新しい環境で頑張ると決意したあの日から早くも1月が経とうとしていた…
「いいかのぅ、グミちゃん。精神統一もだいぶできるようになってきたようじゃから、今日から魔法使いの初歩の初歩…【エネルギーボルト】の練習をするぞ い!」
 …そう、私は私を助けてくれたあの人みたいになるために、魔法の修行をしていた。いや戦士の修行もしていたけどね…。私は魔法の方が向いてたみたいで そっちが好きだった。
「おやグミちゃん、シゲじいの修行は退屈かね?ボケッとしていたようじゃが…」
「え・・あっ!はい!じゃなくていいえ、退屈じゃ無いです。ちょっと考え事を」
 シゲじい…今でこそ腰が曲がって私と同じくらいの背だが、昔は名のある氷魔として歴史に名を馳せたらしい…
そんなすごい人から教わっていたなんてあの頃は少しも思ってなかったけどね。
「考え事か…魔法使いは頭を何よりも使う職業だから考えることは大切じゃ…じゃが今は【エネルギーボルト】の
修行が大事じゃよ。なんといってもこの呪文は基本ty…」
途中で私が遮る。シゲじいちょっとボケてきてるから…
「基本中の基本だってコトは聞いたから、具体的にどうやったらいいの?」
「そうじゃったな。いいか? まず杖を握って手を後ろに引くんじゃ」シゲじいが杖を掲げてみせる。なかなか様になってる(ように見えた)。私も真似して やってみる。
「おぉいいぞ! そして精神を集中しながら…杖を前に突き出して、エネルギーボルトぉ!! と叫ぶのじゃ! ほれこの通り」シゲじいの杖先からは青い球体 がひとつ飛び出して山のほうに飛んでいった。
「ズシン…」
どうやら斜面に生えていた木が数本折れたらしい…・
「シゲじい、すごいすごい! ようし、私もやってみるね」
「エネルギーボルトぉ!!!」
シゲじいがやったように鋭く杖を突き出す。……何もでない。
「エネルギーボルト! エネルギーボルト!! エネルギーボルトぉ…」
何にもでない…もしかして私には魔法の素質が無いのかしら…
「おかしいのう…普通ほんのひとかけらでも魔力の素質があれば杖から魔力が放出する感じくらいはするものなんじゃが…」
事実上、魔法使い失格を宣言されたようなものだった…これじゃあ黒い魔道師どころかいっぱしの魔法使いにもなれないじゃない…
「今度は違う呪文をやってみよう。もしかしたらこの呪文がだめなのかも知れんからのぉ…次は【マジックガード】通称MGといって魔法使いの必須スキル じゃ。すべてのダメージの何割かを精神力で作ったシールドを削ることで軽減することが可能じゃ! 早速やってみるぞい」
シゲじいは杖を斜めに軽く持って【マジックガード】と呪文を唱えた。シゲじいが薄い光の幕のようなもので覆われる。
「どうじゃ。これがマジックガードじゃ。ちょっとその辺にある石をわしにぶつけてみなさい」
シゲじいを包む膜はとっても薄くて少しつつくだけでも破れそうに見えたので、私は小さめの石を投げつけてみた。
「コツン」
軽い音がして石は軽々と弾かれた。今度はかなり大きい石を投げてみる。
「ごん!」
鈍い音がしたけれども、膜もシゲじいも傷ひとつないようだった。
「どうじゃすごいじゃろう。この呪文さえあれば戦士にも負けず劣らずの体力になれる。いや遠距離攻撃が出来る時点でわしらのほうが断然優れているがなぁ… それじゃやってみなさい!」
 杖を斜めに構えて…精神を集中する今だっ!
「マジックガード!」
ふわっと不思議な感触がした…なんと私の周りに薄い膜が出来ている。
「おぉ! 成功じゃ! ちょっと攻撃してみるぞい」
シゲじいが手に持った杖で私を覆うカーテンみたいなものをこづく。
「コンコン…コンコンコン」
カーテンはびくともしなかったけど私の身体にはすぅーっと力が抜けるような感じがして、その場にへたりこんでしまった。これくらいのことですぐへばってし まう自分が、ちょっと恥ずかしかった。シゲじいは少し変な顔をしていたけど感動してるようだった。
「ふむふむ…初めてにしては上出来じゃ! エネルギーボルトは全くでなかったのにMGとなると一発とは…グミちゃんはクレリックに向いてるのかもしれん な」
…くれりっくってなんだろう? 聞いてみることにした。
「シゲじい…くれりっくってなに?」
相当間の抜けた顔をしていたらしく、シゲじいは苦笑しながら言った。
「いいかい? クレリックというのはだね。味方を補助するための呪文や神聖な攻撃呪文を使う魔法使いのことじゃよ。クレリックというのは希少価値が高いか ら重宝されるんじゃ」
「…よくわかんないけど、どんな呪文が使えるの?」
「そうじゃの…やっぱり基本的なスキルは【ヒール】じゃな。傷ついた仲間を癒すために使う呪文じゃ。ヒールをしてもらうと身体の痛みが消えていくんじゃ。 病気や老衰には効かんがね」
ヒール? どこかで聞いたことがある…どこだったろう。思い出せないから考えるのはそこまでにしといた。
「また考え事をしてたじゃろう。グミちゃんはすぐ顔に出るのぉ…そこがまたかわいいんじゃが」
かわいいといわれて少し顔が赤くなる。
「よし! 今日の修行はここまでじゃ。MGで精神力(以下MP)を使ったじゃろうからお家に帰ってお昼ごはんを食べておいで…残さず食べるんじゃよ!」
と言うとにっこり笑いながら手を振ってくれた。
「じゃあね、シゲじい! また魔法教えてね」
私は軽く手を振ると、自分のお家に駆けていった。
「行ってしまったのう…・それにしてもあの子はすごい才能を持っておる。あの子の使った呪文はMGなんかではなく、自分以外の仲間をも守るという【マジッ クシールド】じゃった。クレリックの高等呪文をあの歳で使えるとは末恐ろしい…いや、見所があるものじゃ」
 シゲじいこと伝説の英雄【シーゲイズ】は一人、物思いに耽った。そう…あの子の行く末は果たして…
続く
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