「ごちそうさまー」
料理を食べ終わった私は、使い終わった食器を持って、食堂のカウンターのところまで持っていく。今日の朝ご飯はご飯に味噌汁に野菜炒め。やっぱり朝ご飯は 和食に限るねぇ…。などと考えながらくつろいでいたところに、レフェルの邪魔が入る。
「グミ、あんまりくつろいでないで、気を引き締めたほうがいいぞ。すぐに出発するんだからな」
そんなこと言われなくてもわかってるわよ…。そう、今日はレッドドレイクとかいう超凶暴モンスター相手にバトル…じゃなくてアイテムを奪うんだからまった りしてる場合ではない。その証拠にユアさんはいつもより目が鋭くなってるし、シュウも真剣なまなざしでどこかを見ている。よしここはひとつ、適度な話を 振って緊張をほぐさないと。
「ねぇ、シュウー。そのレッド何とかってどこに住んでるの?」
「………」
何も答えない。精神統一でもしているのかな…・。私はシュウの顔の前に手をかざしてみる。
「シュウー大丈夫〜?」
「……」
ぜんぜん反応しない。何これ、もしかして……。私は右手の人差し指と親指で小さな輪を作り、思いっきり人差し指を、シュウのおでこに向かって弾く。
「バシっ」
「ぐー………って痛!! いきなり何するんだよ!」
「目を開けたまま寝てて気持ちわるかったから、起こしてあげたのよ」
目が開いたまま寝たりして、ドライアイになったりしないのだろうか。それよりもこれからレッドドレイクをやっつけに行くってのに一番まったりしてるの、こ いつじゃない。
「せっかく人がいい気持ちで寝てたって言うのに…ん、もうこんな時間か」
シュウが見た時計の針は8時ちょうどを指していた。どうやら出発するみたい。
「よし! 出発……の前にいろいろ装備を整えたほうがいいかもな。特に…ユア」
「えっ…わたしの準備ですか?」
シュウがいきなり振るので、ユアさんはかなりびっくりしている。ん〜でも確かに準備が必要かもしれない。だってユアさんが装備している武具って言ったら、 フルーツナイフにぼろぼろになったレストランの制服だもん。こんなんじゃレッドドレイクどころか、でんでんだって危ういかもしれない。
「そうだよ。ユアは曲りなりも戦士なんだからもっとましな防具と武器がないとな」
シュウも私と同意見らしい。でも武器に防具…・私たちにそろえるお金なんてあるのかな? 一応私は自分の持ち物をあさってみる。私が探し物をしている間ユ アさんは、
「えっとわたし、武器はこの果物ナイフしかないんですけど、実はこの制服の下に…」
ユアさんは、言葉を途中で切るといきなり上着を脱ぎ始める。
「ちょ…ユア、こんなところでまずいって!」
まずいといいながらも目線はユアさんに釘付けなシュウに、一発レフェルの一撃をお見舞いしようと思ったけど、どうやら上着を脱いだことにも意味があったら しい。
「えっと…この間モンスターから拾った銀の胸当てです。軽くて結構丈夫なんで、主人に見つからないように装備して隠しておきました」
「…そうか。じゃあ防具は大丈夫だな」
シュウはユアさんが服を着ると、ものすごく残念そうな顔をする。いろんな意味で最悪なやつ!
私はユアさんのことをちらちらと見ながらも、何か使えそうなものを探す。食器に、ローブに、ハブラシ……ん? こ…これは!
「シュウ! これなんていいんじゃない?」
私が見つけたものは槍…そうあの食人族じゃなかったおじさんから譲り受けた短めの槍だった。私もシュウも槍なんて装備できないし、使わないから荷物に埋も れてたけど、さまざまな武器を使う戦士のユアさんになら使えるかも!
もらい物の槍だけど、おじさんも自分用に強化したとか言ってたし、槍先も欠けていない。それに…レフェルよりも軽い……気がする。シュウは、
「おぉ…あんときもらった槍だな。まだ使えそうだけど、ユア…どうだ?」
「装備してみないとわかんないですが、このフルーツナイフより断然強そうですね」
まぁフルーツナイフより槍が弱かったら相当まずいんだけど…とりあえず私は、ユアさんに槍を手渡す。私よりも背の高いユアさんが持つともっと短い感じがし た。
「ありがとうございます。早速装備してみますね」
ユアさんはフルーツナイフをぼろぼろの袋にしまい、代わりに槍を両手でしっかり持つ。う〜ん…カッコイイ。
「思った以上に軽くて、なんだか力がみなぎってくるような感じがします。少し振ってもいいですかね?」
私は面白半分で言う。
「テーブルとか壊さないように注意してね。それとなんならレフェルを的にしていいよ」
私の言葉にレフェルがぴくっと反応する。
「ま…待った! 多分大丈夫だと思うが万が一のことがあると困るから、手加減を忘れないでくれよ…」
あわててる、あわててる。まぁ頑丈だから壊れないとは思うけど、面白いからそのままやってみよう。ユアさんは、槍を構えて、
「じゃあいきますよ! せいっ! やっ! とう!!」
ユアさんは初めて使うはずなのに、レフェルに向かって高速で突き、引っかかったレフェルをそのまま振り上げて空中に浮かせる。そしてその後に宙に浮いたま まのレフェルを渾身の振り下ろしで、ドアごと宿の外まで吹っ飛ばした。……戦士ってこんなにすごいの!? シュウもあまりのかっこよさ(?)に口をぽかー んとあけている。ユアさんは自分でも驚きながらこう言った。
「すごい…いままでの果物ナイフとは攻撃力、スピード、リーチ…どれも段違いの性能ですー! …もしかしてこれって、ものすごい品物なんじゃないです か?」
う〜ん…もしかしたらそうなのかも。。でもあんなのを見たら、やっぱりすごいと思ってしまう。食人族のおじさんに感謝! シュウは、
「いやぁ…すげえすげえとは思ってたがこんなにすごいとはな。これなら案外余裕で炎の羽毛ゲットできそうだ。じゃあ行くか!」
「はいっ!」「しゅっぱつしんこー」
誰もレフェルの行方には気を払ってなかったけど、どうやら私たちは出発することになったみたいだった。レフェルは、
「……もし我がメイスじゃなかったら確実に死んでるな。大体…なんなんだあのでたらめな力と、強化された槍の威力は」
*
てくてくてく……。私たちはペリオンを出てから3時間以上歩いてるけど、一向にレッドドレイクの住処には着かない。そんなに遠いところに住んでるのか な…?あんまり近くても怖くて生活できないけど、これはいくらなんでも遠すぎるよ。
「ねぇ…さっきからおんなじ様なところぐるぐる回ってるような気がするんだけど、まだ着かないの?」
先頭で地図を見ながら歩いてるのはシュウ。PT屋でもらった情報を基に地図を作ったから、任せとけなんて言ってたけど……。
「いや…この辺に危険な谷って言うドレイクたちの住処があるはずなんだが……どこだろな。ぜんぜんわかんない」
やっぱり迷ってた…
続く
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