「グミー! そろそろ稽古の時間だから、早くご飯食べていきなさーい!」
ゼフおじさんの大きな声で私の一日は始まる。今日の朝ごはんはトーストにベーコンエッグだった。ゼフおじさんは長いこと一人で暮らしてきたので、どの料理 もとっても上手だった。
「今いくー!」
私はおじさんに負けないくらい大きな声で返してベーコンエッグをかきこみ、トーストをくわえて外に飛び出す。師匠は今までは「戦士をやるにはまず体力づく りからだ」といって今まで筋トレやランニングしかやらせてもらえなかったから、「明日から実戦訓練を始める!」って言ってくれたからやる気はいつもの 2〜3倍まで上がっていた(気がした)。いつもの練習所に向かって急いで走っていった。
 (師匠って言うのはこの村の「元」戦士でものすごく強い…らしい。名前はポールというらしいが、自己紹介のときに一度名乗ったきりでその後からその名前 で呼んだり、呼ぼうとするたびに「師匠と呼べ!」となかなか怖い顔で怒鳴る。どうやら自分の名前があまり好きじゃ無いみたいだ。)
 「遅い!30秒遅刻だぞ」
うわ…いつも通り怖い顔。
「ごめんなさいっ! 寝坊しました!!」
精一杯すまなそうに演技する。30秒なんて細かすぎだよ先生。
「まぁいい…昨日も言ったが、お前もだいぶ体力がついてきたから実戦訓練を行う」私が口を挟む。
「やったー! ずっと楽しみにしてたんだ。何やるの?」
「いちいちはしゃぐな。お前は魔法使い志望なようだから、「メイス」の使い方を教えてやる…が俺の話を遮ったのでグランド10週してからだ」
口調は怒ってるけど顔はなんだか嬉しそうだった。
「冗談でしょ…。う、走ってきます…」
ちょっと後悔しながらもちゃんと訓練してくれるみたいで良かった…。グランド10週なんてちょろいちょろい。


 (はぁはぁ…ちょろくないよ…私、まだ7歳なのに10週は厳しすぎだよ先生。そもそもなんで5時から訓練なのさ。午後だっていいじゃない…) 心の中でつぶやく。まぁ訓練のためならと思い何とか走り切ると、
「よし、それじゃ訓練始めるぞ。そこに木のメイスが置いてあるからとりあえず持て」
「はぁはぁ…そ、そんな…ちょっと休憩させて…」
私は息も切れ切れで哀願する。このままだったらできる事もできないよ…
「10週くらいでだらしないな。…じゃ2分やろう。その間に休め」
2分!? たったそれだけ…? 私はたった2分しかないので、とにかく息を整えることに専念する。
「1分経過」
もうそんな経ったの…? まだちょっと…
「あと30秒」
本当にこの人、2分しか休ませない気だ…
「終了。訓練始めるぞー!」
ふらふらしながらも何とか立ち上がる。えっと練習用のメイスは…? 足元の木の棒が目に入る。ってこれどう見てもただの木のぼっこじゃ…
「それだよそれ。はやく拾え」
どうやらこれがメイスらしい。もっとカッコイイ武器予想してたんだけどなー。等と思いつつメイス(?)を拾う。
「じゃあまずは説明からだ。メイスっていうのは基本的に戦士が使う武器だが、軽くて力のない魔でも装備できるという特徴がある。まぁ魔法使いは魔力を上げ るために棒や杖を持つことが多いようだが、俺はメイスを薦める。理由は簡単、魔は体力がなくてやられやすいから一人でいる際は遠くから魔法で戦わないと常 に死の危険に晒されるからだ。だがこのメイスの使い方をマスターすれば相手の攻撃から自らをガードし、MPが尽きている場合でも戦うことが出来る。特にこ れは魔法使いの中でも最も攻撃力の低いクレリックに向いている。まぁ大まかにはこんなもんだ。質問はあるか?」
「ないです!よく分かりました〜」
どうやら戦う魔法使いに向いてる武器らしいということは分かったけど、杖や棒もいいなぁ…
「それでは訓練を始める。習うより慣れろだ。まずそこらへんに木が立ってるだろ。適当に殴りつけてみろ」
ぇ…手取り足取り教えてくれる気が全くないとかそれ以前にそれって訓練なの? とりあえず私は言われた通りにメイスを両手で持ち、木に殴りかかる。
「わぁぁぁぁぁぁあ!!」
袈裟切りのように殴りつけるっ!
「コン」
…・。いいのか悪いのかさっぱりわかんない。
「上出来だ。今度は横から殴りつけてみろ」
言われた通りにする。
「カン!」
…なんとなく効いてるような…
「次は真っ直ぐ叩きつけるように」
「ゴン!!」
体重を乗せたので少し重い一撃だったようだ。
「まぁ…そんなもんだろう。とりあえずこの3つが基本だ。じゃあ今から袈裟100本、横100本、叩きつけ100本これを1セットで3セットやれ。慣れて きたら好きな順番でやっていいぞ」
「あの…それだけですか? 何か技とかは?」
「基本が出来たら教えてやる。じゃあスタート」
……やるしかないか…。
「コン、カン、ゴン!コン、カン、ゴン!………」
ただ木を叩いてるだけなんだけどなんだか面白くなってきた。リズムを変えてやってみる。
「コン、コンカン、コンコン、カン、ゴン!…」
50回を過ぎた頃だろうか、だんだん手が痺れてきた。でもそのまま続けてみる。
「コン、カン、ゴン!コン、コン、カン、カン…・」
やっと1セットだ…あと2セットも? まさかこの後に本当の訓練とか言うんじゃ…
*
「はぁはぁ…師匠、終わりました…」
途中休憩を挟んで2時間もかかった…もういつもの終了時間になっている。
「よし、じゃ今日の訓練はここで終わりだ。明日からのスケジュールを言うぞ」
え…実戦訓練は?
「あの、今日は実戦訓練はしないんですか?」
師匠は不機嫌そうに言う。
「もう終了時間だ。10時から魔法の修行があるだろう。実戦訓練がしたかったら、今日やったことをもっと早く終わらせろ。明日も同じことやるからな」
「え〜」修行ってのは厳しいものだって分かってたつもりだけど、少しは私の歳考えてよね…
「ちなみにあの木のメイスは日を増すごとに重くしていくから覚悟しとけよ」
意地悪そうに笑う。この人は私のこと虐めて楽しんでるんじゃないのだろうか?
続く