思い出した…あの時、そう…PTを探しに一日中ペリオンにいる人全員に話しかけてみ た。
で、全員断られたんだっけ。理由は確かシュウが変だったのと、私たちが弱そうだったってことだった気がする。
でもね、そんなことは今は関係ない。大事なのはその後食堂でご飯を食べたこと。
食堂で私とシュウは変な噂を盗み聞きした。
「新大陸のモンスターがこっちの大陸に来ている」
確かそんな感じだったと思う。そのときはさほど気には留めなかったけれどね。
で、しばらく待って料理が届いたんだけど、そこのウェイトレスがシュウの頼んだラーメンを思いっきりぶちまけ
た…それをやったのが「ユア」っていう女の人。
長い銀髪にトパーズ色の瞳。町を歩いていれば人が自然と振り返る…そんな感じの人だった。
その彼女が私の前にいる。私が…いや、私とシュウが初めてあった時とは違って、なんだか…なんて言ったらいいんだろう…。シュウならきっとこう言うのか な…「狼」って。
*
「どうして私の名前を知ってるんですか?」
銀髪の美女、ユアさんは私とシュウに対して尋ねる。確かに知らない人に名前を言い当てられたら私だってびっくりするに違いない。でも私たちは初対面じゃな い。ましてやシュウなんてあんたにラーメンぶっかけられたんだよ…?
彼女の弁では「数え切れない人に料理をぶっかけた」らしいけど、それでも忘れるなんてどうかしてる…と私は思う。
まぁ…それが変かどうか判断するのはシュウだと思うけど。シュウはそんなことなどまったく気にしない様子で、
「まぁ人間だし忘れることもあるわな…。それよりさっき君が戦ってるの見てたんだけど、ものすごく強いな。というよりあのスピードは尋常じゃない。盗賊か なにか?」
ユアさんは、
「えっと…わたし、武器も防具もないけど…一応戦士です」
戦士だって…? 私の想像してた戦士ってのは、コウさんみたく重そうな鎧をまとって、でっかい剣とか斧とかで、力で相手をねじ伏せるって感じだったんだけ ど、ユアさんの装備はデンデンも殺せないような果物ナイフにぼろぼろになったウェイトレスの服だけだった。シュウは笑いながら、
「戦士だって? …ったく、かわいい顔して冗談がうまいぜ」
「冗談じゃないです。ついさっきそこで2次試験に受かったんですよ。ほらこれ証拠です」
ユアさんは、ポケットの中から私たちと同じようなスキルブックを取り出して見せる。表紙には確かに戦士と書いてあった。冗談じゃないらしい。シュウは、
「うっわあ…マジで戦士だ。すっげぇ…!! 戦士なのにあのスピード、技術…きっとパワーもあるんだろうな。ちょっとグミ、耳貸して」
シュウは私がうんともすんとも言ってないのに、既に内緒の体勢に入っていた。
(なぁ…あのコPTに誘わないか?)
(え…? 本気で言ってるの?)
(本気も本気。あんなにかわいくて、しかも強いなんて反則だぜ。レベルもちょうど近いし…な?)
ユアさんは、落ち着かない様子で辺りをきょろきょろ見回している。どうしよう…でも、まぁやるだけやってみよう。
私たちは前線で戦ってくれる戦士が必要だし、シュウが「強い」って言うくらいだし、かなり強いのかもしれない。
(…じゃあ誘ってみるね。でもその前に)
(なんだよ。)
(変な気起こしてないでしょうね。)
(俺がいまだかつて変な気など起こしたことがあったか?)
(あんたはいつでも変よ。まぁいいわ。誘ってみる)
言ってしまったからには私も覚悟を決めて誘うことにする。すーはー…深呼吸をして私はユアさんに話しかけてみる。シュウにはあることないことずかずか言え るのに、ユアさんに話しかけるとなるとなぜか自信がない。私がママ以外の女の人と話した経験がほとんどないからかな…。私はかなり挙動不審ながらも、言っ た。
「あの…ユアさん。もしよかったら私たちとPT組みませんか…?」
よし! 途中少し声が上ずったけどなんとか言えた。シュウも後ろで上に親指を立ててる…気がする。ユアさんは、
「あの…PTってなんですか?」
な…30レベルにもなってPTを知らないのか!でもよく考えたら私もPTって知らなかったっけ…。
「PTを組むって言うのは…確か、一緒に旅をする仲間になって、力をあわせて戦ったり旅をしたりするってことです。どうですか…?」
一瞬ユアさんの顔が輝いたように見えたが、すぐにうつむいてしまう。
「わたしは…そのPTって言うのはできそうにないです」
「え…どうして…ですか?」
「わたし…ペリオンを離れられない事情があるんです。それにわたし、本当は…」
シュウが後ろから話に割り込んでくる。
「本当は狼だって? そんなこと大したことないじゃないか」
ユアさんは目を見開いて、いかにもびっくりしたって感じの顔になって、すぐに泣き出しそうな顔になる。
「あの…誰にも言わないでください! お願いします」
「いや泣かないでくれ…誰にも言わないから。ってすんなり認めちゃうのかよ!」
ユアさんは、
「わたしのことを狼だって気づいた人はみんな…人が変わるんです。ある人は私のことを恐れて近づかなくなって、ある人は私のことを殺そうとしたり…」
というか…自分が狼であることは否定しないのね。嘘をつけない性格なのかもしれない。でも、どう見ても人間だし、普通に生活していれば絶対に狼であること は気づかれないんじゃないかな?
「俺はそんなことしたりしないよ。グミもきっとそんなことしない。だから…な? 一緒に行こうぜ!」
「だめなんです…わたしといるとあなたたちは不幸になるし、それにご主人が…」
「ご主人って誰だよ? 困ってるんなら相談に乗るぜ」
まさかシュウの口から相談に乗るなんて言葉が出るなんて夢にも思わなかったよ…トラブルを起こすのはいつも自分なのに…。ユアさんは、
「ご主人には逆らえないんです…あっ…もうこんな時間! 急いで帰らないと…。あ…楽しかったです。人と話をしたのなんて久しぶりで…また今度会えた ら」
シュウは、
「ちょっと待ってくれ、俺たちも一緒に行く」
「え? カニングに行くんじゃないの?」
「んなの後回しでいいだろ。せっかくいい仲間になってくれそうなやつがいるんだからな」
ユアさんは少し考えて、
「誰にも言わないって約束してくださいね。それとついてきてもいいですけど、わたしも全力で走りますから…では」
一筋の風が通り過ぎたと思うと、ユアさんの姿はどこにも見当たらなかった。ってシュウもいない!!あんな超人たちに追いつけるはずないと思った私はとぼと ぼともと来た道を戻っていく。
「ねぇレフェル…あのユアって人大丈夫かな」
「大丈夫かどうかは知らんがもしものときは、シュウが責任をとてくれるだろう。だが我はそれよりも「ご主人」が誰か気になるが…」
あんなに強いユアさんが恐れる「ご主人」いったい何者なんだろうか…。まぁその答えも近いうちに見つかるだろう。私は帰り道の予想以上の長さと、もう見え なくなった二人の姿に小さなため息をついた。
続く