どしん、どしんと何か重いものが何かにぶつかる音がこだまする中、私たちは岩の中に隠 されていた扉の前で待機していた。扉の方はシュウがしっかり(?) 押さえている。シュウは息を切らしながら言った。
「はぁ…はぁ…びびった。ドア開けたらいきなりカッパードレイクさんだもんな」
そう、シュウはユアさんの忠告も聞かないで勢いだけで扉を開けてしまい、ちょっと怖い目にあったのだ。まぁ実害は0なんだけど…いや、奥に進めなくなっ たっていうところから言うと実害は確かにある。それも結構死活問題だ。
私はシュウに問いかけてみる。
「シュウ…ここ、どうやって行くのさ? それよりこのままだと、カッパードレイクが出てきて大変なことになるよ」
シュウは、落ち着き払って言った。
「いや、この扉を閉めてる限りはあいつらはここから出られないよ。なんかこの扉に封印の魔法がかかってるみたいなんだ」
「封印の魔法…」
ユアさんがその言葉を聞いた途端、小刻みに震え始める。相当嫌な思い出があるみたい。だから私はユアさんに、この話を振らないことにした。
「封印の魔法って具体的にどんなの? 初めて聞いたんだけど…」
「封印の魔法ってのは名前通りで、扉や箱とかに鍵をするために使う呪文だ。魔法のレベルにもよるが魔物を閉じ込めたり、宝箱に鍵をするなど効果は千差万別 で、一概に何とは言えないけどな。…まぁとにかくこの扉にはすげえ封印がされていて、この扉が閉まっている限り、あいつらは出てこられない。わかった か?」
なるほど…状況は理解したけど、どうやって扉を開けずに奥に行くつもりなんだろう……そんなの不可能に決まってる。シュウは、
「それで、今の状況だが…あいつらは懲りずに何度もこの扉にタックルしてきている。扉を開けた瞬間飛び出してくることは間違いない。だから、ここに……罠 を張る」
シュウは言葉を言い終えるなり、扉の前の土を掘り出し、次に両手を使って次々と赤いボムを作り出す。
やろうとしていることは簡単。地雷だ!
「今からここに地雷を作るから、グミとユアは目と耳を閉じて、地面に伏せてくれ。まぁ多分激しい爆発音が聞こえるだろうから、ドカンと音がしたら、俺に続 いてドアに入ってくれ。チャンスは一回きりだから、気をつけろよ」
シュウは話しながらも、着実に地雷の数を増やしていく。ゆうに10個以上は埋まってるから…いくらカッパードレイクといえども瞬殺だろう。地雷を埋め終え たシュウは、大声で叫ぶ。
「あと10秒で爆発する! 扉を開けるぞ!!」
あと10秒…当然私たちの意志なんて関係なく扉は開かれる。
あと8秒…私とユアさんは身を伏せたままシュウの様子を伺っていた。
あと6秒…シュウはどうやら地雷原の少し後ろに立ち、ドレイクを挑発しているようだった。
あと4秒…頭の悪いドレイクはそのまま地雷原へと死のダッシュをする。
あと2秒…シュウが私の方向に転がるようにして、身を寄せる。
あと1秒…曲がることを知らないドレイクの逞しい足が、地雷原へと踏みおろされる。
「ドカン!!! ドカン! ドカンドカンドカン!!!!」
耳をふさいでも鼓膜が破れそうになる爆発音。視界は目を塞いだままでも真っ白になり、その破壊力でドレイクが木っ端微塵になったことは見な くてもわかった。爆発によって舞い上げられた砂や小石がぱらぱらと降ってくる。
私とユアさんが爆発の衝撃に固まっている中、シュウの声が辺りに響き渡る。
「グミ! ユア! 二匹目が来る前に中に入って扉を閉める。いくぞっ!!!」
シュウは爆発の衝撃などまったく受けていないのか、ふらふらの私を引っ張りながら、扉の中に飛び込む。ユアさんもどうにか扉の中…危険な谷に入り込めたみ たい。シュウはカッパードレイクがこれ以上深い谷に出ないように、すぐに扉を閉める。……ふぅ。どうやら上手くいったみたい。と思ったのもつかの間…・
「グミ、休んでる場合じゃないぞ。マジックシールドで守りを固めるんだ」
ふと前を見ると次のカッパードレイクがこっちにタックルしてきてるじゃないか!! シュウは牽制程度にボムを投げるが、動いている標的に当てるのはやはり 難しいらしく、当らない。私はパニックになりながらも呪文を詠唱する。
「ま…マジックシールド!!」
私の叫び声とともに私たち三人の体が、光る半透明の膜に覆われる。私の得意技「マジックシールド」はみかけはヤワだけど、銃弾をも跳ね返す強力な盾だ。私 はレフェルに精神を集中し、向かってくるドレイクの攻撃を防ぐことに専念する。
「ガシン!」
硬い金属音が響き渡り、ドレイクが錐揉み回転しながら吹き飛ばされる。今回は以前受けたほどの激しいダメージはなく、どうやらマジックシールドもレベル アップしていたようだ。うん、これなら役に立てそう。
シュウは、休む暇なく
「グミ、安心してる場合じゃない。早くレッドドレイクのいるところまで行かないと、こいつらにミンチにされて食われちまう!!」
「そ…そんなこと私に言われたって;;えっとれっどどれいく、れっどどれいく……そんなのどこにもいないよ!」
シュウも一生懸命探してるらしいが、どこにもレッドドレイクの影は見当たらない。そんなことしている間にも、カッパードレイクの大群はマッジクシールドに 向けて突っ込んでくる。シュウはちっと舌打ちし、
「こんな大量のカッパードレイクなんか相手にしてたら命がいくつあっても足りない。逃げるぞ!」
「逃げるってどこに!? …ってわっ! 何するのよ!」
シュウは私を無理やり背負い、カッパードレイクのいないところを目指して全力疾走する。私は今まで感じたことのないスピードの中でマジックシールドを維持 するのが難しくなった。強く輝いていた光の膜が次第に弱弱しくなっていく。
「よっしゃ! あと少しで岩陰に…・!!」
シュウの言うとおりあと少し…ほんの数メートル走れば安全地帯に逃げ込めるというところで、大群に属していなかった”はぐれ”ドレイクに出くわしてしまっ た。そのドレイクはいかにも一匹狼らしく、全身傷だらけで他のドレイクからは感じない危険な雰囲気を持っていた。はぐれドレイクは、シュウが私を背負った まま戦うことができないのを見て、容赦なく突っ込んできた。
「マジックシールド…もちこたえてっ!!」
私の願いもむなしく、薄くなったマジックシールドはやすやすと打ち砕かれる。目前にはドレイクの勝ち誇った笑み(?)。私とシュウは全身に甚大なダメージ を受けることを覚悟した、まさにその瞬間だった。
「わあああああ!!! パワー…ストライク!!」
突如ドレイクの胸に槍が深々と突き刺さり、そのまま貫通する。心臓を一突き…即死したカッパードレイクは霞となり消滅した。コウさんもシュウも破れなかっ た硬い鱗をやすやすと破り、一撃でカッパードレイクを屠った戦士…それは私たちの後ろから走ってきていたユアさんだった。
ユアさんは槍についた血を振り払い、言った。
「はぁはぁ…二人とも怪我はないですか?」
私は今までのユアさんとたった今ドレイクを倒したユアさんとのギャップに戸惑いながらも、
「うん。ユアさんが来なかったらミンチにされてたかも。ありがとう」
「ユア、やっぱ俺が見込んだだけあって強いわ。ほんと助かったよ」
ユアさんはお礼を言われたことなど今まで一度もなかったようで、かなり嬉しそうに言った。
「グミさんもシュウ君もいい人だから死んで欲しくなかったんです。さぁ…あの岩から凶暴な気配を感じます。きっとあの中に…」
ユアさんが見ていた先には、私が見てもわかるくらいの禍々しい気配、そして猛烈な熱気が立ち上る岩ががあった。偶然にもシュウが安地だと思って走っていた ところだったなんて知るのは後の話になる。
「…レッドドレイクだ」
「ユアさん、頼りになるー!」
「あぁ…ホントすごいよ」
ユアさんは嬉しさに頬を染めながらも、目に秘めた闘志だけは変わらなかった。どうやらユアさんは私が思っていた以上にすごい人…なのかもしれない。私が感 動している中、シュウが下から私に呼びかける。
「グミ…重いからそろそろ降りてくれ」
「あ…」
私の頬もユアさんと同じくらい赤くなった。
続く
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