時限爆発したボムで舞い上げられた、砂煙の中…2頭の凶獣が睨み合っていた。
一方は巨大な頭部を持つ赤い恐竜…レッドドレイク。兼ね備えた武器は鋭い爪と牙、異常な膂力と体内で生成される火炎の礫。大陸にこいつと並ぶ強さを有する ものはそれそうといない。
もう片方はというと、全身を覆う白い体毛とトパーズの瞳を持った、狼。武器は前者と同じく爪と牙、がしかしレッドドレイクの燃え盛るような激情に対し、こ ちらは切り裂くような冷酷さを身にまとっていた。
互いの状態は、先ほどの大爆発にもかかわらず、ほぼ無傷。この状況下で勝負の行方を決めるのは、どちらの戦闘能力が上か…それだけだった。
 白狼とレッドドレイクはじりじりと間合いを詰めていく。お互い怯むことなく、歩を進め続ける。少しでも恐れを見せた瞬間、それが決定的な隙となり、己の 生命を奪うということは、頭では考えずとも体が覚えているようだった。
一歩、また一歩と二匹の距離が縮んでいく。二匹の距離が縮まるごとに、張り詰めた緊張感はさらに重みを増し、2匹を包む。先に動いたのは…レッドドレイク だ!
「ぐおおおお!!」
レッドドレイクは白狼が火炎弾の射程距離に入るやいなや、雄叫びとともに今までとは比べ物にならないほどの巨大な火炎弾を複数吐き出す。いくら白狼といえ ども当たればただではすまない。
ただし、当たればの話だ。おおかみは目前と迫る炎の塊を目にし、皮肉を込めて呟く。
「それは効かないってさっき言ったはずだろう。その馬鹿でかい頭に脳みそは、はいってないのかい?」
どこからこの余裕は現れるのだろうか…。まぁ理由はこの後すぐに、わかることになる。
「こぉぉぉぉぉ…」
白狼の並んだ鋭い牙の間から、白い気体が漏れてくる。これは…
「ワオオオオオオオオンン!!!!」
限界まで開かれた白狼の顎からは、咆哮と共に一匹の狼が生み出され、恐れることなく火炎弾に飛び掛っていく!
二つの特殊攻撃は互いにぶつかり合い、先ほどとは比べ物にならない激しい爆発を起こす。
砂煙とは違う、異常な圧力を持った爆発によって視界は一瞬失われたが、時が経つにつれ次第に視界が蘇ってくる。初めに煙の中に移ったのは、巨体を持つレッ ドドレイクだった。白狼の影はない。
霧が完全に晴れる。
先ほどの白狼の口から吐き出された狼は消え失せ、火炎弾は煙を立ち上らせるだけの、ただの岩の塊と化していた。傍目に見ると、ここの旗大和が転がっている だけで、何もないようにも見えるが、レッドドレイク側の地面は黒く焼け焦げ、白狼側の地面はこの大地では今まで一度もなかったであろう…霜が地面を覆って いた。
どうやら攻撃は相殺したらしい。だが…攻撃が相殺したとしたら、なぜ白狼の姿が見当たらないのだろうか。
我の脳裏に一抹の不安がよぎる。白狼…いやユアはまさか……
「ウォォォォォォ!!!!」
「シュウ……絶対死なないで!!」
我の思考は天から聞こえた白狼の咆哮と、グミが詠唱した呪文にかき消された。
*
時はユアが飛び出したすぐ後まで遡る。我は、白狼とレッドドレイクの激戦の行方を見守っ ていたが、グミとシュウの話を聞き流していたわけではない。どちらも重要なことなのだが、こちらの方は聞くに耐えない話だった。
「…俺みたいに壊れるって、どういうこと?」
グミはシュウの意味不明な発言に、戸惑いを隠せずにいる。意味不明は今に始まったことではないのだが…シュウの様子が出会った頃とはまるで違う。
「それを言ったら、ブーストをかけてくれるんだな!?」
「ことと次第によっては…」
グミはシュウの異常な迫力と、必死さにたじろぐ。先ほどとは全く立場が逆だ。
「手短に言う。俺は生まれたときは既に一人だった。欲しいものは与えられず、必要なものまは全て奪われた。ほんのひと時オヤジがいたが…それもまた奪われ た。ガキの俺が生きるためには、身を粉にして働かなきゃいけなかったんだ。…その結果。心が壊れた」
淡々と自分の、身の上を明かすシュウにグミは絶句し、我を強く握り締める。我は…ユアと会ってからのシュウの急変ぶりが少しわかった気がした。
「…そんなに大変だったんなら…どうして、自分の命を大切にしないの? 本当に死ぬかもしれないんだよ?」
「復讐を遂げるまでは、地獄のやつらを全員殺してでも蘇るから…やってくれ!」
グミは、目を潤ませながらも最後に一言こう言った。
「わかった。でも…シュウ、絶対死なないで!」
*
「ブースト!!」「クラックファング!!!」
少女の泣き出しそうな叫びと、くぐもった獣のうめきが重なり、終結への最後の加速が始まった。
続く