PT屋の店長サイン氏によって知らされた驚愕の事実。仲間が三人以上になると、ギルドを 編成できるらしい…。ギルドって何だろう。いまさら聞くの恥ずかしいし…。
「なぁ、ギルドってあのギルドか?」
シュウがカウンターに身を乗り出して、店長に詰めよる。どうやらシュウは知ってるみたい。
「うむ、あのギルドだ」
だから具体的に何なの…。
「なぁグミ、ユア。ギルドだってよ! 良かったな!」
「え、うん」
「?」
何のことかよくわからないけど、適当に相槌を打っておく。ユアさんもよくわかってないらしいし、早く教えてくれないかなぁ…。
シュウは私のそっけない対応に気が抜けたらしく、私の顔を覗き込んでくる。鼻と鼻が触れ合うほどに近くまで寄ってくる。私は少し距離をとって言った。
「な、なによ…!」
シュウは口元だけを動かしてニヤニヤと笑う。人を馬鹿にした笑い方して!
「もしかしてお前、ギルドって何か知らないんだろ」
ぎく…シュウの言葉が、胸の中で鈍く響く。
「知らないからなによ……。それってそんなに有名なの?」
シュウは得意そうに、腕を組んで説明し始める。もちろんニヤニヤ笑いのままで。
「ギルドっていのはだな。例えば同じ職業同士が実力を高めあったり、情報を交換し合ったりするためのちょっとした組織だ。ほら、ペリオンで戦士ギルドって あったろ。名前忘れたけど、ああいうのだよ」
ちっともわからない…。だけどもユアさんは、その言葉でピンときたみたい。
「あっ、もしかして【クレイモア】のことですか? 大陸最強のギルドって噂の…」
いまいちぴんと来ないシュウの代わりに、メガネをかけてさっきよりも知的に見える店長が説明してくれる。
「最強かどうか知らんが、あそこが戦士だけのギルドでは最大だろうな。本当に強い戦士か、素質のあるものしか入れないそうだが」
確かにそんな感じするかも。どこぞの主人が脅しに使うくらいのところだから…。ユアさんは、少し考えていたようだけど、考えがまとまったみたい。
「実はわたし…一度スカウトされたことがあったんです。あのことがばれるのが怖くて断りましたけど…」
「あそこは規律が厳しいし、上下関係も大きいらしい。入らなくて良かったなぁ。まぁ、強いものなら強いものほど権力を握れるからその点は楽だろうけど ね」
と店長がコメントし、続けて大陸全体のギルドの話をしてくれた。
「今クレイモアの話が出たが、今現在この大陸には大規模なギルドが4つある。1つはさっき説明した戦士ギルド【クレイモア】、そして魔法使いギルド【エビ ルウイング】。ここもさっきのと同じ感じだが、エルフの魔法使いがいるとかなんとかだ。次に弓使いギルド【アーキアプテリクス】。弓と弩を主に使う連中が 集まってる。評判はモンスターの討伐などで上場だ。そして最後に……」
店長が最後のギルドを言い終えないうちに、シュウが割って入る。
「アサシンギルドだな…」
「俺が言おうと思ったのに…。まぁそのアサシンギルドだ。ギルドの名前はおろか、そのリーダーや構成員もわかってないが、確かに存在している。いわゆる掃 除屋だ。金さえ積めば、多分何でもやってくれる。ギルドに交渉できればの話だけどな。とまぁこれが全部。本拠地はそれぞれ、ペリオン、エリニア、ヘネシ ス、カニングシティーだ」
ふーむ…どうやら、いろいろな町にいろんなギルドがあるらしい。でも、それが私たちとどう関係あるんだろう…。
「それで、兄貴。俺らのギルドの話はどうなったんだ?」
珍しくシュウが気を聞かせて聞く。前なら絶対しなかったのに。店長は思い出したみたいで、あわてて何かの帳面をとりだす。
「わりぃ、忘れてた。さっき言った4つのギルドとは別に、数え切れないほどの少数派ギルドがあるんだ。大体は旅先で知り合ったもの、はたまたスクールでの 同期生……とかまぁ、いろいろだ。ほとんどはたいした仕事もしてない仲良しギルドばっかりだから、正式にはいったいいくつあるのかもわからない。でも な……」
店長は一呼吸置いてから、話の続きをした。
「こういう弱小ギルドでも名が売れてくると、いろんな依頼が入るんだよ。金があるやつはさっき言ったような大手ギルドに頼むんだろうが、値が張る。だから 小さいけれども安いギルドに依頼するものも多いんだ。それでだ……お前らも、ギルドやるだろ?」
「やる!」
ってえ!? 勝手にシュウが返事しちゃった。
「ちょっと、何勝手に決めてるのよ! こういうのは相談して決めないと…」
「だって、メリットしかないんだぜ。やっても損がないんだ、やらなきゃ損損!」
ひょうひょうと言う。
「面白そうだし、いいじゃないですか。ギルド作りましょうよ、グミさん」
なんとユアさんまでも、私を説得してきた。うーん、どうしよう…。
(お前の師匠もギルドに入ってたぞ。)
小声でレフェルまでもが説得してくる。もう、私に選択肢は残されてないようだった。私は泣く泣く承諾する。
「わかったわよ…。ギルドってのを結成すればいいのね?」
「待ってました! ギルド結成料金10kになりますー」
店長はシュウ顔負けの営業スマイルで、手を揉んでいる。10kってあんた……しっかりデメリットあるじゃない…。私は財布の中を覗き見る。まだ、旅するに は十分な額のメルがあったが、10kといえば結構な出費だった。そういえばシュウと初めて会ったときに、食べたご飯代が10kだった気がする。
「う〜ん…」
思わずうなってしまう。この先何があるかわからいし、このギルドってのを結成してもただの仲良しで終わっちゃうような気がするんだよなぁ…。そう私が悩ん でいると、ユアさんが私の肩をたたいて、
「あの、これ…さっきの狩りで手に入れたんですけど」
きらきらと光る石を渡してくれた。それを見た店長は、目を\の字にして奇声をあげる。
「こ、これはダイヤモンドの原石じゃないか! これ、くれないか? ギルド代ただでいいからさ。な、頼むよ!」
「わかりました。はい!」
ユアさんは、心から嬉しそうに微笑んで、店長に石を渡した。店長もすごく嬉しそうだ。
なんかよくわからないけど、お金払わなくてもいいことになったみたい。私はユアさんにありがとうと一言言ってから、シュウにも一言、
「早く借金返してよね」
と皮肉をこめて言った。
「うっ…」
シュウは胸を押さえて、息を吐く。ふふ、結構効いてるみたい。苦し紛れにシュウは話をすり替えてきた。
「そ、それより、ただでいいって言うんだから、さっさとギルド登録しようぜ。なぁ、兄貴…早く手続きを…」
店長は服のあらゆる所についたポケットのひとつに、さっきの石をしまってから、さっきの紙を私たちに渡してくれた。
「*の印があるところは全部埋めてくれー。後は適当でいいぞ」
そう言うと、胸ポケットからペンを出して渡してくれた。私を含めた3人は一斉に紙を覗き込む。
「痛っ!」
「あ、悪ぃ」
シュウのとんがりが私の頭にぶつかった。こんなに硬いなんて知らなかった…。あまりの痛さに、目のはじから少し涙が出る。それを見たシュウは慌てて、私の 頭を撫でる。
「髪の毛がぶつかって怪我するやつは初めてだな…大丈夫か?」
と優しく声をかける。シュウの手は私のそれよりずっと大きくて、あったかくて…撫でられるの照れくさかったけど、何も言わないでいた。急にシュウの手が動 きを止める。
「おい、ここ見ろよ」
シュウが指差したのは、紙の一番下の方にある欄で、そこには「ギルド名」と書いてあった。
「ここ必須みたいだぞ」
確かに*が付いてる……。でもギルド名なんて思いつかないよ!
続く
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