急げ急げ…もしかしたらまだ間に合うかもしれない。私たちはカニングシティ…正確にはコ ウさんが行ったほうに向かうために、宿に置いてきた荷物を整理していた。私の荷物はそんなにないからもう準備できた…?
ぁ…レフェル忘れてた。。よしこれで準備万端。いつでも出発できる。がしかし、シュウがまだだった。どうやら鏡の前で何かごそごそやってるらしい…
「ちょっとシュウ! 何ゆっくりしてるのよー。早く行かないとコウさんがどっか行っちゃうよ!」
「ん、あぁ…まだ大丈夫だろ。髪がうまくキマんないんだ」
シュウはそのまま髪をいじっている。あのアンテナの方がコウさんより大事なのか! 私はカバンからナイフを取り出してシュウの背後に忍び寄る。
「そんなアンテナのどこが大事なのよ! いっそこれで切って…」
シュウは最初から気づいてたらしく、くるりとこちらに向き直る。
「いやそんな物騒なものしまってくれよ! それに俺はアンテナを手入れしてるんじゃない。これは勝手に立つんだ!」
勝手に立つってどんな特異体質だ…角かなんかじゃないの…?
「そんなのどうでもいいからさっさと行こっ!」
私はシュウのアンテナを引っ張って、そのまま連れて行こうとする。シュウはかなり慌てながら、
「分かったからそこ引っ張るなって! それとナイフしまえ…いやしまってください」
シュウは私に脅されながらもてきぱきと旅の準備をし始める…といってもシュウにはほとんど持ち物と呼べるものはなかった。銃、銃弾、バズーカ、コート…そ れだけ。残りはコートの中に入ってるのだろうか。シュウのこと詮索してる場合でもないか…シュウの準備も終わったみたいだし、即出発!!! 私とシュウはダッシュで宿屋を飛び出した。
誰もいなくなった部屋でレフェルがつぶやく。
「朝っぱらから忙しいやつらだ…って我を忘れていったか…」
*
私たちがペリオンから出たときには、コウさんの姿なんてあるはずがなかった。ただでさえ 無理っぽかったのに、あの二人…いや一人と一つのせいだ!
「もう…シュウとレフェルが遅いから、コウさんどっかいっちゃったじゃない…」
「いや…そんなに怒らなくても…。悪気はなかったんだって」
「我を忘れてったのはグミだろう…それにコウだって自分の道を進むって決めたんだからほうって置いたほうがいい」
「分かってるけど、途中まででも一緒に行けたらいいじゃない…」
「まぁな…でも過ぎたことは忘れて、俺の転職にでも専念しようぜ。グミもあと1レベルで転職なんだからな」
確かにそうだ。でも、私って1次職がクレリックだったから転職できないような気がするんだけど…・
「そうね…それでどのくらい歩けばカニングシティに着くの?」
シュウは大きめの岩の上に乗って辺りを見回している。
「うーん…まず、ここどこだ?」
「え…シュウがずんずん進んでくからてっきり分かってるものだと…」
「いや全然しらねぇよ。カニングシティから出たことないし、あの時そんな余裕なかったから」
そういえば私、シュウの昔のこと全然知らないかも。この機会にいろいろ聞いておくか…
「ねぇ、シュウって…」
「おい! あそこになんかいるぞ!」
聞けよ! と心の中だけで叫ぶ。シュウは何を見つけたんだろう…
「…なんかってなにさ?」
「いや…ここからじゃよく分からないけど…戦ってるみたいだ。行ってみようぜ!」
「戦ってるって…ちょっと待ってよ!」
シュウは面白そうなものを見つけると、私なんておいてあっという間に行ってしまう。少しは気を使ってくれてもいいと思うけど…とにかく追いかけてみよう。
シュウは脇目も振らずにまっすぐ…といってもそこら中に岩とかモンスターとかがあるんだけど、無意識のうちに飛び越しているみたい。向かってる方向は…小 さな木の看板が分かれ道に立てかけられていた。
【2次転職場】
2次転職場だって…!? 戦ってるってコウさんのことかな…? シュウはさっきと変わらないスピードでどこかへ向かって走り続けている…と思うと突然立ち 止まって岩陰に隠れる。なんかストーカー変 態ぽい…。一応私も岩陰に身を潜めてみる。
「シュウどうした…うくっ」
シュウは私の口をふさいで、人差し指を立ててシーっと言っている。全国共通の静かにしろとかそういった合図だ。
(ねぇなにが見えるの?)
(あれ…見てみろ。)
シュウが指差した先には…無数の切り株が横たわっていた。シュウの指は何かを指差し続けているようで、とめどなく左右に動いている。私に見えたものは…銀 光がきらめいて、その後すぐに切り株に無数の切り傷ができるというそれだけだった。
(ねぇ、あれなんなのさ? かまいたちかなんか??)
(ちょっと見てろ。)
シュウはそばに落ちていた小石を、何もない空に向かって放り投げる。
「キン!」
硬いものと硬いものがぶつかり合う音…音の主は、高速移動を急停止させ、こちらへ振り返る。それは長い銀髪の女性で、どこかで見たような服を身にまとって いた。手にはかなり小ぶりの刃物が握られている。
「よう! 元気にしてたか?」
「あの…どちらさまでしたっけ…?」
シャープな外見に似合わず、意外とかわいらしい声だった。
「俺だよ、ほら…ラーメンのスープをぶっかけた…」
銀髪の女性は少し考えながら、
「わたし、数え切れないほどの人にいろいろかけたんで…あっ!」
「お! 思い出したか!?」
「えーっと…違ったらごめんなさい。コウさんですか?」
「あいつもかけられたのか…。俺の名前はシュウだよ」
またも銀髪の女性は考え込む…覚えてないらしい。。その代わり私はあのとぼけた女のことを思い出した。
「あの…確かユアさんでしたっけ?」
「そうですけど…どうしてわたしの名前知ってるんですか?」
続く
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