「おーい。いるんなら返事してくれー。つーかいるんだろ」
俺は、すでに廃墟と化した建設途中で放棄された建物の中を、一人で歩き回っている。さっきまではグミたちも一緒だったが、階段がぼろかったせいではぐれち まった。ま、別に俺の試験なのだから俺一人いれば十分だけど。
 俺は大声で叫ぶが誰からの返事もない。ヤツは絶対ここにいるはずなのにおかしい、絶対におかしい。念のためにありったけの声でもう一度叫ぶ。
「おい!こっちだって暇じゃないんだ。さっさと出て来い、転職教官。もといヴェルヴィス!!」
転職教官…といっても、銃が三度の飯より好きで、挙句の果てに銃専門店なんてやってるあきれたオヤジだ。その趣味も『ヴェルヴィスの銃専門店』というネー ミングセンスも最悪だが、銃弾の販売や俺にあった銃を選ぶのを手伝ってくれた恩も若干ある。それでそいつが、俺の試験を担当することになってるらしく、本 人が「廃墟で待つ」って言ってたから時間通りに、来てやったっていうのに……ふざけてるにもほどがある。見つけたら眉間にニ、三発撃ち込まないと気がすま ない。
「おいこら…あと5つ数えるうちに出てこないと、この廃墟そのものを吹き飛ばすぞ。本気だからな」
大きな声で、このフロア全域まで聞こえるように叫ぶ。流石にここまでやれば出てくるだろ。
「ご〜、よ〜ん、さ〜ん…」
何の反応もない。もしや、本当にいないんじゃないだろうな。あのクソジジイのことだ……寝坊したってこともありえる。
「にぃ〜、い〜〜〜ち…」
相変わらず反応はない。マジでいい加減にしろよ、あいつ………。俺は、右手に精神を集中して赤い楕円形のもの…『ボム』を作り出す。今までの中でも最大級 にMPを注ぎ込んだやつだ。0になっても出てこなかったら、そこら中にボムばらまいて炙り出してやる。
「ぜ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ろ!!」
「カサ…」
わずかだが、確かに何かが動いた音がした。俺はその音がした方向……ガレキの山に向けてに全力でボムを投擲する!
「クソジジイ、死ねえええええええ!」
 赤い光を放つボムが真っ直ぐな一本の光線となって、ガレキの山へと突っ込んで行く……が、突如ボムが弾けて空中に四散した。これは……。
「一次試験は合格だ。だがシュウ、目上の者には敬語を使うよう教わらなかったのか?」
見事俺の剛速球を射抜いた男、ヴェルヴィスがガレキの山から這い出してきた。何であそこだけガレキがあるのかと思ってたが、やっぱりそこにいたのか。
「うっせー! いい年こいて無理してないでさっさと出て来い。今にもガレキが崩れそうだぞ」
「うわ…足が挟まって抜けん! おい、シュウ助けろ。不合格にするぞ」
…意味わかんねえ。でもそれで不合格にされちゃ困るからな…。俺は、しかたなくジジイの腕を引っ張って、ガレキ山から引きずり出す。本当にこいつが試験す るのか…? すごい心配になってきたぞ。ヴェルヴィスは、
「ふぅ助かった。これ、もっと年寄りをいたわらんか」
とか何とかいってる。助けてやったのに何てジジイだ。俺は心底あきれた表情をして、言った。
「何でもいいから、早く試験始めろよ。あんたがこんなボロいところ試験会場にするから、連れが来れなくて待ってるんだよ」
「おお、そりゃいかんな。あんなかわいい娘ちゃんたちを待たせるわけにはいかん。特にあの銀髪の…いや黒髪のちっちゃい子も捨てがたいな。お前みたいなク ソガキには惜しい。惜しいというか釣り合わんな」
しっかりチェックしてやがる…。しかも嫌な解説つきで。
「グミたちの話はいいから、さっさと始めてくれよ」
俺はこのままだとずっと話していそうなヴェルヴィスを急かす。ほっとけば、日が暮れるまで喋ってそうだ。
「そう急かすな。変なところばかりガルスに似たな…。そういう人を急かすところとか……年寄りに対して優しくないところとかな。それよりあの子…グミとい うのか? 何でお前みたいな最低最悪のごみ人間に引っ付いたんだ? わしにわかるように説明してくれんか?」
「いい加減にしないとブチキレ…」
「冗談もわからんようじゃもてんぞ。しょうがないな……今から、お前の能力が転職にふさわしいかどうかテストをする。相手はこのわしじゃ!」
腰の曲がった爺さんが、親指で自分の胸を指している。えっと…ここで脳しょうぶちまけてもいいってことかな。まぁ老い先短いだろうし、苦しまないように俺 が……ってなんだそれ! 俺はヴェルヴィスの顔面に向けてバズーカを突きつける。
「冗談もほどほどにしないと、本当に撃っちまうぞ」
だが、爺さんは俺の脅しに怯えることなく、不適に笑いながら言った。
「どうせ弾が入ってないんだろ。ほんっとあいつにそっくりだな……まぁ、よい。試験の説明をするからその金属製の筒を下げろ」
実際弾は入ってなかったが、オヤジもそうだったとは知らなかったな。とりあえずやっと説明する気になったみたいだから、おとなしく言うこと聞いとくか。ジ ジイはおほんと大きく咳払いしてから言う。
「伝統的なガンナーの試験じゃ。耳の穴かっぽじってよく聞いておけよ。今から、このワープアイテムを使ってお前を異次元に送る。そこには試験のためだけに 存在している…なんだかよくわからないモンスターもどきがいっぱいおる。そいつらが持つ黒い玉を………いくつじゃったかな。……10、いや100個持って こい!」
なんだかよくわかんない説明だし、その黒い玉を100個って絶対それ多いって。というか最後のほう適当に決めてたし。こいつ本当の本当に大丈夫なのか?
「準備はいいな。時間無制限、もし死んでも責任は取らないぞ。よし、スタート!」
「っておい…」
ヴェルヴィスは手にした上と下で色が違う、手のひらより少し大きなモンスターボールを俺に向かって投げる。あんまりにも いきなり投げられたので、とっさに避けられなかった俺はそのボールぶつかってしまう。するとボールが中心から二つに割れて……いきなり吸い込まれた! ちょっと待て、こっち準備OKも何も言ってないし!
俺は体全体が細切れにされるような感覚の中、クソジジイの胸糞悪い声を聞いた。意識も途切れ途切れでなんといっていたのかは鮮明には聞こえなかったが。
「ぽ…もんげっ……わい」
続く
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