小さなボールの中とは思えない鍾乳洞の中、青い髪で特徴的な髪型をした美青年が一人腕を 組んで考え事をしていた。いや、ただボーっと景色を眺めていたといった方が正しいかもしれない。だがしかし、美青年が見ていた景色はというと美しい鍾乳洞 の形状や、澄んだ地底湖などではない。
 どちらかといえば脅威であり、危機的な状況だ。だが、少年は背を向けて逃げ出すことも、何らかの抵抗を試みることもしようとはしなかった。ただ…一人で 愚痴っていた。
「青キノコの群れ、何匹いるんだよ。こいつらを見てるとなんだか心が和むなぁ……ってなこともないな」
青髪の美青年こと俺は、ようやく背負ったままだったバズーカを取り出して、標的に向け…ずに、地面に立てかけて更に愚痴り続ける。
「リスのときもそうだったけどさ、どうしてこうも試験だか試練かは知らんけど、モンスター攻めなんだよ。もっと簡単に…例えば俺はガンナー、いやトラッ パーなんだから、銃で的を射抜いたり、ボムを仕掛けてみたり…そういう技術面の方を見てくれるだけでいいと思うんだが。あ、モンスター狩ってればそういう のも自然と見えてくるってことか」
いよいよ青キノコの大群はうねりを上げて俺を飲み込みにかかる。もはや肉眼でもはっきりと姿形が確認できるほどの距離……逃げ切れるわけがなかった。本 来、青キノコの一匹や二匹なら寝てても撃ちぬけると思うんだが、流石にこの数は無理だ。まぁ、目が覚めてる俺が負けるはずないけどな!
「おい、雑魚ども! 全員料理してやるから、さっさとかかって来やがれ!その気持ちの悪ぃ青が気にならなくなるくらい辛口にしてやるぜ」
言葉なんてわかるはずがないキノコに向けて啖呵を切るのもどうかと思ったが、自分の気分を乗らせるためにやったということにしておこう。俺は精神力を両手 に集中して、スキルを発動する。
「ボム! ボム! ボム! ボム! ボム!!」
瞬く間に赤く光り輝く爆弾が、俺の両手いっぱいに出来上がる。それを俺はバズーカに無理やり詰めこんだ。その動作にかかる時間、わずか10秒。だが、その 間にも青キノコどもはぴょんぴょんと嬉しそうに(?)飛び跳ねて、俺を襲いに来る。後ろには壁、逃げ道はない。これぞまさしく絶体絶命ってヤツだ。俺以外 のヤツならの話だけどな。
俺の目と鼻の先、青キノコの先陣を切っていた数十匹が、立ち上る火柱に燃やし尽くされる。そしてその爆炎によって前から順にドミノ倒しみたいにぶっ飛ばさ れていく。もちろん偶然なんかじゃない……俺が仕掛けた罠だ。
原理は頭のいい人間ならすぐわかると思うが、俺はあいつらの大群が見えてからすぐに、この空間の中の隅であろう壁を背にして、やつらの進行方向にボム数十 個……正確な数は覚えてないが、たくさん仕掛けて置いた。ここは空間の隅だから、あるライン…そこを通らないと俺にはたどり着けない線がある。地雷原はも ちろんそのラインだ。
「数が多ければいいってもんじゃない。大事なのは質だ」
そう言い放つと、ようやくバズーカを構えて青キノコ達…ではなく、天井にびっしりと生えた鍾乳石に向けて、爆弾を発射する。そう、俺が狙っていたのは…… キノコの破壊なんかではなく、このフィールドごとの破壊だ。
ドカンと一発目。狙いすました俺の初弾は、右手前のかなり大きな鍾乳石の中心に見事着弾し、破壊された鍾乳石は青いキノコのマッシュを作る。
二発目。今度は左上の小さな鍾乳石がびっしりと密集している箇所めがけて爆撃する。爆砕した鋭い破片は何十匹かを昆虫採集の虫のように地面に縫い付けた。
俺は三発目、四発目と続けてそれぞれ天井の右奥と左奥に爆弾を打ち出す。天井から降り注ぐ石の弾丸は、文字通り無数の青キノコを蜂の巣にする。あんなにい た青キノコもずいぶんと減ってきたような気がした。バズーカに残るボムは残り一つ。まだ百匹強くらい生き残ってるが、これ一発で決めるしかないな。
「最後の一発ってことで、お前らにはとっておきの技を見せてやる。今思いついた技だけどな」
俺は先頭と四隅が全滅したことに驚き、混乱している青キノコを見据えながら言う。そして、すでに百匹以上の青キノコを惨殺した、バズーカを天井の中心めが けて叫んだ。
「バズーカじゃ試したことがなかったが…まぁ出るだろう。『彗星』!」
バズーカ自体がが青い閃光を放ち、赤いボムを青い光線に包んで発射した。音速の衝撃は正確に天井の中心を貫通する。四つの離れていた点が、今…ひとつにつ ながった。
「グランドクロス!!」
度重なる爆撃で老朽化していた天井の岩盤が、]の形に裂け……洞窟の全ての青キノコを、あとかたもなく押し潰す。俺のいる所は落石こそあったもののなんと か無事だったが、さっきまで前方に数百メートル広がっていた景色は、今やただの土砂と化していた。正直やりすぎた。むしゃくしゃしてやった、今は後悔してる。
俺は巻き起こる粉塵が収まってから、一つのことに気がついた。
「そういや、黒い玉って…青キノコが持ってるんだよな。ということはまさか…」
過激な自分のスキルも、バズーカも、全てを押しつぶした岩盤も全てが憎くなった。せめてスコップでも持ってくればよかったな…。
続く
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