「はぁはぁ…ユアさんもシュウも早すぎだよ〜」
時刻はまだ5時ごろだったが、この季節にもなるともう薄暗くほとんど夜と呼べる暗さだ。私のこぼした愚痴にレフェルがだいぶ遅れて反応する。
「…ぁ。シュウがあの家に張り付いて何かしてるぞ」
レフェルには目がないのでどちらを向いているのかわからないし、指がないのでどちらの方向かというのもわからない。一応私は辺りを見回してみたけどそれら しきものは見当たらない。…ただでさえ黒いコートなんて着てるからねぇ。
「レフェル、いないんだけど…どの家に張り付いてるの?もっと具体的に教えてよ」
「目の前にあるやたらデカイ家だ。それにしてもデカイ…大富豪でも住んでるのだろうか。」
わ…あんまりにも大きくて城壁かなんかだと思ってたら、よく見たら窓もドアもある大きな家…むしろ城って言ったほうがいいんじゃないかな。
まぁ家の大きさはおいといて…シュウは黒いコートに身を包み、その家の壁にべったり体をつけて何かをしているようだった。壁に耳を当てたり、窓をのぞいて みたり…もしやまたあのときみたいに不届きなことをしてるんじゃないだろうな?
私はシュウの背後から忍び寄りぽんと肩をたたく。
「…!!!」
シュウは声こそ出さなかったが、ものすごくびっくりしたらしく、一瞬固まってからものすごい勢いでこちらへと振り返る。
「ほっ…グミか」
「ねぇなにやってんの? まさか…」
シュウは口の前に指を立てるお決まりのポーズをする。
「シッ! あんまり大声でしゃべるな。見つかっちまうだろ」
(別に見つかったわけじゃないんだから怒ることないでしょ? それに見つかったらまずいようなことしてるんじゃ…)
(いや、これは別にそういうやましいものではなくてだな。やべ、見張りが着たから一瞬引くぞ!)
かすかに誰かが歩くような物音が聞こえてくる。
(ちょ…ちょっと待っててば! 何のためにそんなことしてるのさ?)
(それは後々…)
「おい! そこのお前! そんなところで何をしている!!」
…見つかった!? なんか言い訳を…
「えっと…私たちはその…別に怪しいものじゃ…」
うーどうしよ。あからさまに怪しい。でも他に言い訳なんて思いつかないし…あれ、シュウがいつの間にかいなくなってる。もしかして私をおいて逃げたん じゃ…。
「私たちって一人じゃないか。怪しいやつだ…とにかくこっちに来て話を…うっ」
私にこっちへ来いといっていた警備員らしき人が急にうつぶせに倒れる。銃声もなかったし、血も流れてないから、銃で撃たれたわけじゃないみたい。倒れた警 備員の後ろから怪しげなアンテナ男が現れる。
「ふぅ…危ないところだったが、このシュウ様のハイパー手刀さえあれば警備員の2〜3人余裕だぜ…」
「何気絶させてるのよ!こんなことしたらそれこそ大事になっちゃうんじゃ…」
シュウは話を聞いるのかいないのか、その辺にあった紐で警備員を後ろ手に縛り上げ、近くにあったゴミ箱に押し込む。
「よいしょっと…。なぁに問題ないさ。俺の姿は見られてないし、見られても度折ったことない。それよりさっさと作業に戻らないと大事な部分を聞き逃しちま うかも!」
…もう何がなんだかわからない。とりあえず聞くだけ聞いてみよう。
「シュウ、何回も聞いてるんだけど、何してんの?」
「ん? あぁ…盗聴だよ。この家の壁は結構厚いし、防音加工もされてるんだが、シュウ様盗聴セットを使えばちょろいもんだぜ」
シュウは内ポケットからいかにもそれっぽいものを取り出し、壁に押し当てる。…でも、あれってどう見ても普通の聴診器に見えるんだけど…。
「ムムッ…! 何だってコノヤロウ…絶対後でぶち殺す」
うわ・・なんかものすごく物騒なこと言ってるよ。でも、あれでも聞こえてるってことは、あの聴診器が特別なのか…それともシュウの耳がいいのか…多分耳の 方だと思うけど。
「シュウ…さっき聞きそびれたんだけど、何でこの家盗聴してるの?」
「ちっくしょうあのオヤジ…ユアちゃんは動物じゃねぇぞ!! ん…? なになに…ってんなの無理に決まってんだろうが!!!」
うわぁ…ぜんぜん聞いてないけど、今確かにユアって言った。ということはこのお城みたいな家がユアさんの家?
でも、こんなにお金持ちなのにどうして果物ナイフで戦ってるんだろう。
シュウの盗聴は続く。
「ん…あっ! あの野郎、ユアちゃんをどこに…くそっ、鍵までかけやがった。…音からして、大分上…屋根裏か?」
どうやらユアさんはこの家のご令嬢とかそんなんじゃないみたい。というか…普通盗聴器でも、鍵かける音までは聞こえないと思うんだけど。
「グミ、ユアが上のほうに閉じ込められてる。助けに行くぞ!」
「え?ぜんぜん話が飲み込めないんだけど。まぁとにかく、助けに行くのね?」
「そうだ。じゃ先行くからついて来い。いくぞっ!」
「うん!」
さて…上るっていうからにはどこかに階段かはしごが…ってシュウは壁のわずかな隙間やへこみ、出っ張りなどに手をかけ、足をかけ上っていく。あんなことで きるか!
盗聴といい、壁のぼりといい…こいつ、変態すぎる!
*
「よっと! 案外楽勝だったな」
俺はグミが付いてこれないことを承知で壁をよじ登る。ようやく窓か…。
俺は窓を開けようと手を伸ばすが、どうやら鍵がかかっているようで開かない。俺は左手だけで壁にしがみつき、内ポケットから使い慣れた針金を取り出す。
「よーし…これで…」
針金を窓のわずかな隙間、もしくは鍵穴に差し込んで開けてやる…つもりだったが、どうやらこれは普通の窓とは違うことがわかった。そう…これは開けること も閉めることもできないはめ込み式の窓だ。部屋の中は暗闇、どうせあのクソオヤジのことだ。。明かりなんてないのだろう。
…さぁてどうやってはいるか。ユアが反応するかもしれないから、とりあえず窓をたたいてみるか。
「コンコン!」
暗闇の中で何かが動く気配がした…。予想通りユアは閉じ込められていたようだ。
続く
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