息つく間もなく襲い来る火炎弾の応酬を目の前に、30レベになりたての戦士、ガンナー、 そしてクレリックだったらどうするだろうか。
一目散に逃げ出すだろうか? 
成す術なく焼き尽くされるだろうか? 
それとも必死の抵抗を試みるだろうか?
まぁ我が思うに、どれほど最良の選択をしたとしても間違いなく生き延びることはできない。
なぜ、そう初めから不可能みたいな言い方をするかと思うものもいるかもしれないが、この理由を聞けば納得するだろう。
3人は今、レッドドレイクを目前に武器を構え、しかもその恐竜はあまつさえ強大な力を持っているというのに、一度瀕死状態まで陥ったために更に限界以上の 力を出して襲い掛かってきているのだ。
*
「グミ、ユア…チャンスは一回きり、ファイナルアタック行くぞ!」
「ウオーン!!」「うん」
天に向かって、吼えたのがユア…そして白狼にまたがっているのはグミだ。MPもろくにないというのに、あくまで闘うつもりらしい…。
「野郎が燃え尽きる前に、例の物を頂くぞ!」
「振り落とされないに気をつけてね。じゃあ行くよ!!」
グミは、両手で白狼の首周りを掴み、頷くことによって了解の意を現す。
「いっせーのーで!!」
三匹は一斉に岩陰から飛び出し、レッドドレイク向けて全力疾走する!
目標まで50メートル弱といったところだろうか…いくら彼らが早いといっても結構な距離である。
「ボン! ボン! ボンボン……」
遥か遠くから、レッドドレイクが火炎弾で狙撃してくる。その数はさながら横殴りの豪雨とも呼べる数だ。
しかし一人の男と狼と少女のコンビは狙い撃ちされないよう、アイコンタクトで二手に分かれて走る。
荒れ狂う炎の嵐の中…シュウは、ブーストによって強化された動体視力を武器に、必要最小限の体の動きだけで全ての攻撃を避ける。一発でも当たってしまえば 致命傷になるが、今のところシュウは大丈夫そうだ。
「グオオオオオオオ!」
さっきより迫力を増したレッドドレイクは、シュウに攻撃を当てられないのを見て狙いを白狼に変えた。
ついさっきまで公平に放たれていた火炎弾は、白狼とそれに乗ずるグミだけに集中して発射される。隙と呼べそうなものはほぼ数センチ…だがほとんど弾幕状態 で避けることなど到底…
「ウオオオオオオオンン!!!」
白狼の咆哮とともに、白狼の体内で生成された自分の分身が、火炎弾へ向かって飛び出していく。もし本物の狼ならば一瞬にして灰だったろうが、もともと実体 を持たない分身にはダメージを与えることもなく、次々と襲い来る火炎弾を氷漬けにしつつ、レッドドレイクへと疾走していく。
「ユアさん!」
グミは白狼の首に必死でつかまりながらも叫ぶ。
「あたいはユア姉さんじゃないよ。それに言われなくても最初から…」
白狼は自らの分身を盾に、さらにスピードを上げる。
「そのつもりだよっ!!」
白狼は、炎のトンネルをくぐりレッドドレイクの間合いへと滑り込んだ。
*
(…こっちへの攻撃が手薄になった。あの野郎…俺の攻撃が効かないと思って油断してるな。まだ奥の手は…ある!)
俺は、レッドドレイクの攻撃がほとんど0になったのを見越して、走りながらも久々にバズーカを腕に装着する。
銃の威力はあがってなくても、腕力は間違いなく上がってるはずだ。撃ってだめなら、ぶん殴ってぶっ倒してやる!
俺は、前方でグミたちに向かって炎を吐き続けるレッドドレイクに対し、思いっきり跳躍する。
「グミ達に何やってんだヴぉけえええええええ!!!!」
俺の右手はうなりを上げ、レッドドレイクの頬面に必殺のフックを叩き込む! …はずだった。
「スカッ!」
俺の右手は勢いよく空を切り、そのまま勢いを殺しきれず、俺はぐるりと回転し落下する。何であれが避けられるんだ? 死角からあんだけのスピードで殴った んだぞ!?
「避けたんじゃなくて、崩れたんだよ!」
狼のくぐもった声。崩れたって…どういうことだ? 俺は地面で仰向けになりながら考える…が、すぐさま白狼に起こされる。
「何寝てるんだい! 殺るなら今しかないだろ!!」
何で崩れ落ちたのかは知らないが、最後のチャンスであることは間違いなかった。ブーストがいつまでもつかわからないが…せめてあと一発!!
俺はレッドドレイクの後ろ、白狼はレッドドレイクから見て左、そしていつの間に降りたのかグミは右から、3人同時に飛び掛っていた。
「炎の…!!」
「羽毛は…!!」
「もらうよ」
グミ、俺、ユアは全員同じ部位…つまりはレッドドレイクの頭部めがけて必殺の一撃を繰り出した。
まずは俺の一撃! 俺はヤツの後頭部めがけて、さっきと全く同じようにフック放つ。ただしただのフックではない…俺は、バズーカがやつの頭に吸い込まれる 直前に、逆方向に榴弾が発射されるよう、トリガーを引いた。
「ブレイクハンマー!!!」
「グシャ…」
今まで何発もの銃弾を弾いてきた鱗も、あまりにも重い一撃に耐え切れず、あっさりと砕かれ、そのまま頭蓋骨をもひしゃげさせる。次はグミだ!
「スパイク!!」
グミが思いっきりスイングしたレフェルは、既にひしゃげてしまったレッドドレイクノ頭へと勢いよくぶつかるり、さらに鋭いとげを出して、レッドドレイクの 脳髄まで貫く。最後は…
「とどめはあたいがもらった!! ビースト…クロー!!!!!」
瞬時に白狼の爪には冷気の風がまとわりついて、恐ろしく長い爪…というよりは5本の剣のようになった。そして…鋭さと殺傷力を増した5本の刃は、既に変形 し何がなんだかわからなくなったレッドドレイクの頭を容赦なく胴体から切り離した。
続く
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