グミたち一行は、当初の目的を果たし…例の品をユアの主人に届けるために、 ペリオンの大通りを歩いていた。
「いやー今日も天気がいいなぁ…・まさに、散歩日和!」
天候は今にも雨が振りそうなくもり、天気がいいとはお世辞にも言えないが、全員気分よく歩いているので誰も突っ込んだりはしなかった。
「ねぇ、シュウ。もう体の具合はいいの?」
シュウは、グミの問いかけにこう答える。
「いや、さっきまで死にそうだったんだけど、もう絶好調よ。これなら空も飛べそうだ」
「ならいいんだけど…。それにしても何でそんなにうれしそうなのさ?」
「なんでってそりゃあ、ユアが仲間になってくれるからだよ。アレ見ただろ? 強いのなんのって!! 俺様とグミとユアがいれば鬼に金棒よ。これから装備調 達に、PT登録に忙しくなるぞぉー」
ユアは、シュウの大声に少し顔を赤らめたが、うれしそうに微笑む。
グミは続けてシュウに問う。
「ユアさんが仲間になってうれしいのは私も一緒だけど、シュウがレッドドレイクにやられたとき、なんか変なこと言ってなかったっけ? それが今機嫌がいい のと関係あるんじゃないの?」
シュウは少し考えて、答えた。
「いやーなんかあの時必死だったからさ。あること無いこと言ったかも知んないけど…とにかくユアが自由になれるってことがうれしいんだよ。それだけで十分 じゃないか」
「そうだけどさぁ…まぁいいや。積もる話は後にして、いつになったらその…でっかい家に着くの?」
「結構歩いたからもうすぐじゃないか?」
「そっかぁ」
グミがシュウのとってつけたような理由に納得した直後、さっきからずっと後ろにいたユアが口を開いた。
「あの…さっきからずっと言おうか迷ってたんですけど…」
「なんだよ、ユア。今日から仲間になるんだから敬語なんてよせよ」
グミもシュウに賛同する。ユアは、
「いやあの…敬語はくせなんで…。それより…」
「それより?」
シュウの代わりにグミが返す。
「ご主人さまの家は…」
「おいあったぞー。この家だろ」
いつの間にか遠くに移動したシュウが、周りの家から見て少し大きな家の扉の前で叫んでいる。
グミはシュウの声を聞いてすぐ、大きな家の前に走っていって言った。
「ほんとだー。シュウ、ノックしてよ」
「あ! 二人ともそこは…!!」
シュウはユアが何か言おうとしているのも気にかけず、大きめな家の扉を容赦なく蹴り開けた。
「おいこら! ユアの主人!! ちょっと話があるからでてこいやぁ!!」
シュウが扉を開けるなり発した暴言に驚いて、ユアの主人とは明らかに違う中年の女性が出てきて、金切り声を上げた。
「え…!? あなた誰ですか? け、警察呼びますよ!!!」
シュウはそれでも食い下がって、中年女性に罵声を浴びせた。
「いや、警察呼ぶのはこっちだろ!! さっさと主人出せって言ってんだよ!!」
なんかおかしいぞ、この男。言ってることも支離滅裂だし…。グミが、シュウにこっそり耳打ちする。
(ねぇ…もしかしてここじゃないんじゃないの?)
「いや、ここだろ。なんかあの屋根見覚えあるし」
注意しておくが、ペリオンではほとんどの家で同じ屋根が使われている。我が見た中で唯一違ったのは、ユアの主人の館だけだ。ユアがようやく、シュウの暴走 を止めに中年女性とシュウの間に割って入った。
「すいません、すいません! ちょっと家、間違えちゃったみたいで…本当にごめんなさい」
ユアは中年女性に何度も謝り、グミとシュウの二人を連れて家の裏に回る。
「なんだよ、ユアー。もうちょっと主人きたかもしれないのにさ」
「…最初に言わなかったわたしが悪いんですけど…ご主人さまの家は、宿から出て全く反対側です…」
「え…・」
我は気づいていたのだが、全く気づいていなかった二人の口はあいたまま塞がらないようだった。
*
(姉さん、ついにここを出る決心したんだね。その気になったらいつだって出られたのに さ。)
(うん。もうあの二人と行くことに決めたのよ。)
(そんなにあの人たちがいいんだ。さっきも姉さんが言うのも聞かないで、変なとこいっちゃったけど、大丈夫なの?)
(うん、きっと大丈夫。)
(特にあの青いやつがすごく心配なんだけど…)
(シュウさんはきっといい人だよ。多分。)
(そっか…なら心配ないね。これでやっと自由だよ。)
(うん…自由だね。)
(あの、強欲なオヤジはどうするの?)
(約束通り炎の羽毛を渡して、わたしのことを忘れてもらう。これで余計なことにはならないし、一番いいよね。)
(あのオヤジに好き勝手やられたのは気に食わないけどね…姉さんがそういうんならいいけど。)
(ご主人さまは、わたしのことを狼だと知ってからも、すぐに殺そうとしたりしなかったし、2日に一度くらいはご飯もくれたよ。だからわたし、そんなに悪い 人だとは思わないんだ。)
(ユア姉…それ十分悪い人だと思うけど…)
(いいの。拒絶されるよりは、虐げられるほうが…かまってもらえるほうがいいの。)
(あたいは絶対いやだけどな。あいつが姉さんに酷いこと言ったり、叩いたりするのを見るたびに、殺しちゃいたくなる。)
(確かにわたしもつらかったけど…あのときよりはましだったわ。)
(そうだね…。)
(うん…)
「おーい! ユアー! ぼんやりしてるとおいてくぞー」
「おいてくって、ユアさんがいなかったら意味ないじゃない!」
「今行きますー」
(…ねぇ、本当にこの二人大丈夫なの?)
(……。)
わたしは…わたしは…この二人と一緒にやってけるとそう思った。ご主人さまにアレを渡して、自由に。
そう、孤独から逃げるために自分で縛った鎖を解いて自由に…・
続く