慣れないカニングシティの中、どうやら地元らしいシュウが先頭を切って歩いている。で も、私たちを置いて先に行っちゃってるのはその理由だけじゃないらしい。
「いや、それにしてもマジで痛い。グミは加減って言葉を知らないのか?」
どうやらシュウは朝からレフェルをぶつけられたことをまだ根に持ってるみたいで、カニングの転職所に行くときもずっと愚痴っていた。確かに少しやりすぎた ような気もするけど、謝ったし、ヒールもしてあげたし、元はといえば誤解を招くようなシュウが悪いんじゃない…。
「ヒールしたんだからもう痛くないでしょ? 男の子なんだから、いつまでも言ってないでよ」
「痛みはなくなったし、顔の形も元に戻った…でも何より心が傷ついたよ。ヒールじゃ癒えない傷もあるんだぜ」
シュウは私たちのほうを振り返らずに、独り言のように言う。私とユアさんは大股で歩くシュウとはぐれないように早足で歩く。
「一体なにが言いたいのよ」
「心の傷を癒す薬はひとつしかない……それは愛だ! だからようするに愛を…」
結局それか…! しかも周りに人がいないわけじゃないんだから、大きな声で愛とか言わないでよね。こっちが恥ずかしいじゃない…。
 私は、慣れた手つきでレフェルの本体を龍の口から外し、シュウの後頭部めがけて思いっきり……やってやろうと思ったけど、ユアさんがシュウに、
「シュウくん、それ以上言うときっとまた大変なことに…」
と忠告してくれたのでやめておいた。
「ジョークだよ、ジョーク。全く最近の若いものは、ジョークってもんがわからなくて困るな」
シュウは全く懲りずにくだらないことを言ってる。一応これから転職の試験だと言うのに、そんなんでいいのかな…。だんだんよくわからないところに移動して るし。どう見ても転職場というよりも、何か大きな建物が作られる途中で放棄されたような所に進んでるんだけど…。心配になった私は、シュウに聞いてみるこ とにした。
「シュウ、こっちで本当にあってるの? どうみてもリス港みたいなのは……きゃっ!」
私はいつの間にか私の後にいた紫の生き物に驚いて、悲鳴を上げる。なんなのこれ! もしかしてこれが二次職の試験官じゃないよね…!?
「グミさん、危ない!」
ユアさんが、私たちと始めて会ったときに使っていた果物ナイフを、紫のモンスターのいっぱいある目のひとつに投擲する。ナイフはぐさりと見事に突き刺さっ て、紫色のなにかは気味の悪い足とメル硬貨を落として消えてしまった。私は、ユアさんに感謝しつつ、何も教えてくれなかったシュウに抗議する。
「ユアさん、なんだかよくわからないんだけど、危ないところありがとう。でも、シュウ…ちょっとあの得体の知れないやつはなによ!?」
シュウは私の抗議を耳にしても、何もなかったかのように言ってのける。
「あれ、言ってなかったっけ。このあたりはモンスターが出るから気をつけろよ。あんまり強くはないけどな」
今までは気づかなかったけど、よく見るとデンデンとかメイプルキノコとか謎の生き物がいっぱいいた。そういうのはもっと早く言ってよね。
 ちなみにシゲじいの図鑑によるとあの毒々しい紫色をしたモンスターはオクトパスって言うらしい。でもどう見てもタコじゃないよ、あれは…・。だって足の 数とか色とか角とか目とか………まさにモンスターって感じ。ものすごく気持ち悪い…。
私があんまり見栄えのよくないモンスターに怯えてる中、シュウは黙々と出来かけの建物に入っていく。もちろんモンスターとかもいっぱいいたけど、ウォーミ ングアップとか言ってシュウが目に付くやつを片っ端から撃ち倒してしまった。あんまり遠くまで攻撃できない私は、あの紫のうにょうにょをやっつけるときに は銃っていいなぁと思った。ユアさんは大きな袋の中に苦かったメイプルキノコのかさや、デンデンの殻、そしてもちろん紫の足の足も素手で掴んで入れていっ た。私はメル担当だけど、あの紫のが出したメルだけはユアさんに拾ってもらった。ユアさんは大丈夫みたいだけど、わたしは絶対にあんなの触りたくない…。 そんなこんなをしてるうちに、しばらく定期的に鳴っていた銃声が鳴り止んで、シュウが言った。
「確かこの辺って聞いたんだが……あれか!」
シュウはそう言うなり、ダッシュで崩れかけの階段を上っていってしまった。しかもその階段……一番後ろの段から順々に崩れていってる!? しかも本人は全 く気づいてないという……どういう神経してんの…。私はシュウがいなくなる前に大声で言う。
「シュウ! ちょっと待って、これじゃ私たちが上れないよ!」
シュウは一瞬だけ振り返って、私たちに
「5分くらいで終わると思うから、そこで狩りでもしててくれー。すぐ戻るから!」
と一言だけ告げてあっという間に見えなくなってしまった。こんなか弱い女子を二人だけ…しかも魔物の住処に残して一人だけ突っ走っていくなんてなんてやつ なのかしら。大体自分がボディーガードだってことを完全に忘れてるし。
 とりあえず、取り残された私とユアさんは、やることもないのでおしゃべりをすることにした。もしかしたらユアさんの私情を知るチャンスかもしれない。
「ユアさん、シュウもいっちゃったし、私たちはここでおしゃべりでもして……」
そこまで言ったところでユアさんが遮る。
「グミさん、周り…」
辺りを見渡すと、無数の気配を感じた。私たちを凝視するいくつもの目……どうやらいつの間にか囲まれていたらしい。本来ならシュウもいないし、結構ヤバイ 状態だと思うんだけど、ユアさんは、焦ることもなく…むしろ嬉しそうにこう言った。
「グミさん、おしゃべりしながら狩りしましょうか」
私は、
「うん、いいよ。でもその紫のはお願いね…」
と答える。あのうにょうにょだけはちょっと触りたくない…。まぁレフェルがぶつかることになるんだろうけどね。ユアさんは槍を構えてにっこりと微笑んだ。
「はい。じゃあシュウさんが来るまで存分にやりましょう!」
「おー!」
かくして、私たちのバトル&おしゃべりがはじまった。当然メインはおしゃべりでね。
続く
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