「ふぁーあ…」
グミは部屋から出るなりすぐに、大きなあくびをし、眠い目をこすりながら下への階段を下る。今の時刻は午前6時…普段グミが目覚めるのは最高でも8時だか ら、これは異例中の異例といっても過言ではない。ではなぜ、グミがこんな時間に起きているかというと、話は4時ごろの事件まで遡らなければならない。
*
朝の4時。グミの部屋のドアがノックされた。当然グミはぐっすりと眠っていたし、シュウ も確かではないがおそらく眠っていたと思う。
 だが、何者かによってドアはノックされた…まぁ要するにそれはユアだったのだが、シュウでないのに、こんな時間にやってくるとは非常識極まりない。そし てこの突然の来訪者により、グミは驚いて騒ぎ、眼を覚ましてきたシュウもいつものテンションでその騒ぎに加わった。
 そしてその結果…・隣の部屋で寝ていた女戦士やほかの観光客に散々説教され、宿の主人からも注意を受けた。その間計2時間、4時から2時間経過し、ちょ うど6時…つまりグミは、ついさっき開放されたばかりなのだ。
 そんなこんなで話を元に戻す。ちなみに今回の語り部が我ことレフェルな理由は,今後の展開にて理解いただけることだろう。
グミは何度も口から出てくるあくびを何とかかみ殺し、胸をそらせ大きく伸びをする。今までのパターンから言えば、グミはまず顔を洗って、眠った後は必ずと いっていいほどハネる髪を整えるだろう。だから、今回はシュウを見ていることにした。まぁ…どうせ銃をいじってるか、アンテナ以外の髪を直していると思う が…ん? いない。銃もいじってないし、鏡台の上に居座ってもいない。となると抜き撃ちの練習だろうか…だが銃声はまったくといっていいほど聞こえない。 いったいどこに行ったのだろうか。
 我が考え事をしている間にグミの身だしなみが終わったようだ。グミは我をつかみ、食堂へと向かった。
「みんなおはよ〜」
「おはよう」「おはようございますー」
シュウとユアの声、どうやらシュウはユアと何か話していたらしい。いったい何を話していたのか気になったが、まぁいずれわかるだろう。
グミは机の周りをぐるっと一周して「あぁ〜」っと声を出してから、「オホン」と軽くせきをする。
「えーっと、本日朝6時30分。朝食の前に恒例の『第二回PT会議』を始めたいと思います」
「なぁ前置きはいいからさっさと始めようぜ。メシが来ちまう前にさ。」
シュウが茶々を入れる。ユアはこういうことが初めてなのか、両手でその整った顔を支えるように、こちらを眺めていた。前回と同じくグミは、シュウの無神経 な発言に怒る。
「もう! これやんないと雰囲気でないでしょ!? それに発言は手を上げてから!」
「わぁったよ。はい! これでいいか?」
シュウは嫌々ながらもゆっくりと手を上げる。
「はい、シュウ」
「今日の議題についてだが、『ユアをPTに加えるために炎の羽毛をゲットする』ことについて話し合うんだよな?」
「うん、そうだよ」
グミの肯定。シュウは、
「だったら俺に司会を代わってくれないか?いいアイデアがあるんだ」
いつになく真剣なシュウに、グミがたじろぐ。いったいどういう風の吹き回しか…。グミはシュウのやる気多少気圧されながら、
「そ…そうまで言うなら。今日の司会はシュウお願いね」
グミは自分の前の席に座り、代わってシュウが立ち上がる。
「えーっと…これから話すことは大事だからよく聞いてくれ。さっきも行ったが、俺たちはユアをオヤジから解放して、仲間になってもらうために『炎の羽毛』 を手に入れなければならない。だが、炎の羽毛を唯一持つモンスター『レッドドレイク』はバケモンで、俺たち程度の強さでは到底敵わない…・とまぁ、その辺 は理解してくれてるよな?」
グミは軽くうなづき、
「だからこないだのカッパードレイクより強くて、おまけに炎を吐くんだよね。シゲじいのモンスター辞典を見たけど、シュウの言った通りでかなり怖い よ…」
グミはいつの間にかかばんから取り出した古ぼけた本を開き『レッドドレイク』のページを開く。全身が真紅の鱗に包まれた異様に頭の大きな恐竜…この間の カッパードレイクと酷似しているが、イラストには炎が書き加えられており、心なしか眼光が鋭く、凄みを増している気がする。説明はシュウの言った通り、ド ロップ品にも赤く炎の羽毛と書かれていた。そこでユアがとんでもないことを言い出す。
「へぇ…レッドドレイクってこんなに怖いモンスターなんですね…初めて見ました」
「え?レッドドレイク見るの初めて?」
シュウが机に身を乗り出してユアに顔を近寄せる。ユアは少し狼狽しながら、
「えっと…初めても何も、わたし勝手に他の所に行ったりすると怒られるので、あまり人気のないところでデンデンやスタンプばっかり狩ってたので…」
「あぁ…なるほどな。だからそう簡単にOKできたわけだ……じゃあ話を戻すぞ」
「うん。何か朝ごはんのいい匂いがしてきたから手早くね」
グミの言葉で、シュウは多少やる気をそがれたようだったが、なんとか続ける
「…できるだけな。じゃユアを仲間にする方法をひとつずつ挙げていくからよく聞いてくれ」
炎の羽毛を手に入れる方法じゃないのか…?グミはうなづき、ユアは「はい」と返事する。
「1『市場に行って、炎の羽毛を手に入れる。』…だが、炎の羽毛は1M以上もするため買うことは不可能…よってぱくるしかない」
「…いきなりそれ!?」
グミが驚くのも無理はない。いかにも犯罪だし、いろいろと問題もある。我は、
「そんなことをしたら炎の羽毛を欲しがっているユアやお前たちが真っ先に疑われるだろう。だから1は無理だ」
「そうか…まぁ俺もこれはやりたくなかったんだが…」
シュウの顔はこれが一番楽だったという顔をしているが…
「2『あのくそオヤジをぶちのめす。』…これが手っ取り早い!」
「…そんなことしたら本当に戦士ギルドに…」
ユアのもっともな意見。…というかあいつのいいアイディアってこれか。。
「まぁこれは最終手段ってことで。3『レッドドレイクからもらう。』…」
「だからそれは無理だって自分で言ってたじゃない…」
腹が減ってイライラしてきたグミがシュウに突っ込む。何考えてるんだ…。シュウは落ち着いた表情で、
「まぁまぁ最後まで話を聞けって。もらうって言っても倒さなきゃいけないってことはない。よーするに、まず炎の羽毛を生やしたレッドドレイクを見つけ、誰 かが囮になって注意を引き、その間に誰かがこっそりと炎の羽毛をむしりとればいい」
「それでそのおとり役ってのは、当然シュウがやるんだよね?」
「やっぱりそうなるか…言い出しっぺだし、しょうがないとは思うが…。とにかく、3番目のアイディアに不服はないんだな?」
ユアとグミはどちらもこれで賛成らしい。我としては具体的に誰があの凶暴なレッドドレイクから炎の羽毛を奪うかが決まってないのは問題だと思うのだが。
「よし! じゃあ3の作戦で決定。ってことでとりあえず正式じゃないが、仮PTを組むってことでいいよな? いいやつ挙手!」
グミとユアは、ほぼ同時に手を上げる。我にも手があれば上げていたかもしれない。シュウは、
「じゃあメシにしようぜー! 腹が減っては戦はできぬってな」
さっきまで真剣そのものだったシュウがいつものシュウに戻る。それと同時にグミの腹が鳴ったように聞こえたが、口にするのはやめておこう。触らぬ神に何と やらだ。