「ユアさん、準備はいいー?」
「できるかどうかわかりませんけど、やってみます!」
ふむ、どうやらやるらしいな。ユアは我を真っ赤な岩に押し当て、全力で押す。
「…!!!」
ユアは声こそ出さないが、かなりの力で押しているらしい。ん…? そういえばなんだか柄が真っ赤に…!
「熱い!! ちょっと待ってくれ、いや…マジで熱いから!!」
熱せられた岩の熱は我の中心から、左右へと徐々に伝わっていく。熱が我の本体に達した瞬間、文字通り我を忘れて叫んでいた。丈夫な我でもこれほど熱いのだ
から、並の温度ではない。
我の叫びが伝わったのか、ユアは慌てて岩を押すことをやめる。
「えっと…レフェルさん、大丈夫ですか? 真っ赤ですけど…」
大丈夫なはずがない。が、しかしこれほどまでに高熱な我を掴んでいたユアはなぜ平気なのだろうか。
「死にはしないが、これ以上はやめてくれ。それと、どうしてユアは無傷なんだ?」
我も一瞬やせ我慢しているんじゃないかと、ユアの手のひらを見てみたが、湯気が出ていただけで外傷はないように見える。ユアは少し戸惑いながら、
「理由はわからないですけど、わたし…熱いものを触ると勝手に手のひらが、その…・冷たくなるんです。というより凍るみたいな感じになるんです」
何だそれは…それにそんな特殊能力があるんだったら、なぜ我を使うんだ……。
泣き言を言ってもしょうがない。先ほどの押しでも岩はまったくといっていいほど動いてなかったから、まだ考えているシュウは放って置いて、別の方法を考え
るしかない。我は熱が取れるまで地面の上に放置されながら切り出す。
「そうか…だが、それでも岩の奥に行くことはできないようだ。グミのもうひとつのアイデアでも聞いてみよう」
グミは、
「もうひとつのアイデアですが…レフェルが新しい技を私に教えるっていうのはどう?」
どうって…まぁ効果があるかないかは別にして、そろそろ次のステップに行ってもいいかもしれない。
「まぁチャレンジすることは大事だな。とりあえず我を持ってくれ」
グミは我を掴もうと手を伸ばすが、まだ熱の引ききっていない我の熱さに手を引っ込める。
「あっつ…ユアさん、よくこんなの持てたね…」
グミは話しながらも、カバンの中から厚手の手袋を取り出して両手にはめる。さすがにアレなら持てるだろう。グミに持ち上げられた我は、
「鎖を短めに伸ばして…もうちょっと、いやそれでは少し長すぎる。そこだ! そのまま思いっきり振りかぶれ」
グミは我に言われたとおりに、我を振りかぶる。
「そのまま振り下ろすわけだが、本体が敵にぶつかった瞬間に『スパイク』と叫べ。絶対に敵にぶつかってからだぞ」
「わかった。よーし…えいっ!!!」
グミの掛け声とともに、我の本体である鉄球は熱された岩へと猛スピードで体当たりを敢行する。今だ!
「すぱいく!」
鈍い音を立てて鉄球は赤い岩のど真ん中に食い込み、発動した『スパイク』によって鉄球から無数の鋭いトゲが飛び出す。飛び出したトゲは硬い岩をも砕き、岩
の向こうまでも飛び出したようだった。その光景を見ていたグミとユアはあまりの威力に驚き、呆然としている。熱せられた岩は、我の本体をじりじりと焦が
す。我をこのままにするつもりか!
「熱い! 熱い!! 早く抜いてくれ!」
グミはようやく事に気付き、無造作に我を引き戻す。…と同時に内側から攻撃された岩は音を立てずに砕け散った。どうやら我の大活躍のおかげで、無事レッド
ドレイクの住処にたどり着けるようだ。
「…何とか上手くいったようだな。ちなみにこの技はあまり近距離で使うと自分をも傷つける諸刃の技だから気をつけ…っていないな。最大の功労者に礼のひと
つもないとは…」
グミもユアも我の苦悩など気にもかけず、いまだに一人考え込んでいるシュウの方へと行っていた。ユアはシュウの肩を叩き、
「シュウさん、あの岩…グミさんが壊してくれましたよ。シュウさん?」
反応がないらしい。グミは自分の拳にはぁーと息を吹きかけ、シュウのこめかみめがけて思いっきりぶん殴る。
「ふぁーああ…よく寝t…ぐばっ! 痛!!」
シュウは思いっきりふっ飛ばされ、二、三回回転してから岩に激突し、ようやく止まる。よく無事だな…。
「一生懸命考えてると思ったら寝てるなんて…こうなったらレッドドレイクの囮になるよりも食べられた方がいいんじゃないかな」
シュウは必死に弁解しようとするが、これが初めてではない。シュウもグミが半端なく怒っているの見て、流石に観念したらしく、
「いや…その…ゴメン、最初は考えてたんだが何かここ暖かくて…ホントすいませんでした。それとあの岩どうやって壊したんだ? 爆音なら聞こえなかった
が」
謝りつつも話題をすりかえるシュウも流石だと思うが、それに見事に騙されるグミもある意味…ばk…ゲフン、純粋だ。グミは得意そうに自分の頑張りを行動で
教えようとする。
「あんな岩、レフェルから教えてもらった技であっという間に壊しちゃったよ。こう…『スパイク』って、わっ!」
スパイクによって我の本体から突き出たトゲは、グミが半端なタイミングに使ったためにグミとシュウをかすめて二人の間の地面に突き刺さる。だからさっきも
言ったのだが…って聞いてなかったな。まぁ身をもって危険さを体験したのだから、それはそれでよかったのかも知れない。シュウは、
「…危なかったな。もうちょっとで俺の大事な…いや、それはいい。それよりもレッドドレイクはどうなったんだ?」
おいおい…死にそうになっておいて、それしかリアクションがないのか…。シュウは、さっきのことなど、なかったかのようにさっきまで岩でふさがっていた、
穴を覗き込む。
「……。なぁ、やっぱり帰らないか?」
「はぁ? 何言い出すの? せっかくここまで頑張ったって言うのに」
「じゃあ中見てみろよ。帰りたくなるから」
グミは我を抱きかかえたまま、穴をのぞく。そしてすぐさま絶句する。
「なによこれ…」
穴の中に広がった光景は、無数のレッドドレイクが互いの縄張りを主張し、殺し合いを繰り広げている…地獄のような光景だった。あんなところに入って、生き
て帰れたらそれこそ奇跡ではないのだろうか…
続く