといな……お前らしい」
見下すわけでもなく、恐れるわけでもなく、組み手でなかなか決着がつかないときのように。
「お前のことは嫌いじゃない、だが」
透き通った瞳で言った。
「お前が邪魔なんだ。だから、だから…せめて俺が始末してやる」
男はそこまで言って、顔を覆っていたマスクを外す。
黒髪に闇色の瞳。感情を持たない機械のような、だが絶対の信頼をおける人徳者。
見間違うことなどあるはずがない、大親友ナオの姿だった。
続く
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