…無理だ。帰ろう。私だって命は惜しいし、シュウだってきっと同じだよ。別にユアさん のことを嫌いになったわけじゃないケド…。
確かに身長だって髪だって力だって胸だって8割がた負けてると思うけど…そんなの気にしてないし、関係ないよ…ただ物理的に無理なだけ。
私は今まで復讐を遂げるまではどんなことがあっても諦めないって決めてたんだけど、赤い岩に燃え盛る火炎、おまけに喧嘩…というよりも殺し合いをしている レッドドレイク。この中に自分から飛び込んで行くなんて、相当自殺願望の強い人か、本当に強い人、じゃなかったら狂った人…それ以外にはちょっと思いつか ない。
…とにかくどうにかしてシュウに作戦失敗を切り出すかだけど…。
「うん、無理だ。帰ろう」え、ストレート杉…ってもう帰り支度までして逃走経路確保してるし…。
私も表向きには止めておかないと…。
「シュウ、何勝手に決めて帰ろうとしてるのよ!! 残されたユアさんはどうなるの?」
私の言葉はシュウの痛いところを抉り、シュウは逃走経路からユアへと視線を移す。ユアさんは、
「シュウさん。帰り支度はまだ早いと思いますけど…。どうかしたんですか?」
うわぁ…傷口に塩を塗るとはこのことだ。シュウは、
「これは見た人しかわかんないと思うから、とりあえずその穴覗いてみな」
ユアさんは流れるような動作で穴を覗く。そしてしばらく中を見渡した後、ビクッと反応してこちらに戻ってくる。
「…やっぱり無理そうですね。ホント…こんな私のためにここまでしてくれたのはシュウさんとグミさんが初めてだったのに…残念です」
ユアさんは途切れ途切れに言葉をつむぎ瞳を閉じる。そして閉じた瞳から一筋の光がこぼれ落ちた。それは私でもうっとりするほど綺麗、それでいて本人の悲し みが直接伝わってくるような…そんな涙だった。それを見たシュウは、あまりの衝撃からか両目を見開き奥歯をかみ締めている。
(また女を泣かしちまった!! ちっくしょう…俺はこんなに無力で、レッドドレイクなんかにビビってる雑魚なのか…いや違う!!)
「ドン!」
シュウが突然立ち上がり、ユアさんの肩を掴んで大声で叫ぶ。
「やっぱり行こう! 君に涙は似合わない!!」
…そんなこと私に言ってくれたことあったっけ…あ、泣いたことなんかなかったっけ…って行くの? ユアさんは涙を拭いて立ち上がる。
「私のために…ありがとうございます。それじゃ気を取り直していきましょう!!」
やっぱり私も行くことになってるんだ。こうなったら一蓮托生、当たって砕けろよ!
私が一人意気込んでいるとシュウが横槍を刺す。
「お〜いグミ。行かないんなら俺とユアで行っちまうぞ。まぁ中に入れば別行動だけどな」
「今行くから少し待ってよ!」
私は両手でしっかりとレフェルを握り締め、自分に気合を入れる。
(行くよ…パパ、ママ。先立つ不幸を…って先じゃないわね。)
何自分に突っ込んでるんだろ。とにかく私たちはこっそりとレッドドレイクの住処に入り込んだ。
*
我だ。何とかしてレッドドレイクの住処に入り込んだグミたちは岩陰に潜み、炎の羽毛をもつレッドドレイクを捜していた。
「まだ見つからないのか?」
グミは急にしゃべった我を本体から鞄へつっ込む。
(ちょっと…静かにしてよ。見つかったら終わりなんだからね…。炎の羽毛はまだ見つかんないよ。)
何でもいいから出してくれ。周りが見えないし、いつぞやのチョコの食いかけらしきものが入っている。我が鞄の中で出してもらえるのを待っている中、シュウ が小声でグミとユアに耳打ちする。
(あった。あそこのレッドドレイクの左脚を見てみろ。)
「あれが炎の羽毛なの…?」
ようやく鞄から出してもらった我は、グミがあれと呼んだものを見るために、自分の視野に入りうるすべてのレッドドレイクを眺める。一匹の赤く逞しいレッド ドレイクの脚にわずかではあるが、消えることなく燃え続ける炎の羽毛が見受けられた。
(よし…後は俺がどうにかして、やつを群れから引き離すから…上手くやれよ)
グミとユアは深く頷いて、その後すぐにシュウが行動に移る。どうやら2〜3発、威嚇射撃をするつもりらしい。
「パンパン」
「?」
…当てた!? って事はこっちに来るんじゃないだろうか。我がそんなこと考えているうちにシュウは岩陰から転がり出て、できるだけレッドドレイクがいない 方へと走り、ターゲットだけを精一杯挑発する。
「おい! ウスノロドレイク。悔しかったらこっち来てみな!!」
「グオオオオオオオ!!」
もともと脳の小さいドレイクはすぐさま挑発に乗り、シュウのいる岩陰へと猛ダッシュする。スピードがカッパードレイクの比ではない。シュウは岩陰に隠れた はずだが、あのままでは見つかるのも時間の問題だろう。
その頃グミ達は、時を見計らってアクションを起こしていた。
「ユアさん、行こ!」
「はい! グミさんは身を隠しながら、わたしの後ろにいて援護してください。行きますよ!」
「うん」
その瞬間ユアが風になる。残像が残るほどの高速移動、グミがついていける訳はないが、ユアは岩陰にうまく隠れながらグミを待ってくれているので問題はな い。というよりこれならグミがいないほうが良かったのではないだろうか。まぁなんにせよ作戦は上手くいっているので問題はない…はずだった。
「ぐあっ」
シュウが予想よりもかなり早く見つかってしまい、鋭い爪による一撃を受けてしまったらしい。グミのヒールは未だ範囲外、このままではあっという間にシュウ が消し炭にされてしまうだろう。状況をとっさに判断したユアは、何も言わずにグミを肩車する。グミは抵抗する間もなく肩に乗せられ、身長差から言っても姉 妹に見えないこともないことが少し可笑しかった。
「グミさん、少し揺れますけど、しっかりつかまっててください」
「わわわ…!?」
ユアはグミを肩車したままでも先ほどとほとんど変わらぬスピードで、ターゲットの背後へとまわる。一方シュウはと言うと…時間を稼ぐためか、手負いのまま 戦っていた。
「彗星! 彗星!!」
シュウの手にした双銃から2本の青い光線が発射され、レッドドレイクの赤い鱗へと突き刺さる…・と思われたが、あっさりと弾かれる。何匹ものサルを貫通す るほどの貫通力がある彗星がいとも簡単に弾かれるとは…通常攻撃どころかスキルでもほとんどダメージを与えられないと考えた方がよさそうだ。
「ちっ…鱗が硬いなら、目玉だ! 彗星!!」
青い銃撃はひゅーっと空気を切り裂く音をなびかせながら、レッドドレイクの左目めがけて肉迫する。
「今です!」「今よ!」
二人は絶好のタイミングでそれぞれユアは炎の羽毛のある左脚、グミはレッドドレイクをやり過ごしシュウへと走る。が、シュウは、
「まだ来るんじゃねえ!!」
だが走り出した二人はすでに止まることなどできない。…そもそもとめる必要などない気がするのだが。しかし結果的にシュウの判断が正解だった。
信じられないことだが…亜音速で移動する彗星が、首を振るという簡単な動作で避けられたのだ。もちろんその動作が隙になるはずもなく、レッドドレイクはす ぐさま反撃に転ずる。
「グオオオオオ!」
「キャアアアアア」
レッドドレイクはユアを尻尾で吹き飛ばし、前方のシュウとグミへ火炎弾を連続で吐く。グミ達3人の命運はいかに
続く
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