待たせた。さて、ここからはかなりの修羅場になることが想像に難くないので、我が語り 部になることにしよう。グミも今ちょっとアレだしな。
 グミたちは今まさに、レッドドレイクの住処に飛び込もうとしている。三人の状態はというと…グミは、まぁあれだ。
形容し難い状態。シュウは銃弾をリロードし、ユアはいつもと違った顔で精神を集中していた。やはり普通とは違えど、戦士のようだ。
何ともいえない緊張状態の中、最初にシュウが口火を切る。
「よく聞いてくれ。この奥にはまず間違いなくレッドドレイクがいるわけだが、作戦は覚えているよな? …特にグミ」
なぜグミに振るのか…この先どうなるかは目に見えてるというのに。案の定急に話を振られたグミは、最初きょとんとしていたが、自分に振られた訳に気づいて 怒り出す。
「な…覚えてるに決まってるでしょ? レッドドレイクをシュウが挑発してる間に、私とユアで炎の羽毛を奪取する。…で、逃げる!」
グミが早口に作戦を言い終えた後、シュウは少し考えながら、作戦内容に訂正を加える。
「大体はいいんだが…炎の羽毛を奪取するところが曖昧だな。具体的に言うとユアはスピードを生かして奪うことに専念。グミはそれを邪魔されないようにマ ジックシールドで守る。で、俺も上手く一匹だけ誘えたらそっちに加勢する。OK?」
「うん」「わかりましたー」
シュウは一度納得したように見えたが、急に思い出したように言った。
「ひとつ言い忘れてた。もし万が一誰かが重傷を負ったり、ターゲットのレッドドレイク以外に気付かれたり…まぁ他、ヤバイことになったら速攻で逃げるぞ。 この作戦は失敗しても何度でもやり直せるが、死人は蘇らない。くれぐれも無理すんなよ!」
「シュウもね」
「わぁってるよ。じゃ、行くぞ!」
シュウはいい終えた瞬間に右手に精神を集中し、ボムを作り出そうとするが、ユアが慌てて止める。
「わ! わ! そんなことしたら、さっきみたく中の恐竜が飛び出してきます! もっと慎重に行きましょうよ!」
シュウはようやく気付いたようで、できかけのボムをバズーカの中に突っ込み、できるだけ破壊力を緩和する。そういえばユアが人間らしい表情をするのは初め て見た気がする。シュウは、
「うーん…ボム以外でどうやってこの岩の奥に行くんだよ。かといってさっきみたいに派手にやると、取り返しのつかないことになりそうだしな…うーん…」
シュウはボムを使わずにこの岩を壊す方法を画策しているのか、額に手を当て、うつむく。…レッドドレイクに気付かれることなく、この岩の奥に行く方法…最 良の方法はこの岩だけを音を立てずに破壊する、もしくは退けることだが、前者を成し遂げるには特殊な技術が必要で、後者には尋常でない筋力が必要である。 要するに…
「ねぇねぇ」
…グミが我が本体である鉄球をゴンゴン殴っている。…痛みはないというもの、我の思考を妨害するには十分だった。
「…何か用があるなら口で言ってくれ」
グミは我の無愛想な態度にむっとする。あぁまずい…機嫌が悪くなった
「せっかく暇そうだから私のナイスなアイディアを聞いてもらおうと思ったのに!」
さっきからボーっとしているようだったグミだが、自分なりに何か考えていたらしい。とりあえず聞くだけ聞いてみるか。
「すまん、どんなアイデアだ?」
 我が素直に謝ったので機嫌をよくしたグミは、得意そうに我の柄を握り、言った。
「オホン…どんなアイデアかというとですね…実は二つあるんです。まず一つ目…あの岩は重そうだけど、もしかしたらユアさんの力なら何とかなるんじゃな い?」
結局人任せか…だが、グミは自分の能力を把握して、ユアの力を頼ったというわけだから、思った以上に考えていたのだろう。まぁ可能かどうかは別だが…。
「まぁ…いいんじゃないか?」
一応同意しておいた。それを聞いたグミは早速ユアに頼みに行ったらしく、既に姿はなかった。
*
「ユアさん、準備はいいー?」
「できるかどうかわかりませんけど、やってみます!」
ふむ、どうやらやるらしいな。ユアは我を真っ赤な岩に押し当て、全力で押す。
「…!!!」
ユアは声こそ出さないが、かなりの力で押しているらしい。ん…? そういえばなんだか柄が真っ赤に…!
「熱い!! ちょっと待ってくれ、いや…マジで熱いから!!」
熱せられた岩の熱は我の中心から、左右へと徐々に伝わっていく。熱が我の本体に達した瞬間、文字通り我を忘れて叫んでいた。丈夫な我でもこれほど熱いのだ から、並の温度ではない。
我の叫びが伝わったのか、ユアは慌てて岩を押すことをやめる。
「えっと…レフェルさん、大丈夫ですか? 真っ赤ですけど…」
大丈夫なはずがない。が、しかしこれほどまでに高熱な我を掴んでいたユアはなぜ平気なのだろうか。
「死にはしないが、これ以上はやめてくれ。それと、どうしてユアは無傷なんだ?」
我も一瞬やせ我慢しているんじゃないかと、ユアの手のひらを見てみたが、湯気が出ていただけで外傷はないように見える。ユアは少し戸惑いながら、
「理由はわからないですけど、わたし…熱いものを触ると勝手に手のひらが、その…・冷たくなるんです。というより凍るみたいな感じになるんです」
何だそれは…それにそんな特殊能力があるんだったら、なぜ我を使うんだ……。
泣き言を言ってもしょうがない。先ほどの押しでも岩はまったくといっていいほど動いてなかったから、まだ考えているシュウは放って置いて、別の方法を考え るしかない。我は熱が取れるまで地面の上に放置されながら切り出す。
「そうか…だが、それでも岩の奥に行くことはできないようだ。グミのもうひとつのアイデアでも聞いてみよう」
グミは、
「もうひとつのアイデアですが…レフェルが新しい技を私に教えるっていうのはどう?」
どうって…まぁ効果があるかないかは別にして、そろそろ次のステップに行ってもいいかもしれない。
「まぁチャレンジすることは大事だな。とりあえず我を持ってくれ」
グミは我を掴もうと手を伸ばすが、まだ熱の引ききっていない我の熱さに手を引っ込める。
「あっつ…ユアさん、よくこんなの持てたね…」
グミは話しながらも、カバンの中から厚手の手袋を取り出して両手にはめる。さすがにアレなら持てるだろう。グミに持ち上げられた我は、
「鎖を短めに伸ばして…もうちょっと、いやそれでは少し長すぎる。そこだ! そのまま思いっきり振りかぶれ」
グミは我に言われたとおりに、我を振りかぶる。
「そのまま振り下ろすわけだが、本体が敵にぶつかった瞬間に『スパイク』と叫べ。絶対に敵にぶつかってからだぞ」
「わかった。よーし…えいっ!!!」
グミの掛け声とともに、我の本体である鉄球は熱された岩へと猛スピードで体当たりを敢行する。今だ!
「すぱいく!」
鈍い音を立てて鉄球は赤い岩のど真ん中に食い込み、発動した『スパイク』によって鉄球から無数の鋭いトゲが飛び出す。飛び出したトゲは硬い岩をも砕き、岩 の向こうまでも飛び出したようだった。その光景を見ていたグミとユアはあまりの威力に驚き、呆然としている。熱せられた岩は、我の本体をじりじりと焦が す。我をこのままにするつもりか!
「熱い! 熱い!! 早く抜いてくれ!」
グミはようやく事に気付き、無造作に我を引き戻す。…と同時に内側から攻撃された岩は音を立てずに砕け散った。どうやら我の大活躍のおかげで、無事レッド ドレイクの住処にたどり着けるようだ。
「…何とか上手くいったようだな。ちなみにこの技はあまり近距離で使うと自分をも傷つける諸刃の技だから気をつけ…っていないな。最大の功労者に礼のひと つもないとは…」
グミもユアも我の苦悩など気にもかけず、いまだに一人考え込んでいるシュウの方へと行っていた。ユアはシュウの肩を叩き、
「シュウさん、あの岩…グミさんが壊してくれましたよ。シュウさん?」
反応がないらしい。グミは自分の拳にはぁーと息を吹きかけ、シュウのこめかみめがけて思いっきりぶん殴る。
「ふぁーああ…よく寝t…ぐばっ! 痛!!」
シュウは思いっきりふっ飛ばされ、二、三回回転してから岩に激突し、ようやく止まる。よく無事だな…。
「一生懸命考えてると思ったら寝てるなんて…こうなったらレッドドレイクの囮になるよりも食べられた方がいいんじゃないかな」
シュウは必死に弁解しようとするが、これが初めてではない。シュウもグミが半端なく怒っているの見て、流石に観念したらしく、
「いや…その…ゴメン、最初は考えてたんだが何かここ暖かくて…ホントすいませんでした。それとあの岩どうやって壊したんだ? 爆音なら聞こえなかった が」
謝りつつも話題をすりかえるシュウも流石だと思うが、それに見事に騙されるグミもある意味…ばk…ゲフン、純粋だ。グミは得意そうに自分の頑張りを行動で 教えようとする。
「あんな岩、レフェルから教えてもらった技であっという間に壊しちゃったよ。こう…『スパイク』って、わっ!」
スパイクによって我の本体から突き出たトゲは、グミが半端なタイミングに使ったためにグミとシュウをかすめて二人の間の地面に突き刺さる。だからさっきも 言ったのだが…って聞いてなかったな。まぁ身をもって危険さを体験したのだから、それはそれでよかったのかも知れない。シュウは、
「…危なかったな。もうちょっとで俺の大事な…いや、それはいい。それよりもレッドドレイクはどうなったんだ?」
おいおい…死にそうになっておいて、それしかリアクションがないのか…。シュウは、さっきのことなど、なかったかのようにさっきまで岩でふさがっていた、 穴を覗き込む。
「……。なぁ、やっぱり帰らないか?」
「はぁ? 何言い出すの? せっかくここまで頑張ったって言うのに」
「じゃあ中見てみろよ。帰りたくなるから」
グミは我を抱きかかえたまま、穴をのぞく。そしてすぐさま絶句する。
「なによこれ…」
穴の中に広がった光景は、無数のレッドドレイクが互いの縄張りを主張し、殺し合いを繰り広げている…地獄のような光景だった。あんなところに入って、生き て帰れたらそれこそ奇跡ではないのだろうか…
続く