修行に明け暮れる日々…。両親との死別から早くも8年が過ぎようとしていた…私の身体もある程度大人になってきたみたいだけど、相変わらず身長はあまり伸 びていなかった。
「師匠! 基礎練習終わりました。実戦訓練お願いします」
「まだ8時だぞ。随分早いな…」私の朝は5時の武術の稽古から始まる。初めてこの修行を始めた時から師匠はどんどん条件を厳しくしていったが、私は今じゃ 本物並みというかそれ以上の重さになったメイスの修行や、かなり長距離になったランニングも苦ではなくなったようだった。最初は運動神経ないなぁと思って たのにまるで嘘みたいだ。
「2時間も時間が余るようじゃもうお前は一人前になったのかも知れん。今日はひとつ、試験をやってもらうことにする」試験…・その言葉は私にとって嫌な 記憶しかなかった…・午後からの勉強も嫌いではないんだけど、どうにも試験前の雰囲気や勉強しなくちゃいけないというプレッシャーが嫌だった。特に数学 が…。
「なに…お前の思ってるような試験じゃない。村の外にいるメイプルキノコというモンスターを5匹ほど倒して、戦利品をもってこい。もし持ってくることが出 来たら、魔法使いとしては十分合格点だ。質問は?」
「あの…メイプルキノコって何ですか? おいしいんですか?」
師匠は私のズレた質問に苦笑しながらも、
「メイプルキノコってのはだな…。何かでかいキノコだ。村から出てすぐの森にいっぱいいる。ちなみに香りはいいが、味は酷い。香料として使われることはあ るが…」
どうやら、そのでかいキノコっていうのを5匹倒してくればいいらしい。
「わかりました! じゃあ行って来ます」そのまま村の出入り口まで駆けていく。
「そうそう…いい忘れたがヤツらは肉食で凶暴…っていないし。まぁ大丈夫だろ」
*
 よく考えてみたら村の外に出るのは初めてだった。そう…未知の世界である。私はどきど きするとかそういうのよりも怖い気持ちの方が大きかった。
嫌が応にも双頭の龍が思い浮かぶ。もちろん燃える村や死にゆく両親の顔も一緒にだ。
そのときだった。 何か気配を感じる…もしかして先生の言ってた何とかキノコってやつかしら…?
恐る恐る振り向く…予想通り…ではなく何かぬるぬるしたもの近寄ってきていた。カタツムリにも似ているけどいかんせんデカイ。どう見ても5〜60センチは ありそうだ…ふと小さい頃の記憶が蘇る。
「いいかい? グミ…村の外にはデンデンとかいう大きなカタツムリがでてとっても危ないから絶対に村から出てはいけないよ。あいつらは攻撃力は低いけど、 集団で襲い掛かってくると駆け出しの戦士ぐらいなら命を落とすこともあるんだよ)…どうやらこれがデンデンらしい。うえ、気持ちわる…とりあえずメイプル キノコのウォーミングアップだということでやっつけてみることにしようか。相手はものすごくトロいみたいだし先手必勝!
「たぁぁぁぁぁぁああ!!」
練習用メイス(練習用といっても鉄か何かでものすごく重くなってるんだけど)で正面から叩く!
「ガン!」
硬いものと硬いものがぶつかり合う音が辺りに響く…・硬い…。デンデンには全然効いていないようだった。何これ強すぎ…などと考えてるうちに精一杯助走 (?)をつけてデンデンが飛び掛ってきた!
うわ…なんかぬるぬるしたものが…気持ち悪すぎる…。とりあえず全力で押しのける。デンデンは話さないみたいだけど「うわっ」といったような気がした。 デンデンは横になって起き上がれないみたい…絶好のチャンスだ! 私はそのやわらかそうな腹(?)に向けてメイスを突き出す!
「ぴ〜」
どうやら大分効いたみたいで弱弱しい声を出しながらもこちらに向かってくる。もう一度最初と同じように思いっきり叩きつける!
「ぴ〜〜!」という間抜けな鳴き声と共にデンデンは殻だけ残して溶けてしまった。どうやらやっつけたみたい。
 デンデンでこんなに強いのならメイプルキノコって言うのはどれほどなんだろうと思いつつ、私は歩いていく。先生の言ってた森というのはあそこに間違いな いっ。
なぜなら……ものすごくいい匂いがするからだ。これはトーストに塗って食べたあれの匂いに違いない。こんないいかおりなのに不味いはずないじゃないか!  きっとこの味を知られたくないからまずいなどと嘘を……ってんん!?
 オレンジ色した大きなキノコが日向ぼっこしている…。予想していたのは赤とか青とかの毒々しいキノコだったけど全然違った。オレンジ色の傘、つぶらな 瞳、そしてこの香り…・おまけにかわいい。あれがメイプルキノコかぁ…あれを倒すなんてとてもとても…そんなこんなを考えているうちに自分の背後からいい 匂いがした。いくら鼻が悪くてもこの香りを間違うわけがない…私は戦士として一番やってはいけない…背後を取られてしまったようだった。とっさに身を翻す が…遅い。メイプルキノコは私に覆いかぶさろうと高く跳ね上がっていた。
(まずい…このままじゃ潰される!)
一瞬にして目の前が真っ暗になる。メイプルキノコは私と同じくらいの大きさだけど結構重量がありそうだった。メイスで受け止めることも出来たが、転がって 避ける事にした。
「どすーん!」
…重すぎだろあれ! 中にいったい何が詰まってるのよ? メイプルキノコがジャンプした後は丸く跡が残っていた。もし受け止めていたりしたら、練習用メイ スなどひとたまりもなかっただろう。ギリギリセーフだ。今度は私が背後を取って横からメイスを叩きつける!
「食らえっ!」
師匠が一番良く使う掛け声をとっさに使ってしまった。が、私の繰り出したメイスは正確にメイプルキノコのこめかみ(?)にクリーンヒットした。メイプルキ ノコは泣きべそをかいている。そのまま畳み掛けるように私は連続攻撃する。傘のてっぺん、顔(?)、胴体…胴体と顔って一緒じゃ…そしてとどめの袈裟切り状の一 撃でメイプルキノコは倒れて消えてしまった。ぽーんっと傘だけが残る。なんかちょっとミニチュアな気もするけど、これに違いない。まず1個目ゲッ トぉぉぉぉ!
続く