PT屋さんの扉に手をかけると、カランカランといい音がして扉が開く。ペリオンのそれ とは違って、中は少し寂れた雰囲気で人影もない…あれ、店長すらもいないよ!? もしかして、盗賊の町って言うくらいだから、一緒にPTを組んで旅をしよ うという仲間はいないのかしら。
「ねぇ…ここのお店もしかして潰れてるんじゃない?」
私は、レフェルにこっそりと耳打ちする。レフェルは面倒くさそうに答える。
「とりあえず入って叫んでみたらどうだ」
なるほど、それもそうだ。
「おじゃましまーす」
私は不気味だったから、顔だけを店内に入れて店内全部に聞こえるように大きな声で挨拶する。だけど、誰からも返事はない。本当にいないのかも…。私はもう 一度、おっきなこえで呼んでみるけど、返事はなかった。
「誰もいないみたいですね……。あの、そういえばさっきから気になってることがあるんですが…」
ユアさんが、私の耳元で囁く。気になっていることって何だろう。
「ユアさん、気になってることって何?」
ユアさんは、周りに聞こえていないかどうか、辺りをよく見渡してからさっきよりも小さくほそい声で言う。
「……あの、PT屋の中に気配は感じないんですけど、代わりに…けほ…すごい血のにおいがします」
「血っ!?」
私が思わず大きな声を上げてしまったのを見て、ユアさんはお決まりのポーズで「シーっ」と言う。でもそれも遅かったみたいで、回りの人の目もこっちに集 まっていた。どうしよう…。
「ごめん、でも人の気配がしなくて血のにおいがするってことは……だよね。やっぱり入るの…」
そこまで言いかけて、背筋が凍る。私の肩の上に何か冷たいものが…!! あまりの恐怖に声が出ない。
「おや、なかなか入ってこないから強盗かと思ったら、ただ女の子かい。久々にダークサイトで気配どころか姿まで消したってのにさ」
勇気を振り絞って後ろを向くと、大きなどくろのマークがついたバンダナをしたお兄さんが私のことを覗き込んでいた。私はほっとすると同時に、恐怖と緊張が 解けて座り込んでしまう。怖かった…。
バンダナのお兄さんは、私のことを抱き起こしてから優しい口調で言った。
「驚かせてすまない。まぁ立ち話もなんだから、店に入ってくれよ」
まだ声が出ない私に代わってユアさんが聞いてくれる。レフェルは貝のように口を閉ざしたままだ。まぁしゃべられてもいろいろ面倒だからいいんだけど。
「あの、あなたは?」
「なんだいべっぴんさん。俺の名前が知りたいのかい?」
ユアさんはほんの少し、とまどいながらも
「あの…お名前じゃなくて、ここの店長さんかなと思って…」
と返す。何かこの人、ノリがシュウに似てるかも…。店長は腕を組んで宣言する。
「そうさ。俺がこのPT屋の若旦那サインよ! 仲間関係の仕事ならまかせとけ」
店長さんは、ぽんと胸を叩く。どうやら…なんとかPT屋に辿り着けたらしい。でもさっきの血のにおいがするとかの話はどうなったんだろ。もしかしてこの店 長がやったんじゃ……。
私は恐る恐る聞いてみることにする。
「あの、PT屋の中から…その、血のにおいがするって言うんですけど。誰か中に…」
「いんや、誰もいなかったと思うよ。入ってみればわかると思うけど」
えぇ〜……じゃあユアさんの勘違いだったのかな。もう、いいや…入らないと始まらないんだし。
私は子供みたいに腕を引かれて、店内に入る。中はさっき見たとおり寂れていたけど、死体も何も転がってなかった。ただあんまり手入れのされてないカウン ターといくつかのテーブルと椅子、そして大きくて古そうな箱が置いてあるだけだった。店長は、カウンターに入ると得意そうに言う。
「ほら、血のにおいなんてしないだろ」
私は横目でユアさんを見るけれど、少し不振そうな目つきをしてるだけで特に警戒とかはしてないみたい。やっぱりなにかの勘違いだったのかな…。
店主は、カウンターの中の椅子に腰かけると、さっきの箱から出っ張っていた突起を指先で押した。
その瞬間、箱がスパークして……!? 箱の中のものが動いてる!?
「ちょ…その箱なんですか!?」
店主はつまらなそうに答える。
「あーこれはね。カニングシティだけでやってる番組でな。物好きなやつらが世界中走りまわって、各地の事件とかそういうのをやってんだよ。えっと…今日の ニュースは…」
全然質問に答えてくれてない…。でもなんだか面白そう…。さっきまでぐちゃぐちゃなものが動いてただけだった箱は、店長の手刀で急にきれいになって音まで 出てきた。どうやらペリオンの風景みたい。
箱の中にいる女の人が、私に向かって何かを言ってる。
「えー、昨日未明…ペリオンの……なんだっけ…ある金持ちの家が何者かによって襲撃され、主人は重症、番兵は無傷という異常な事態ですー。主人は意識が回 復しており、先ほど襲撃者らしき3人に懸賞金をかけ、指名手配しようとしましたが、番兵の証言によると2人の襲撃者だったと言い張っており、どうやら2人 だけを指名手配したようです」
な…なんだってーーー!!! これってどう考えても……
続く
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