俺は自分のことが嫌いで嫌いでしょうがない。
利己主義な自分。
自分だけが生き残るためにどんなこともしてきた。
何一つ守ることができない自分。
守るべきは俺なのに、俺が弱いから逆に守られる。
圧倒的な力の前に抗う術のない自分。
散りゆく命を見取ることすらもできない自分。
約束を果たせない自分。
自分で自分を殺すこともできない自分。
失ってはならないものが失われ、どうでもいい俺だけが残る。
俺は今まで何一つ…。
だから…昔の俺みたいに、地獄でだれからも手を差し伸べられずにいるユアに、俺が……俺が手を…
*
ブーストによる精神の高揚と身体能力の向上。体の変化に頭が慣れていくにつれ、最初にあった…精神が置き去りにされ体だけが動いてるような違和感がなくな り、世界はさらに加速していく。
「グオオオオオオオオオオオオオ!!」
俺と対峙していたレッドドレイクが咆哮し、その口内から人の頭部大の火炎弾が発射される。先ほどまでは避けることすらも危うかったが、今の俺にとっては避 けることなど造作もない。動体視力も普段の倍かそれ以上になってるみたいだ。
俺は両袖から銃を取り出し、レッドドレイクの鱗が覆っていない部位…目や口といった粘膜に照準を合わせ、銃撃する。当たればヤツと言えどもただではすまな いはずだ。
「パン! パン! パン! パンパン!」
双銃から連続で吐き出された灼熱の弾丸は、それぞれレッドドレイクの両目に一発ずつ、口内に三発と疾走する。
俺はブースト状態でも変化することのない銃弾の速度に、苛立ちを覚えながらも、次の攻撃のための布石をする。
「ボム!」
俺は右手に精神を集中して赤い閃光を放つ爆弾を作り出し、レッドドレイクの周りを囲うように地面にセットしていく。1,2,3,4…計10個ほどの地雷 だ。踏めばもちろん、踏まなくても30秒後に次々と爆発する。あとは…
「ガキン!」
さっき撃った銃弾が今頃になって、ドレイクの装甲のような鱗に弾かれる。どうやらまぶたと鋭く並んだ牙を使うことで、急所への攻撃をガードしたらしい。呆 れるほど硬い鱗だな…。
だが、これも俺の読み通り。ヤツの目が閉じられた一瞬の隙に、炎の羽毛を奪うんだ!!
「うおおおおおおおお!!!!」
俺は自分に気合を入れるために、雄叫びを上げ、自分の仕掛けた地雷を踏まないよう気をつけながら、炎の羽毛の生えている脚めがけて疾走する! …・いけ る!! 炎の羽毛を…この手に…うぐっ!!
俺は突然襲った全身を苛む激痛と、燃えるような内臓の熱さにその場にうずくまる。おい…こんなところで…
「ぐはっ!」
さっきから限界を超えた体にさらに鞭打って頑張ってたが…俺は激しく吐血し、あまりの痛みに意識が遠くに行きそうになる。
(畜生…炎の羽毛を目前にして、ブースト切れの副作用か…。グミはよくこんなのに耐えた…というか死ななかったな。)
俺は痛みを無視して、震える腕を炎の羽毛に伸ばす。あと数センチ届かない…でもまだ終わったわけじゃない!
…どうせ死ぬなら何か一つでもやり遂げてからだ。
俺は地面に這って少しずつ、少しずつ、炎の羽毛に近づいていく。まさに指先が炎の羽毛届かんとしたその瞬間…レッドドレイクと目が合った。たてに細長く、 感情を持たないはずの爬虫類の瞳…だがはっきりとした殺意と歓喜が見てとれた。
間違いなく殺されるな…だが、俺の命の代わりにこいつをもらうぜ!
俺は限界まで腕を伸ばし、炎の羽毛を握り締める。
「あちいいい!!!」
じゅうううという小気味の悪い音がして、手のひらが焦げ、俺は反射的に手を引っ込める。
これは…炎そのものじゃねえか!! こんなもの奪えるはずがない! ちっくしょ…せめて軍手持ってくればよかった…。
そんな後悔も束の間…・レッドドレイクは動けない俺に向かって、残酷に火炎弾を吐き出す。その数…なんと3個。俺の今の状態なら殺してから火葬してもお 釣りが来る。猛り狂う炎の死神が俺に死刑宣告を下す最中、後悔の念だけが残る。
(結局何一つできなかったまま、俺は終わるのか? 誰かを守ることも、守れなかったやつの復讐を果たすことも何一つ…!!)
「何勝手に諦めてんのよ、このバカ!!」
「このくらいのことでへばるなんて情けないねぇ」
あぁ…なんか幻聴まで聞こえてきた。いや、天の声か? それにしても火炎弾のヤツ遅いな…生き残っちまうぞ?
「ヒール!!!!」
聞きなれた声が叫ぶようにして回復呪文を唱え、全身の苦痛が和らぐ。俺は何とか口を開く。
「また守られちまったな。グミ…だろ?」
「グミ&ユアさんよ。ほらさっさと立つ!」
俺は無理やり体を起こされ、二人の姿と自分の置かれた状況を確認する。
ただの岩となった火炎弾。白い狼にまたがる黒い服のグミ。グミを背に乗せたままレッドドレイクと対峙している白狼…どうやらかなりすげえ助っ人が来たみた いだな。
続く
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