暗い部屋の中。何人かの人が明かりもつけずに、ただ黙って腰掛けていた。
月明かりも届かない…どういうわけかこの部屋には窓も、そしてドアさえもないのだ。
どうやってこの部屋に入ったのかわからない…だが全員が一言も口を利かずに椅子から動こうとはしなかった。何かを待っているのだろうか。
 音、光、五感を刺激するものは何もなく…ただ無意味に時が経過しているように見えた。
だが、突如なにが変わったわけでもないのに部屋の雰囲気が変わった。もともと黒一色だった部屋は、黒い絵の具で更に塗りつぶしたように闇を増していく。
「ご機嫌麗しゅう…ロード」
誰かの声が聞こえた。若くもなく年寄りでもないが、どこか人間味にかけた声だった。
部屋は息苦しいほどに闇に埋め尽くされていく。
「今日集まってもらったのは、例の計画の論議のためだ。私語は慎んでくれ」
低く、重い厳粛な声で誰かが言う。低い声は更に暗い部屋に響き渡った。
「一同は理解していると思うが、この計画は我ら以外誰にも漏らしてはいけない。もしものことになったら……わかっているだろうな」
ドスをきかせた声に、何人かが息を呑む。言葉の意味は計画を知らないものでさえも簡単に理解できるだろう。
「本題に移る。実は、この計画に少し問題が起きた。万が一だが、少しばかり計画に支障をきたすかもしれない」
「ロード。それはもしかすると青い髪のガキのことですか?」
さっきとは違う…へらへらと笑うような声で何者かが言う。
「そうだ。あいつが現れたことによって、聖女の行動が制限されている。あのままでは本当の力を出すこともなく、復讐心さえも薄れていくだろう。悪魔の監視 役といい、獣といい…どうしてこうも邪魔が入る」
「ロード、後者の2人は存じ上げませんが、青髪の方に関しては少しばかり存じております」
「言ってみろ」
「はい、ロード。あいつはつい最近までカニングシティに一人で住んでおりまして、カニングスクール流の卒業試験でリス港に飛ばされていたようです」
「それがどうかしたのか」
「そこで偶然あの娘と出会い、行動をともにしたようです」
「そんなことはすでにわかっている。くだらないことで話すな」
「ちょ…ちょっとお待ちください。もう一つ重大なことを…」
「無駄に時間を浪費する気は毛頭ない。それ以上くだらないことを抜かすつもりなら、額に手裏剣が突き刺さると思え」
「青い髪の小僧が、あのガルスの子だとしてもですか?」
「ガルス…懐かしい名だな。その話は本当なのか?」
「ええ。付近の住人やスクールの生徒どもの話によると、同じ屋根の下…例の事件のときまで暮らしていたようです」
「あの一匹狼がか…それを聞いて、あいつの存在が余計に邪魔になったな」
「何しろガルスのやつです。何を吹き込まれたかわかったものではありません」
「決定だ。とりあえずあの男から始末しろ。他のやつは後からで構わない」
「御意。あいつを消すための精鋭はこちらで用意させていただきます」
「しくじるなよ。それではこれで解散だ」
暗い部屋に静寂が戻り、部屋にあったいくつかの気配もそれと同時に消失した。
第9章 ぐみ5に戻る