「しゅ、シュウ…こっちのも見よっ」
「ん、あぁ…」
私が手招きすると、戸惑いながらシュウが来る。
実のところ私は今、シュウと二人でお買い物をしてる。うるさいレフェルは、宿に置いてきたから正真正銘のふたりっきり。でもこれってもしかしてデー ト…!?

ことの発端は私のちょっとした疑問から…あのときはあんなことになるなんてひとかけらも思ってなかったのに、どうしてこうなっちゃたんだろ。
「そういえば…シュウっていっつも同じ服着てるよね」
シュウは拳銃をいじる手を止めて、私のことを見る。
「ん? 別にこれだけでいいじゃん。動きやすいしさ」
私はシュウの服を見て言った。
「でも、ちょっと汚れてるし…それと私服って持ってないの?」
シュウはさも当然のように言う。
「いや、これだけ。どこ行くのもこれだよ」
「えっ…じゃあそれ洗ってないの!? 不潔ね〜。そうだ、ちょうどいいから服買いに行こう」
シュウは私の良案を聞いても、いい顔をせずに言う。
「え、別にいいだろー」
多分ここで間違ったのかな…私は少し怒って言った。
「私が嫌なの! ほら、早く仕度して!」
「…しょうがないな」

そうして今に至るってこと。私は適当に間近にあった帽子を手にとって、シュウに見せる。
「シュウ、この帽子なんてどう?」
シュウは手に取りもしないで言った。
「被ったら穴空くだろ。それに服買いに来たんじゃなかったっけ?」
「もう、うるさいわねーそんなこと言うなら、シュウも探してよ」
「う〜ん…そう言われてもなぁ」
シュウは腕を組んで考え込んでしまう。こういうくだらないやり取りすらも、なんだか楽しかった。
「シュウ、この服はー?」
私は赤くてよくわからない記号がプリントされたTシャツをシュウに渡す。シュウは一瞬変な顔をしたけど、Tシャツを受け取ってくれた。
「ちょっと派手すぎるような気もするけど…まぁ、ちょっと着てみるか」
えっ…私が止めるよりも先に、シュウはいつもの服を脱ごうとした。
シュウはほとんど脱ぎかかってたけど、寸前のところで慌てて止める。
「シュウ、ここ…フリマの真ん中だよ? こんなところで脱がないでよー!」
「冗談だよ。まだ買ってもいないのに着たりしないって」
シュウは笑いながら、脱ごうとしてた服をもとに戻す。私が言いたかったのは、買ったかどうかじゃなくて、恥ずかしいからこんなところで脱がないで欲しかっ たってことなんだけど…。
シュウは私のことを尻目に、今の服を自分に合わせて横に首を振る。
「似合わないな。青っぽい服のほうが合う気がする」
確かに髪の色が青だから、白とか清潔な色とあわせるといいかも。
「それじゃ、私も一緒に青っぽい服を探すねっ」
シュウは自分の前につみあがった服を眺めて言った。
「ん、あぁ。でもこの辺にはもう無いみたいだぞ」
「そっか…じゃあ、他の店ものぞいて見よ」
「そうするか」
シュウは探していた手を止めて、私のほうを見た。一瞬視線が合って、すぐに目をそらす。顔が赤くなっちゃう前でよかった…。
私は数ある露店の中から、どこに行こうかと決めあぐねている中、メガホンを使った大声がフリマ内に響き渡った。
「タイムサービスが始まるよー。全品半額だー!!」
「半額!?」
フリマ中にいたほぼすべての人が、声のしたほうへと目を向ける。もちろん私たちもそうだ。だって半額っていったら、10kのものが5kだよ? いかなきゃ 損だよね。
でも…それは誰もが同じことで……
半額効果は強力で、既に何十人もの人がその店を取り囲んでいた。出遅れた私たちは到底入り込めそうもない。私は隣でその様子を呆然と眺めていたシュウに向 かって言う。
「シュウ…半額は行きたかったけど…」
「何言ってんだ、行くぞ! あのくらいの人数ならいける…バーゲン荒らしと恐れられたシュウ様の本気見せてやるよ」
「えっ…」
よく見ると、シュウは呆然としてたんじゃなくて、その目をギラギラと輝かせて握りこぶしを作っていた。
どうやら、今もなお増え続ける人の波に飛び込んで、格安商品をゲットするつもりらしい……
シュウは突然私の前に左手を出して言った。
「グミ…手」
手が…どうしたんだろう。私がシュウの顔を見ると、少し気恥ずかしそうにシュウが言った。
「はぐれないように、手をつなぐかって言ってんだよ」
シュウは私の顔を見ないように、人の群れを見ていたけれど…その頬はほんのり赤く染まっていた。
「う、うん…」
私もシュウを見ないように、左手に右手を重ねた。シュウは、
「とばすから、この手…絶対放すなよ」
と言って、私の手を強く握る。私の冷えた手にシュウの暖かな体温が伝わってきて……
私もシュウの手を握り締めて、言った。
「絶対、放さないでね」
シュウは軽くうなづくと、私の手を引いて走り出した。私も置いていかれないように…手を放さないように精一杯走る。
「おらおらーどけー! どかねーと怪我するぞ」
シュウは周りの人を威嚇しながら、かなり強引に人の波を掻き分けていく。あまりの暴走っぷりに、もともと騒がしかったフリマも一時騒然となったくらい。
危険を察知した、普通の人は次々とシュウの前に道をあけていく。どうしてシュウはこういうことをやすやすとやってのけるんだろう。どうして私の手を引い て、前を走ってくれるんだろう。さっきまでは全然乗り気じゃなかったのに…。もしかしてシュウは…
私があることに気付きかかったとき、目の前に普通の人とは一回り大きな戦士が立ちふさがっていた。
「ガキが俺様のショッピングを邪魔してんじゃねえ!」
ごっつい戦士は青筋立てて怒ってる……でも、シュウは走る速度を緩めるどころか、さらに加速していった。ごっつい戦士は太くてたくましい腕を横に伸ばし、 ラリアットの準備をしていた。このままじゃ絶対避け切れない! 私がそう思った瞬間、私の体がふわりと浮き上がる。
「アンテナをつかめ!」
私は考える間もなく、必死で目の前のアンテナをつかむ。直後、あっという間に世界が加速して戦士のかぶとが見えた後、360度縦に回転して着地した。私は 目をつぶったまま、無我夢中でアンテナをつかんでいた。
真っ暗な景色の中、すぐ近くでシュウの声がした。
「あんたじゃ、俺を止められない。それに…」
「うわあああああ!!?」
戦士の叫び声が上がる。
「その腕じゃ俺を捕まえられないだろ。それとグミ…痛いからそろそろ髪引っ張るのやめてくれ」
私は目をあけて、しっかり掴んでいたアンテナから手を放す。…え、アンテナ?
「えええっ!?」
私は驚きの声を上げると、シュウはしゃがんで私を下ろしてくれた。どうやらいつの間にか私はシュウに肩車されていたらしい。私、スカートなのに…シュウは 全然気にしてないみたいだけど。
シュウは私のことを見て、すまなそうに言う。
「わりぃ、成り行きで手…放しちまった」
あ、そういえば…。私は自分の手を見て気づく。でも、シュウは手をつなぐ代わりに私のことを背負ってくれたんだ。私はシュウの前に右手を差し出して言っ た。
「許してあげる…けど、今度は放さないでね…」
それを聞いたシュウは、
「あ、あぁ」
と、私の手を握ってくれた。
続く
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