私は渡された書類に、ざっと目を通してみる。上から順に、いくつかの文にそれに対する 記入欄も同じだけ。そして、一番最後には……シュウの言ってたギルド名? としっかり書いてある。
 ほんと、どうしよう…。
「まぁギルド名は置いといて、それ以外のをどうにかしません? 例えば、このギルドに入る人とかから…」
ユアさんが書類の一番上の文章を人差し指でなぞる。シュウのせいで混乱しちゃった。
「あ、そうだね。ギルド名なんて後で決めればいいよね。それじゃ、一番上から順に片付けてこ」
「ああ、そうだな」
混乱させてきた張本人が頷く。私が一番目の記入欄から読み上げていく。
「1、ギルドメンバーの氏名! えっと私の名前はグ、ミ…っと。みんな書いてってー」
まず最初に私が名前を書き込んで、次にユアさんが綺麗な字でさらさらっと書き、シュウはぐちゃぐちゃっと宇宙語で名前を書く。あんなに短い名前なのに、読 めない。
「名前だけでいいのか?」
シュウが私に聞く。何で私に聞くのよ…。私は上目遣いで、店長を見る。店長も最初から答えてくれるみたいだったので安心した。
「君らは、その名前でPT屋にメンバー登録してるだろ。そこから勝手に検索するから気にすんな」
なるほど…ならどうして、こんなに記入するところあるの!? 店長はさらに続けていう。
「ちょっと調べてみたんだが、グミちゃんとシュウはしっかり登録されているが、ユアさんは登録されてない。だから、今登録するが、いいか?」
あ、そういえばユアさんのメンバー登録まだだった…。私が返事するのとほぼ同時に、ユアさんが店長の前に移動していた。
「登録するにはどうすればいいんですかー?」
「あんたいつの間に移動したんだ…。まぁとりあえず、名前と年齢…はさっき聞いたから、スキルブック見せてくれ。職業とレベルの確認をしたい」
ユアさんは、ごそごそとおっきなカバンから本を取り出す。あれって確か、紫色のモンスターとかの残骸を入れてたやつじゃ…。案の定、ユアさんの本には紫色 の液体が付いていたけど、どういうわけか染みになる様子はまったくなく、一拭きできれいになった。
「えっと、これです」
ユアさんはそういうと、自分の本を店長に手渡した。
「ふむふむ、レベル30…狂戦士…ふむふむ……ん? 何だその職業。聞いたことないぞ」
え、それまさか……。
「えっと…最初はただの戦士だったんですけど、この間主人に命令されて転職したら、その狂戦士だって言われて…。審査官の人もなんかすごく驚いていっぱい 説明してくれてたんですけど……緊張して何言ってるのかわからなくて……」
「まぁ、俺も詳しくはないが特異職のひとつだろう。君らの経歴見るとかなりおかしいな…。まぁ次、出身地と一言」
すんなり流しちゃったけど、どうやらユアさんもその異常な何とからしい。狼に変身するのもかなり異常だと思うけど…。あのシュウだってユアさんも特異職っ て聞いたら驚くと思うんだけど、今日は妙に落ち着いてる。何か考え事でもしてるのかな。
ユアさんは、少しだけ下を向いて、
「あの………出身地は多分エリニアのどこかだと思います…。そのころのことよく覚えてなくて…。一言は仲良くしてくださいでお願いします」
「へぇ、あっちからきたのか。出身地はエリニアのどっか、一言は仲良く……っと。登録完了だ! 登録料は、さっきのダイヤでいいからタダだ」
店長は話を勝手に進めて、ユアさんに本を返す。突っ込まなければいけないところはいっぱいあるだろうけど、もう放棄する。
「次やるよ。2、ギルドの信念。これ、どうしよっか」
すっごいどうでもいいけど、*が付いてるから埋めなきゃだめみたい。
「ユアさんはどうする?」
「う〜ん…信念なんていわれても…」
いきなり聞かれたら普通戸惑うよね…。シュウにも聞いてみよっか。
「シュウは、なんかある?」
「………」
返事がない。真剣に考えてるのかな…。時間を置いて、シュウの事を呼んでみる。
「シュウ〜〜!!」
壁に寄りかかって腕を組んでいたシュウは突然体制を崩して挙動不審に辺りを見渡す。
「なっ、何か用か!? 敵襲か!!?」
………ぐっすりだったらしい。もう、それは泊まるところ見つけてからたっぷりお灸すえればいいや。
「敵襲ってどこの人間よ! ギルドの信念の話よ!!」
「信念? そんなの適当でいいじゃん」
…こいつに聞いたのが間違いだった。でもどうせ大した意味がないんなら、適当でもいいかもしれないけどね。
「じゃあ、信念は『適当』で。次いくよ。3、ギルドのマーク……。これは*が付いてないから飛ばして…ギルドの目的」
これ、信念とどう違うの……。私がこの用紙に若干イライラしてる間にシュウがぼそりとつぶやく。
「…復讐」
「え?」
小さくてよく聞こえなかった私は、聞き返す。
「復讐だよ。少なくとも俺の目的はな」
シュウは間違いなく復讐と言った。誰に復讐するのかはわからない…だけど、目的は私と同じ”復讐”だった。私は何も言わずに、解答欄を復讐という文字で埋 めた。
「えっと次は……集会場所。これは…いらないよね。いつも一緒にいるんだし」
「そうですね」「ああ」
二人ともほぼ同時に肯定する。
「同じ理由で集会定期と日時もパスね。あ……」
「どうした?」
シュウが私の口が開いたのを見逃さずに突っ込んでくる。
「次最後のとこ…ギルド名だって…」
本気でどうしよ…
続く
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