私は体に違和感を感じて目が覚める。ここは一体どこなんだろう…。暗くてよく見えない し、なんだかすごく嫌な臭いがする。そう、あのなんていうか…拳銃の臭いだ。火薬の臭いが充満してる…ん? 火薬、拳銃……シュウ!?
そのよくわかんない連想で完全に目が覚める。よくわからないけど、私が気絶してるのをいいことにシュウが何かをやらかしたに違いない。それもこれほどの火 薬の臭いだ……あの主人とか言う人の家に山ほどのボムを仕掛けて爆砕したのかもしれない。
「シュウ! どこにいるのよ?」
結構大きな声で言ったけど、返事はない。大体暗くて、何がなんだかよくわからない。明かりをつけようにも、私のかばんがどこにあるのかもよくわからないか ら……どうしよう。もう一度シュウを呼んで見よう。
「シュウー、早く出てこないと怒るよ。暗くてわかんないから明かりを…」
「いや、もうこれ以上無理だって。お腹いっぱいだよ…ムニャ」
限りなく近くから声が聞こえた。しかもあの拳銃マニアの声…寝ぼけてるみたいだけど、どうやらすぐ近くにいるらしい。もう、頼るのは自分の勘だけだ…!  横になったまま、手探りで探そう。
 私は手のひらに全神経を集中して、まず床から…次に近くにあるものへと順に触っていく。床は何かわからないけど薄い布みたいのが敷いてあるみたい。すご く荒くてカーペットとかじゃなくてほぼ雑巾みたいなボロ布だけど。次に今度は少し厚手の布に触れる。今度のはなんかの服かな? 私は服の切れ目に沿って ゆっくり手をスライドさせていく。コツンと何かに指先がぶつかった。服の中に何かが入ってるらしい。どうやらポケットのようだ。
 私はポケットの中に指を滑り込ませて、中にあった小さなガラス製のものを取り出す。すると同時にぼんやりとした明かりが手元を少しだけ照らし出した。こ れは……炎の羽毛!? え…コレがポケットに入ってるやつっていえば…。私は炎の羽毛の明かりを頼りに、目が覚めたときに自分の頭があった付近を照らし出 してみた。
「ホンッとグミは積極的だな……ぐー」
顔の真ん前に、だらしなくよだれをたらしたシュウの顔があった。気のせいか唇がぴくぴく動いてるような…。とっさに思考がつながる……それも最悪の方向 に。
私が気絶して、気がついたら暗いところに寝てて、その目と鼻の先にシュウが寝てて、なんか言ってる……そしてこの体の違和感。これは………!
頭の中が真っ白になる。多分外側の色は違っただろうけどね。まぁとりあえず、
「なにしてんのよ、ド変態!!!」
力いっぱい顔面をグーで殴る。当然寝てるシュウは避ける間もなく、クリーンヒット…そして、暗くてよくわかんなかったけどかなり吹き飛ぶ。ドシンという鈍 い音がしたから、多分壁かなにかにぶつかったのかもしれない。あんなやつはどうなってもかまわないけど。シュウは私の一発で目が覚めたみたいで、何かを 言ってる。
「痛!!!! ちょっと待て、何で寝てる俺がいきなり殴られ…」
この場に及んでぬけぬけと……。
「あんた、私が寝てる間になに好き勝手してるのよ! 絶対許さないんだから」
炎の羽毛が放つ明かりだけでは少ししか見えないけど、シュウはかなり動揺してるらしい。
「お、落ち着け。俺はまだ何も…」
「じゃあ何で、私と添い寝してるのよ!」
「いや、してないって! ちゃんと距離とって寝たよ!!」
もうちょっとでこんなことやあんなことになっちゃうような距離だったというのに……考えるだけで…もう我慢ならない!
「じゃあどうして目が覚めたら、私の目の前にあんたがいるのよ! どうせまた…」
目が覚めて少し冷静になったシュウは私をさえぎって言う。
「わかった。いいたいことはわかるけど、その前に俺の話を聞いてくれ」
シュウは両手を前に突き出して、顔を守ってる。私はそんなの無視してやっちゃえばよかったけど、最後のチャンスをシュウにあげることにした。
「……一分で誤解解けなかったら、容赦なく殴るよ」
シュウは二秒ほど考えてから、すぐに弁解し始める。
「まず、グミが気絶してからどうなったのかを話す。お前が気絶した後に俺とユアは主人の家から逃げた。どーみても一級犯罪者にしか見えない状況にいたから な。そこで俺がグミを背負って逃げようとしたんだが、すぐに追っ手に見つかっちまって、そこからは考える暇もなくダッシュだ。もちろんユアも一緒でだ。そ れで、俺らはどこに逃げるかって話になって………」
「終了ー。処刑開始でーす」
「いや頼むからちょっと待てって!! 話、聞いてただろ?」
シュウがかなり怯えた様子で言う。全然、今の状況を説明できてないじゃない…。
「全然今私が怒ってる理由と関係ないし、第一私をシュウがおんぶしたっていうのが気に入らない。ユアさんだったらまだよかったのに…」
「いや…その件については、時間がなかったって言うか、タイミングって言うか…まぁその、すいませんでした…。でも、もうニ分…一分でいい、待ってく れ」
「……」
私は何も言わなかったんだけど、シュウは勝手に喋りだした。
「どこに逃げるか、要するにどの街に逃げ込むか…だったんだが、一番都合のいい街はカニング、つまりここだった。俺の転職にもいいし、俺の故郷だし、犯罪 者だらけで隠れやすいからな」
「それってシュウに都合がいいだけじゃない」
シュウはしまったという顔をするけど、すぐに言い返してくる。
「確かにエリニアに逃げるという手もあったが、いかんせん遠すぎる。もう一本の道はどこにいくかわからないしな。カニングのほうが何かと都合がよかったん だよ。それで今の話に移るが……俺はグミと添い寝なんかしてない。最初はそうしようとしたんだが、レフェルがうるさいのとなによりユアの視線が冷たくて無 理だった。畜生、なんであいつら………ユアと添い寝すればよかったか…」
……。言い訳、言い訳…もう、うんざり。しかも最後の一言が余計すぎる。
「それで、じゃあ何で私の目の前にシュウがいた訳?」
「いや、本当に知らないんだって! 神に誓うよ!」
「証拠は?」
「証拠………はっ! レフェル、いやユアだ! グミ、明かりを貸してくれ」
私は三度目の最後のチャンスをシュウにあげて、炎の羽毛を手渡す。ちょっと甘すぎるような気もするけど……。
シュウは明かりを頼りに、まず部屋の隅で寝ていたレフェルを見つけ出し、何かにぶつけて叩き起こす。カーンとすごい金属音がした。
「レフェル、非常事態だ! 助けてくれ!!」
「今、何時だと思ってる。自分で何とかしろ」
ナイスレフェル! シュウは、一瞬あっけにとられた顔をしたが、すぐに「ちくしょう」と言ってレフェルを投げ捨てる。私はシュウをぼこぼこにするために指 を鳴らして、次の一発に備えることにした。シュウは更に焦る。
「ユアー! 頼む、後生だから助けてくれ。反応してくれ。ユアアアアアア!!」
「…ふあーおはようございます。もう狩りの時間ですか?」
ちょっと間の抜けたユアさんの声がする。あくびのしぐさが可愛かった。シュウは眠い目をこすってるユアさんに詰め寄り、助けを求める。
「いや狩りじゃないよ。でも目を覚ましてくれてありがとう。ちょっと助けて欲しいことがあるんだよ。一刻を争うんだ」
ユアさんは眠そうな顔だけど、しっかりと答える。
「わたしのできることなら何でもやりますよ。仲間ですもの」
「なんかわからないが、目が覚めたらグミと添い寝してたんだ」
あくまで、最初からそうだったことは否定するつもりらしい。往生際の悪いやつ!
ユアさんは、上半身だけ起こして言う。
「えと…シュウさん、あれほどそんなことしたらきっとグミさんが怒るって言ったじゃないですか。きっとレフェルさんも怒りますよ」
「証言があだになったね、シュウ。観念しなさいっ!」
私は持ち慣れた鈍器を手に一歩ずつシュウに迫っていく。
「いや、だからしてないって! ちゃんと寝る前に距離とったじゃん!なぁ、ユア…頼むから思い出してくれ。このままじゃ…殺される!」
ユアさんはまだポケーっとしているけど、ようやく目が開いたようだった。
「あー、そういえばちゃんと距離とってました。お布団一つ分でしたっけ。わたしとシュウさん、グミさんの順で川の字になって寝てましたよ」
「助かった。な! ちゃんと俺、健全だったろ」
……。どうやらユアさんの証言によるとちゃんと寝てたらしい。じゃあどうしてあんなとこにいたんだろう。まぁとりあえずシュウに謝っておこう。
「うん…シュウ、ごめん。シュウってちょっとおかしいからそういうこと平気でやっちゃうと思ったから。ユアさん本当のこと教えてくれてありがとう。ユアさ んが教えてくれなかったら、もうちょっとで殺してたかも」
シュウがほっと胸をなでおろす様子がわかる。どうやら全部勘違いだったらしい。でもユアさんはニコニコしながら最後にこう締めた。
「仲良くしてくださいね。でもどうして2人とも元の位置じゃなくて、わざわざあけといた布団一つ分のスペースに寝てるんですか?」
暗くてよくわからないけど、きっと私とシュウの顔は……。
続く
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