うむ、今日の語り部は我がやろう。理由は…いつも通りだ。
シュウが地図を見ながら迷子になって、おまけに迷子になったことにも気づかずに3時間ほど同じところをぐるぐる
回り続けた。それに気づいたグミは当然語り部どころではない。
「毎回毎回、あんたってやつはいったい何考えて行動してんのよ!!とりあえずその地図こっちに渡して!」
「…はい。なんかすいませんでした…」
今までの経験上かシュウは以上におとなしく、地図をグミに渡す。だがグミも方向音痴だった気がするんだが……まぁシュウよりはましであることを願おう。日 が暮れる前に辿り着けるといいが。
がしかしグミはシュウから手渡された地図を見るなり絶句する。そしてその数秒後にはまたしても激昂…。シュウは頭を掻きながらすまなそうな表情をしてい る。
「地図って…・何よ、この落書きは!!! 地図とか何だとか言う以前に、文字が読めないから!」
グミが地図を見て怒鳴っている間に、我にも少し「地図」が見えたが……どう見ても子供の落書き以下だ。
その地図見る限り、現在地はおろかゴールである危険な谷という文字すら見つけることすら困難だ。シュウは考えうるすべての言い訳をする。
「いや…だって俺、絵とか字とかそういうのは得意じゃないんだよね。それにさ、その地図だってPT屋の言ってることを元に自分なりのアレンジを加えてだ な…。できるだけ分かりやすいようしたつもりなんだが」
グミの顔はシュウが言い訳するたびに険しくなる。グミは何とか気持ちを落ち着かせて、シュウにPT屋からの情報を聞き出す。
「…もういいわ。とにかく危険な谷に行くことが先決だものね。それでPT屋さんはどういう風に行けばそこに行けるって言ってたの?」
シュウは、
「あぁ。確か、深い谷の中に変な古い扉があるらしくて、そこから危険な谷につながってるって聞いた。どうやらそこに危険なモンスターを閉じ込めて、ペリオ ンを守ってるらしい。中でもレッドドレイクはもっとも危険だから……」
「その奥の奥ということだな」
「そう、そうなんだよ。でもその扉って言うのが見つからなくて……今に至るってわけだ」
ふむ。われもさっきからここをずっと見ているが、扉らしきものは一度も目にしていない。というよりもPT屋の情報が本当かどうかも怪しい。我を含む3人が うーん…と唸っている中、ユアだけがある方向をじーっと眺めていた。その目線の先にあったものは……ただの大きな一枚岩である。
ユアの不思議な行動を目にしたシュウは、
「ユア、さっきから何を見てるんだ? そっちには岩しかないぞ」
ユアは岩を見つめながら、ゆっくりと呟く。
「そうですよね…。でも岩の中から何か凶暴な気配を感じるんです。まるで何かを壊したくってしょうがないって感じの」
シュウはユアの言ったことを聞くなり、何故か押し黙る。あたりには魔物たちの咆哮や、戦士たちの雄たけびが聞こえる。静けさとは無縁な場所といえるだろ う。
シュウは突然何かを決心したかのように、バズーカと銃を取り出して、それぞれ榴弾と、自分の精神力で作り出した銃弾を込める。
「グミ、ユア。これから俺はとんでもないことをするかもしれないが黙って見ててくれ」
「はぁ? 何する気なのさ」
「ここにいるやつらを全員黙らせる。まずは…あそこのうるさい豚どもからだ」
シュウは豚、正確にはワイルドボアと呼ばれる獰猛な猪の群れを指差し、両手でバズーカを構える。
「さっきからうっせーんだよ! この豚ども!!」
シュウは咆哮とともにためらいなくバズーカの引き金を引き、同じように弾を装填し、次々と猪や切り株の集まっているところを爆撃していく。辺りにはなりた ての戦士や盗賊風の男などがいたのだが、ほとんど気にせずに撃っているように見えた。
 しばらくして断続的な爆発音は途絶え、代わりにパンパンという乾いた音が響き渡り、人間の近くにいた切り株や、今にも初心者に襲い掛かろうとしていた猪 を射抜いていく。一匹、また一匹と赤い血をほとばしらせ消えうせる猪。それに驚いて言葉を失う戦士や初心者。彼らが黙ったのは横殴りへの怒りではない。そ れは光の銃弾が彼らの得物をすべてはじき落としていたからだ。
そしてシュウが最後の切り株を狙撃した後、辺りは一時の静寂に包まれる。静寂を最初に破ったのは、それを成し遂げた張本人のシュウだった。
「……やっぱりそうか。今まではうるさくて気づかなかったが、ユアの言ったとおり、この岩の奥に何かがいる」
シュウの意味深な発言に、今までの凶行を目にして目をまん丸にしていたグミが、ようやく我に返る。
「どうしていきなりこんな……それに岩がなんだって言うのよ…」
「静かにしてよーく聞いてみろ。ドーン、ドーンっていう音が聞こえてくるはずだ」
グミとともに我も耳を澄ます。
「ドーン、ドーン」
「ホントだ! あの岩の奥から聞こえてくる」
「だろ。じゃああの岩の奥に行くぞ」
やはりそうなるのか。ユアは落ち着きながらシュウに忠告する、
「あの、さっきも言いましたけど、岩の奥にはなんだか凶暴なものがいっぱいいそうです。さっきみたいにバズーカで突っ込んだりしないでくださいね」
「え?」
シュウの両手には既に赤いボムが握られていた。気が早いやつだ。
「あぁ…これね。眠いからこれで目を覚まそうと思ってね。ぽいっと」
シュウは右手にあるボムを適当な場所に投擲し、左手にあったボムは見られないように後ろ向きにぶん投げる。
「ドカン! ドカン!」
最初のボムは何処からか湧いて出たモンスターに当たり、左手のボムはあろうことか先ほどの岩に当たり大爆発した。爆発のエネルギーは岩盤を砕き、中に隠さ れていた扉をも衝撃でひしゃげてしまった。
「あ…やっちまった。でもまぁ過ぎたことはしょうがないな。さっさと行こうぜ」
何を勝手に納得して話を進めてるんだ。グミもユアも呆れた顔でシュウの背中を見ている。あれほどのことをやってそれだけで済んだのは幸運かもしれない。3 人は岩に隠されていた扉の前に立ち、シュウがドアノブに手をかけ、引っ張る。
「グオオオオオオオオオオオオオオ!!!」
ドアを開け放った途端、待ち構えていた恐竜がこの世のものとは思えぬ凄まじい咆哮を上げた。シュウは、
「し…失礼しました!!!!」
恐竜の声を止めるためにとっさにドアを閉め、背中でドアを押さえる。いったいどうやってこの奥に行くつもりなんだろうか…。
続く
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