グミの手より放たれた我の体は、今にもシュウに止めを刺そうとしている鎧に、磁石に吸 い寄せられる鉄片のように飛来していた。シュウは壁に身を寄せたまま、ぐったりと動かない。もし我の体当たりが避けられれば、シュウはだめだろうな。当 たったところで数秒間の隙を作り出せるくらいだが…。だがその数秒が大事なのだ。
勝負は何時だって一瞬だ。先に斬られた方が負ける…つまりは死ぬ。
どちらかが生き残るなんてことはない。勝者は生き、敗者は逝く。
別に我が冷酷なわけじゃない、事実なんだからしょうがない。だから戦う者は、その一瞬に自分の持てる力全てをかける。
「ガコン!!」
我の本体である鉄球が、頭をすっぽり覆っている鉄仮面の側頭部をしたたか打ち付け、番兵をふらつかせる。どうやら軽い脳震盪を起こしたようだったが、これ も時間稼ぎにしかならない。我は今しかないチャンスを逃さずに、ありったけの声で叫ぶ。
「グミ、シュウを守れ!!」
グミはさっき我を投擲した後、すぐにシュウの前へと駆けていた。番兵は左手で頭を押さえながらも、その鎧に似合わない小銃をシュウの頭にポイントし、ため らいなくその引き金を三度引いた。恐ろしいまでの執念…3発の銃弾はシュウの脳髄を食い破ろうと慣性を完全に無視し、真っ直ぐ…迷うことなく突き進む。グ ミ、間に合ってくれ…!
「マジックシールド!!!」
グミの両手から展開された、光の盾。最高のタイミングで現れた盾は全てを拒絶し、鉛の弾など問題なく弾き返す。そして弾き返された銃弾はというと、番兵の 小銃に当たり、番兵の握力を持ってしてもその威力に負けどこかへ吹き飛ばされる。
「ヒール!」
今度は、両手を傷ついたシュウに向けてかざし、その傷を治していく。傷は順調に癒えていったが、シュウは目覚る素振りを見せなかった。まぁ傷が癒えるとい うことは、死んではいないという事なのでひとまず安心した。
 番兵は小銃を失ったのを知ると、すぐに槍に持ち替えてターゲットをグミに変更した。グミは今、武器(我のことだが)を持っていない。しかも屈強な戦士で はなく、か弱い女クレリック…格好の獲物だ。
番兵は、その重そうな鎧の隙間から血を滴らせながらも、素早くグミめがけて槍を突き出した。グミはヒールに使っていた精神力をマジックシールドに変えて、 シュウと自分を光の膜で包みこんで番兵の攻撃を跳ね返した。
グミは、マジックシールドの中で、シュウに話しかける。
「ヒール! ヒール! ヒール!! …お願い、目を開けて。起きてるんでしょ?」
シュウはグミの呼びかけに答えることなく、壁に寄りかかってうつむいたままである。その間も番兵は執拗にマジックシールドを攻撃していた。マジックシール ドはグミのMPによって作られた盾…無論、グミの精神力も絶え間なく削られている。
「シュウ! さっさと目を覚まさないと怒るよ!」
今度はシュウの肩を掴んで揺する。シュウはアンテナを揺らしながらも目を開けない。なおも番兵の攻撃は続く。
「…」
ついにグミは、シュウの肩を掴んだままうつむいてしまう。グミの大きな目のふちに何かが光るのが見えた。
ピシ。
グミのマジックシールドに亀裂が入る。そして一度入った亀裂はその規模をあっという間に広げていく…壊れるのは時間の問題だ。その刹那、
「心配かけて悪かったな…」
「え?」
グミのマジックシールドは限界を向かえ、溶けて消える。そして同刻…凄まじい轟音と共に鉄仮面が粉々に砕け散り、中に溜まっていたであろう黒い血をぶちま けた。もちろんそれをやってのけたのは…シュウの手に握られた大口径の拳銃だった。グミは、目のふちから溢れ出した涙をそのままに言った。
「死んじゃったかと思ったじゃない…」
シュウは、大口径を動かなくなった番兵にポイントしたまま言った。
「グミがいなかったら、間違いなく死んでたよ。まぁヒールよりも熱い口づけのほうが早く…」
恥じらいからか怒りからかはわからないが、グミの頬が赤く染まる。
「シュウのばかっ!!」
グミの右フックが綺麗にシュウの右頬にきまる。どうやら顔が赤くなった理由はどっちもだったようだ。
続く
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