「えっとそれで…ヴェルヴィス君。これはいったいどういうことなのかな? 詳しく説明し てくれると嬉しいんだが」
俺は黒い玉を必死で集めて、命からがらボールの中から戻ってきた。正直、青キノコ退治なんかよりも宝探しの方が数倍時間かかったという…。そのことに対す る怒りを誰にぶつけるかというと、一人しかいないだろう。最悪な審査官…もとい銃マニアのヴェルヴィス爺さんだ。俺が爺さんの胸ぐらをつかんで言うと爺さ んは、
「な…何をする…。そっちこそいったい何をやっとるんだ!! ボールが激しくバウンドして今にも壊れそうだったぞ」
こいつ…絶対、罪を認めないつもりだな…。俺は爺さんを揺さぶりながら
「激しいバトルを繰り広げてたんだからそのくらい当然よ。それより事情を説明しろ。あの青キノコの群れは明らかに俺を殺すつもりだったろ!」
明らかに怒りを込めて言う。これ以上シラを切るつもりなら一発パンチでも決めてやろうか。だが、ジジイは、
「だから、知らないって言ってるだろ! 大体あのおかしなボールだって、公式な筋から渡されたものだぞ。今朝、黒服で顔をマスクで隠した怪しげなやつ に……」
と言い出した。それを聞いて、俺はジジイの胸ぐらから手を離す。別にあいつが青い顔をしてたからではなく、気になることがあったからだ。俺はごほごほと咳 き込んでいる爺さんに聞く。
「おい…今何ていった? 黒服の怪しいやつってあからさまに胡散臭いじゃねえか! それ絶対、公式の筋じゃないし!!」
「ゲホゲホ…年寄りになんて仕打ちを…。俺が審査官になってからは、いつも気の優しいそうなおいちゃんが同じようなボールを持ってきてくれてたんだがな。 今回のやつはあからさまに怪しかった。まぁお前なら大丈夫だと踏んだんだが」
「大丈夫じゃないし…でもまぁ、それじゃあんたが俺を殺そうとしたわけじゃないんだな。悪かった」
他に俺をはめようとしてるやつがいるってことか…。こんな善良な俺になんて待遇なんだ。歓迎されたっていいぐらいなのに…。俺は自分の薄幸ぶりに少しうな だれる。俺のシルエットが廃墟の風景にやけに似合っていた。
「そういやシュウ、黒い玉はどうした?」
少しの間、黙って何か考えていたヴェルヴィスが突然口を開く。俺はその質問に答えることなく、ヴェルヴィスの前にコブシを突き出し、手を開いてみせる。俺 の手のひらにはいっぱいの黒い粒々が乗っかっていた。
「数えてないけど100個くらいはあるだろ。これでいいのか?」
「数えるの面倒だから合格だ」
なんてやつだ…。まったくこんなやつを転職審査官にするなんて、その公式のやつらは何考えてるんだ。ヴェルヴィスは、
「ちょっとスキルの本を貸してみろ。強化してやる」
と言って、手を出す。いろんなことに納得いかないが、二次試験に合格して強くなれるなら断るわけもない。
「しゃあねえな。ほい」
俺はコートの中から、本を取り出してヴェルヴィスに手渡す。この本をもらってからいろいろあったが、最初に書いたサイン以外は血痕、傷どちらもなくもとの 雰囲気のままだった。何て頑丈な本だ。
ヴェルヴィスは本を見て、言う。
「汚い字だな…。それにしても本当に特異職とは驚きだ」
この余計なことを言う癖はどうにかならないのか…。ヴェルヴィスは続けて言う。
「二次職の血印がいる。シュウ、ちょっと血ぃ出せ」
突飛すぎるよこの人…。俺は前回噛み過ぎたことを考慮して、指の先っぽだけを噛んで血をにじませる。大したことない痛みだが、自分で自分を傷つけることに 違和感があった。他人なら全然平気なのにな。
「このハンコの先に、血を塗ってくれ」
言われたとおりに赤く染まった指先を、何の記号か知らないがハンコのおうとつにこすり付ける。傷口が開いてさらに血がにじんだ。
「そのくらいでいいぞ。じゃあ…お前は晴れてトラッパーからなんかにランクアップするわけだが……」
ヴェルヴィスが語りに入りそうだったので、俺はあわてて遮る。
「いいから早くしてくれよ。なんかそろそろ帰らないと、グミあたりがキレてるかもしれない」
ヴェルヴィスは俺の話も聞かずに語りに入った。レフェルの一撃くらいは覚悟しなきゃいけないな。
「黙って聞け。お前は今から確実に強くなる。その強さでお前は何をするんだ?」
「強くなって、俺は…………」
なんたってこんな質問するんだ。そんなことカニングにいるやつなら誰だって知ってるだろう。ボケたのか?
「答えたくないなら答えなくてもいい。ただ強くなりたいというそれだけの理念で転職するやつもいるからな」
なら聞くんじゃねえ。
「だが、誤った道に行くやつも少なからずいる。強くなるってのはそういうことだ…。じゃあハンコを押すぞ」
「わかったよ。一思いにやってくれ!」
「ペタ」
早! こう、一呼吸ないのかよ。しかもハンコっていうくらいだから、どこか押すスペースがあるのかと思えば、表紙のど真ん中に押すのか。まだまだ突っ込み たいところはいろいろあったが、本が赤く目が眩むような光を放ちだしたので止めておく。
「二次転職の光は何度見てもいいな。そろそろ次のランクの名前が書かれるぞ」
眩い光で全てのものが赤く染まる中、俺はゆっくりと…そして俺の筆跡に似た文字で次の職の名が書き記されてく様子を見た。俺が見た文字は……

【エントラップメント】

名実ともに罠使いか…悪くない。この力で俺は必ず、あのときの誓いを果たす。例えこの命尽き果てようとも。
*
「いやぁ、悪い悪い…審査官がトロくて手間取っちまったー。でも合格…」
「シュウ! 危ない!!」
気づかないうちに、目の前に鉄球が迫ってきていた。例のごとくよけられるタイミングでも避けられる体制でもない。
「ぐがっ!」
顔面に思いっきり鉄球のめり込む感覚。その後に続く激痛。ああ、これが俺の日常。つらい、つらすぎるよ…。
そこまで考えてから、意識が吹っ飛んだ。