分かっていた。いや分かっていたつもりだった。
世界はわたし中心に動いてるわけじゃないし、何事もうまくいくはずはない。
でも、今回だけは…今度だけは神様も微笑んでくれると思った。
わたしがこの世に生を受けてから今の今までいいことが起こっては奪われ、失われ、忘れられ、虐げられ…正しいことだと思ってやったことは全部裏目に出て、 助けたものにまで憎まれて……
別に、褒めて欲しくて今までがんばってきたわけじゃない。
ただ、憎まれたくないから…怖がられたくないから…認めて欲しかったから…。
でも、そんな感情なしに一緒にがんばってくれる人ができた。
まだわたし自身もよくわからない”わたし”は知られていないけど…・きっと受け入れてくれると思う。
でも……
自分で縛った鎖が絡まって解けなくなっちゃったなんて、滑稽な話ね。
*
 雲が薄れ、その隙間からようやく日の光がわずかに降り注いでくる中、シュウが思いっき り間違えたユアの主人の家が、ようやく目前まで迫ってきていた。
あたりの家とは全く異なった高級なつくり、物々しくたった二人の番兵、ユアが閉じ込められていた屋根裏の牢。これほどまでに大きく立派な家を見間違えると は、シュウの頭は戦闘以外ではまるで役に立たないらしい。
シュウは右手のなかで炎の羽毛が入ったビンを転がしながら、歩いている。今にも落としそうで危なっかしいが、落としそうになるたび驚異的な反射神経で、再 度キャッチしなおしている。ユアとグミはまぁ…普通だ。
ユアが途中から黙ったのが気になるが、多分主人とやらに何か言われるのを心配してるのだろう。
我は、ああいうやつがちゃんと約束を守るかどうか自体が心配だが、こちらにもやつの言った「炎の羽毛」という最終手段がある。勝機は十分あるといえるだろ う。
ようやく屋敷の大きな扉の前にたどり着いた。二人の番兵が互いの手に握った槍を、扉の前でアルファベットのXのように交差させ、番兵を睨み付けていたシュ ウに対して、言った。
「お前は誰だ。ご主人は今大事な仕事で忙しい。用がないならさっさと…」
シュウは右手の動きを止め、大事なビンをコートにしまいさっきとはうってかわった真剣な面持ちになる。後ろの二人もつられて真剣な顔…ユアは半ば泣き出し そうにも見えるが…になる。
「大事な用があるんだ。あんたのところでお世話になっているユアって娘について話がしたいといってくれ」
番兵は、シュウの口から「ユア」という言葉が出たことで少し動揺し、後ろで縮こまっているユア本人を見て、動揺…というよりも激しい恐怖と嫌悪の入り混 じったような表情を見せる。
「…わかった。今ご婦人を呼ぶから待っていろ」
そう言った後、片方の番兵が勝手口のほうから誰かを呼んでいるようだった。
数分後、いつだったかユアにキンキンする金切り声で怒鳴った女がぎぃと言う音を立て正門を少しだけ開き、言った。
「ご主人はあんたたちと話すことなど何もないといってるよ。さっさと帰んな。それと狼女、今すぐ狩りしていいモノもってこないと、酷い目にあわせるって さ」
女はそれだけ言うと、すぐに顔を引っ込めようとするがシュウが慌てて怒鳴る。
「お…おい! ちょっと待てやこら! 少しはこっちの話も聞けよ!!」
「なんだい。私だって忙しいんだ。くだらないことで…」
女がそこまで言うと、シュウはポケットから切り札の入ったビンを取り出して女の顔の前へ突き出し、その輝きを見せ付ける。
「こいつが何か知ってるなら、くだらないことかどうかは分かるよな。そっちこそさっさと主人呼んでこないと、帰るぞ」
女は一瞬ぼんやりとした炎の羽毛の輝きに見とれた後、目の色を変えて家の中へと走っていった。
それをしかと見たシュウは振り返って、うれしそうににっこりと笑った。炎の羽毛が入ったビンを持った手の親指が立っている。
「シュウ、ナイス!」
グミもうれしそうに、シュウへと駆け寄る。普段ならまずしないことだが、仲間が増えるとあってうれしいのだろう。まだ成功したかどうかは謎だが、見通しは そう暗くはないようだ。
*
一方主人の部屋では。
「ご主人様! 大変です!」
「なんだ…こっちは今、五目並べで忙しいのだ。うむぅ…ここに打てばあっちが…」
「そ…そんなことよりもっと大変なんですよ!狼女が言っていたガキどもが、あの「炎の羽毛」を持っていたんです!」
「なんだと!? それは本当か?」
「私の目でしっかりと見ました。間違いなく本物…現在の相場では2Mをくだらない品です」
「お前が言うんなら正真正銘のものだろうな…。それでそのガキたちは何をしにきたのだ」
「何かご主人に用があるとのことで…」
「ふん。ガキの分際で俺と話がしたいとはな。まぁいい…価値をよくしらないようなら、安く買い叩いてやる」
続く