「シュウさん、起きてくださいー。こんなところで寝てるとモンスターに襲われます よー」
「あんた、あれくらいじゃびくともしないでしょ? さっさと目を開けなさいよ」
黒髪の少女と、銀髪の美女が独創的なヘアスタイルをした少年の耳元で、囁いている。黒髪の少女…グミはどちらかと言うと叫んでいるようだが。
シュウの顔面にめり込んだ我はすでにどけられ、顔の傷もグミのヒールで完治していた。
だが、それでもシュウが目を開ける様子はなかった。おそらく疲れているんだろう……我がシュウと同じ立場だったとしたら、ストレスで体を病んでいるかもし れない。というか、想像するのも恐ろしい。
一向に意識を取り戻す気配のないシュウを見て、ユアが一つ提案する。
「全然起きませんね。しょうがないからこのまま運びますか」
「え、ユアさんが? どうやって?」
グミの質問にユアは少しだけ考えるそぶりを見せたが、すぐに
「ひきずって…」
…!?
「え!?」
さすがのグミも、ユアの爆弾発言に目をまん丸にして驚く。それを見てユアはにっこりと微笑んだ。
「冗談ですよ。おんぶします」
あんな真顔で言われると冗談に聞こえないぞ……。
ユアは、その細腕に似合わぬ力でシュウを軽々と持ち上げると、シュウを背負って歩き出した。グミもユアの背中を追ってゆっくりと歩き出す………が、歩き始 めてからすぐにユアが立ち止まった。
「ユアさん、忘れ物でもしたの?」
とグミが問いかける。ユアは振り返って言った。
「あの、どっちがカニングシティでしたっけ?」
……。ここに着てからまだそんな二時間経ってないぞ。グミは少し考えてから元来た方向と正反対の方向を指差して、言った。
「え…多分、こっちかな? なんとなくあのビル見た気がするし…」
ダメだ…シュウの必要性が今やっとわかった。この二人で冒険するとかしてたら、今頃、目的地どころか町から出られるかどうかも怪しい。
「グミ、逆だ。そっちはペリオンだぞ」
「え…」
頼む…シュウ、早く目覚めてくれ。
*
「なんとかカニングに辿り着いたわね…」
「やっとお昼ご飯出来ますねぇ」
予想通り、元来た時間の倍かかったが、なんとかカニングシティに戻って来れてよかった。シュウのやつは一向に目を覚まさない。実は疲れていたのだろうか。
「おなかもすいたけど、先に食べちゃったら、シュウがなんか言うかもしれないよ。先にPT屋で、ユアさんのことをPT申請するか、さっきの戦利品でも売っ てこようよ」
「やっと公式な仲間になれるんですね。ちょっと…いや、とっても嬉しいです」
「私もうれしい!」
いい感じのところ悪いが、我はと言うと微妙な心境だ…。ユアは強いし、今のところは無害だが…おおかみは少し危険すぎる気がする。いくら憎んでいたとして も、あの主人に対する拷問は人間の出来ることではないと思う。
だが、今目の前でニコニコ笑いながらグミと並んで歩いているのはどう見ても凶暴な狼には見えない。それどころか兄弟…むしろ身長差から親子にすら見える。 シュウはどのような位置関係なのかわからないが…。
「あ、ここのお店のごはん美味しそう。あ、ここも…」
グミがいい匂いのする方向に流れていく。
「グミさん、PT屋さんはこっちですよー」
ユアがグミを元の道に戻す。
「はーい」
もうどう見ても親族にしか見えなくなってきた。というかグミが幼すぎる気がするのだが。無性にユアの年齢が気になってきた。こらえきれずに質問する。
「ユア、少し質問したいことがあるんだが」
「いいですよ」
ユアはあっさりと承諾する。
「今何歳だ?」
そう聞くと少し困った顔をする。何か言ってはいけない理由があるのだろうか。
「えっと……よく覚えてないんですけど多分8歳です」
「うそ!?」
我の代わりにグミがすごい勢いで反応する。見た目からしてどう見ても八歳には見えないのだが…。
「嘘じゃないですけど。年を数え始めたのがいつか覚えてないんで、覚えてる一番最後の冬から8歳ってコトです」
何だ数え年か。体におおかみが宿ると成長が早いのかと一瞬思ったぞ。
「わかった。ありがとう」
「いえいえ」
グミはまだ驚いて、指を使って何かを数えているが、どうでもいいことなのでさっさと先に進むよう提案することにした。
「シュウが起きるとまた面倒だから、早くPT屋へいこう。すぐそこに看板が見えるだろう」
「あ、ほんとだ」
気づいてなかったのか…。もう突っ込む気力もない…。
PT屋へと入っていく二人、そこで起こることは知る由もなかった。