実は主人公だったりするシュウだ。嘘だ。
と、呑気に自己紹介してる場合じゃなかった。
何故かって?
待ち合わせに遅れてるんだよ!現在進行形で!!
しかも相手がグミときたもんだ。ああもう鈍器は覚悟してるよ・・・。
今俺にできることは一刻も早く待ち合わせ場所に着くこと!


「The true is lie.」(前編)



そもそもグミと待ち合わせなんて想像できないだろ?これにはちゃんとした訳がある。
俺が悪いわけじゃない!一言で言い表せば、はめられた、だ。


                *
事の起こりは昨日だ。カニングに滞在していた俺たちはサイン兄の提案の元、スキルの技能の向上、チームワークを深めるという一種の特訓をしていた。特訓と いうほど激しいものではなかったが。
サイン兄曰く、
「本気になるにはそれなりのリスクが必要」
だそうで、チームワークを深めるのに罰ゲームがついてきやがった。しかもすべて終わるまで内容が明かされない。ろくでもないことは確かだ。
種類は2つ。一つは宝探し。聞こえは楽しそうだがこれが過酷なものだった。何しろカニングの街のどこかに隠されたパチンコ玉を見つけろ、と常人には到底不 可能なものだったからだ。
チーム戦ということでナオも(強制的に)参加し、俺・グミチームとユア・ナオチームでスタートした。
結果明白だった。ものの5分でユアがパチンコ玉を見つけ出したのだ。
俺とグミは−1ポイント。この時点で俺かグミの罰ゲームは確定したわけだが、次は個人戦、ということで罰ゲームを免れる可能性が出てきたってわけだ!サイ ン兄の本気、の意味がわかった気がした。


次は俺の得意種目だった。各自能力に合わせた敵を狩り、その証拠を持ってくる。下位二名が−1ポイントだ。ようするに、俺は上位 二名に入ればいい。もしもユアとナオが負ければ罰ゲームはな無し。めでたしめでたしって訳だが、ナオが負けることは考えにくい。元々俺とナオには地の利が あるが。
俺に課せられたのは緑きのこ10体。楽勝だ・・・と思っていたのだが。
自己ベストを更新したはずだったのだがゴール地点にはすでにナオとユアがいた。グミはいない。ということは・・・俺とグミの罰ゲーム決定!?
二人は息切れもしていないところを見るとかなり前に到着した、だと!?
「サイン兄!!ユアとナオの課題って何だ!!」
くあ〜と欠伸をしたサイン兄は頭をぼりぼりと掻きながら言った。
「・・・姉さんがデンデン10体、ナオがメイプルキノコ10体」
「不平等だろそれ!!!」
コンマ0,1秒でつっこむ。俺が緑きのこなのにユアがデンデン!?
「いや、俺お前とナオの実力しか知らなくて」
そういうサイン兄の顔には“嘘だ”と明らかに書かれていた。
「にしても俺とナオの差は!!」
ん〜と考える振りをしてから出た答えは・・・
「俺の気分?」
「気分って何だよ!!!!」
ああちゃぶ台があるならひっくり返したい・・・。100mは飛ばせる。自信がある。10000メル賭けてもいい。
「あ、あの、グミさんは・・・・・」
怒りボルテージMAXの俺と呑気なサイン兄を少しでも和ませようとするユアの気遣いなのだろうか。
そういえば、グミだけまだ戻ってきてない。あいつは確か工事現場の方へ行ったはずだ。あそこはそう強い敵もいないからそろそろ戻ってきてもおかしくないは ず・・・。
「グミの課題は何なんだよ」
「・・・帰ってきたぞ」
俺が聞くのとほぼ同時に今まで無言だったナオが発言し、指差す。その先には確かに、グミの姿が。遠目から見てもふらふらなのが判る・・・・。
「グミさーん!!こっちですよー!!」
ユアが大声で先導する。そのままほっておいたらどこかへ行ってしまいそうな雰囲気だった。
グミの手には、紫色の・・・・物体。
それを見たユアが顔を蒼くする。
「グミさん、触れるようになったんですか・・・?」
しかしグミは返事をしない。そのままサイン兄のほうへふらふらと歩いていき、
「・・・・魔物を倒した証拠ならいいんでしたよね・・・・」
その気迫といったらサイン兄さえも一歩後ずさりするほどだった。
ナオも辛うじて表情は変化していないが冷や汗が垂れるのがはっきりと見える。
俺に至っては昆虫採集された後の虫のように一歩も動けなかった。それは普段の鈍器の威力を知っているからなのか。
「あ、ああ・・・」
そう、サイン兄が答えるとグミはゆっくりと手をサイン兄のほうへと上げる。
「これは・・・碁石・・・」
呟くようにいったのはサイン兄だ。言われた通りグミの手をまじまじと見るとそこには小さなオクトパスの形をした碁石が握られていた。
「で、でも一応ビリはシュウと二人で、な」
あのサイン兄がたじたじだ。兄貴というか子分というか、判ったことはこの中ではグミが最凶だということだ・・・・。



      
と、何はともあれ罰ゲームが俺とグミになった。
その内容がただの買い物というのはサイン兄の心遣い、否、グミへの恐怖からだろう。
特訓の翌日――つまり今日だが、買うものは白い薬やマナエリクサーなど、旅に欠かせないものばかりだった。
名目は罰ゲームと言えど俺はそれなりに心躍っていた。一応・・・・なあ?
あえて・・・の部分は言わないことにする。何か、恥ずかしいし。
と、あっという間に短いような長いような夢は終わっていた。窓から見えるのはカニングには珍しい青空。しかし日は高く昇り、気温もそれなりに上がってい る。
「・・・・・・・やばい!」
それが第一声だった。そこから冒頭へと繋がるわけだ。
とにかく俺は待ち合わせ場所まで全速力で走った。グミは用事があるとかで今朝早く家を出て行ったみたいだった。ユアもレフェルもいなかった。


グミとの待ち合わせ場所はカニングの市場の前だった。市場といってもぺリオンやヘネシスまでの活気は無いが、武器から薬までありとあらゆる物が揃う。そう 言ったら大げさかな。
カニングはそびえたつ様なビルが並んでいる街だ。そのほとんどが細いビルで、その隙間を縫うように走る。
市場は思ったより人は少なかった。ちょうど昼時というのもあるだろうな。グミの黒い服はすぐ目に留まった。
その隣にいるのは・・・・ナオ?なんでナオがここに?そりゃあナオだって買い物の一つはするだろうけどあいつが人と話すなんて珍しいな・・・。
心の奥底で僅かに親友を嫉んでいる自分が腹立たしかった。
不意に、ナオと目が合った。グミからはちょうど見えないようで、俺は二人の名前を呼びながら駆け寄っていった。
「ナオ、グ・・・・ミ・・・・」
俺の言葉は相手に伝わる前に消えていった。
俺と目が合ったナオは微かに口元を歪めるとグミの顔に近づき・・・・・・・
まだ俺は夢の中にいるのか・・・?今目覚めることができないのか?
しかしそう都合よく事が運ばれるはずはなく、人間、そうすぐには止まれない。辺りを見回したグミの目に俺ははっきりと映っていたようで、顔を朱色に染め た。
ナオは、もうどこにもいなかった。


「あっ、あのね、シュウ・・・見た・・?」
そう聞かれてどう返したらいい?あんなとこ見てこんな顔してる奴になんて顔したらいい?
「・・・・・・」
数秒の、沈黙。
それを破ったのはグミだった。
「恥ずかしいから黙っててね・・・・・・。ほら、早く買い物済ませちゃおう!」
そう言うのに、どこか無理しているのが判る。
「・・・・ごめん、ちょっと忘れ物した・・・取って来る」
精一杯の言葉だった。
それだけ言うとグミの返事を待たずに踵を返した。後方でグミが何か言っていたが、俺の頭は理解していなかった。


当時の姿のままひっそりとその空き地はあった。
小さい時ナオやサイン兄と遊んだ場所――その思い出も今やいいものなのか判らない。
当時より小さく見える木を上り、幹に隠された布を取り出す。昔三人で修行していた時に使ったものだ。
それを向かいの木に括り付け、各々の武器で狙う。昔と同じように布を付け、銃を構える。指に力を入れると布の真ん中に円形の穴が開いた。
ナオが、憎い。
あの時ナオとは目が合った。そして笑った。故意にやったとしか思えねえ。
確かに俺はグミの彼氏でも何でもない。二人にとやかく言う資格はない。
だが、何故、あの時でないといけなかった?
俺の目の前でなくてもよかった筈だ。
ナオが、憎い。
その思いだけを乗せて引き金を引いた。
ナオが
ナオが
ナオが――――
布は、ぼろぼろになって地面へ落ちた。
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