白狼がレッドドレイクとにらみ合っている中、グミとシュウは口論していた。どうしてこ の二人はこうなんだ…シュウは重症、むしろ瀕死。グミはにらみ合って牙をむき出しにしている白狼の上に乗ったままだ。本当に状況をわかってるのか?
「はぁ…はぁ…グミ、いつから猛獣使いになったんだよ。生まれ持った素質か?」
「そんなわけないでしょ! シュウは重症なんだから、黙って隠れててよ。レッドドレイクなら、多分ユアさん…じゃなくておおかみさんが何とかしてくれる よ」
「いや…一人じゃ無理だ。俺も加勢する…ぐほぁ!!」
シュウがまたも血を吐く。無理しすぎにほどがあるだろう。
「だから、今のシュウじゃ足手まといだって! ヒールかけるからそこの岩陰で休んでてよ」
「だからまだ何とかなるって…それに、逃げるとしても伝えなきゃいけないことが何個かあるんだよ」
「何よ。今、臨戦状態というか戦闘状態なんだから早く言って」
「このあたりにたくさん地雷仕掛けたから多分逃げられない。それとあと10秒くらいで爆発すると思う」
「それを早く言いなさいよ!! どどど…どうしよう!!」
どうしようとか言ってる場合ではなかろう…。が、しかしどうしようもない状況であることは確かだ。白狼が突然口を利く。
「あたいが岩陰まで送ったげるよ。しっかりつかまってちょうだい!」
白狼は言い終えると同時に、レッドドレイクに背を向け、顎でシュウをしっかりと加えて猛ダッシュする。
「ちょっと…そっちには地雷が…!!!」
走り出した白狼の脚は、もはや止めることなどできない。しなやかな前足が、赤い爆弾へと伸びる。
「ドカン!!!」
2人と1匹の体が爆炎に包まれ…てはいなかった。確かに地雷を踏んだはずだが…シュウお得意の不発弾か何かだろうか。いや…違う。
白狼はシュウの地雷を踏んだ瞬間に、爆風の力を借りて跳躍したのだった。2人と 1匹の塊は、跳躍したはいいものを、空中ではスピードを殺しきることは到底できず、岩壁に激突する。…シュウは白狼の口にくわえられたまま壁に激突した が、十中八九死んだような気がするのは我だけだろうか。
「いてててて……死ぬとこだったぜ」
予想に反して、シュウが一番最初に起き上がり、次に白狼、グミと起き上がる。
「地雷があるならもうちょっと早く言ってくんないと困るよ。大事な足を怪我しちまったじゃないか」
白狼の脚は、真っ白な毛が黒く焦げて酷い有様だ。グミは我をシュウと白狼の間にかざし、
「言ったつもりだったんだけど…ヒール!!」
緑色の淡い光がそれぞれの傷口に集まり、急速に癒していく。白狼は自分の足から痛みが消え、新たな毛が戻るのをみてだいぶ驚いたようだった。シュウといえ ば…慣れたものである。
「…痛いのがどっかにとんでったみたい…。でも、痛みがないと、なーんか生きてるって感じがしないねぇ…」
白狼はすっかり痛みの消えた脚を、べろべろと舐めながら呟く。
「じゃあ、あたいはあいつをぶっ殺してくるよ。二人はそこで待っててね」
ぶっ殺すとは…今までのユアとは、まるっきり口調も性格も異なってるな。それに、炎の羽毛を奪うことが目的なのだが…。今にも、もとの場所に駆けて行きそ うな白狼を見て、シュウは言った。
「待ってくれ! 炎の羽毛は炎のそれと同じ熱さだから、下手に取ろうとしても手がミディアムになっちまう。気をつけろ!!」
白狼は歯をむき出して笑ったような顔を作ると、こう言った。
「そうなのかい。だけど、炎の熱さくらいなら、何ともないよ。じゃあ殺ってくるね」
白狼が走り出した直後、突然いなくなった敵を探していたレッドドレイクが、轟音とともに爆炎に包み込まれ、白狼も爆炎の中へと姿を消した。
*
一方グミとシュウだが、ちょっと元気になったシュウがとんでもないことを口走っていた。
「そんなの無理だよ! あんたさっきあんなに血吐いて、苦しんでたのによくそんなこと…」
「俺は不死身なんだよ。だからあと一回だけ、頼むよ!」
「どうして、ユアさんのためにそんなに無理するの? 死んじゃうかもしれないんだよ?」
「人間なんだからほっといたっていつかは死ぬんだ。いつ死んだって同じだろ」
「そういう問題じゃないでしょう! 私は、どうしてほとんど見ず知らずのユアさんを、命を賭けてまで救おうとしてるのか聞いてるの!」
「早くやらないと、俺みたいにぶっ壊れちまうからだよ。だから頼む…俺にもう一度ブーストをかけてくれ!」
続く
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