僕は背中の鞘に剣を収めながら彼が世話になっていた下宿先に走っていく。荷物は昨日のう ちにまとめた。自分の決心を変えないためにも、あの2人と奇妙なメイスから離れなければならない。
「ハァハァ…」
体力には自身があるが、スピードではシュウに分がある。グミさんは置いていかれているようだが、とにかくやばいことに代わりはない。
 僕は下宿先の前に準備しておいた必要最低限の荷物を背負い、カニングシティへの出発へとまた駆け出す。
もちろんシュウに追いつかれないように裏道を通っていった。これできっとまけただろう。が、しかし出口には一人の少女が両手をめいいっぱいひろげてとうせ んぼしていた。その格好はラフな普段着に巨大な鉄球つきのメイスを地面に突き立てている。見間違うはずなどない。グミさんだ。
「そこをどいてください!!」
「絶対通さないから!!」
グミさんはあくまで通さないつもりらしい…強行突破しかあるまい。僕はグミさんを飛び越えるのは無理だと判断したので、グミさんには悪いけど、突き飛ばし て通るしかない。
ボクは瞬時に決断し正面からグミさんめがけて突進する。
「通さないって行ったでしょ! マジックシールド!」
グミさんは地面に突き立てられたレフェルに手を添えて薄い光のシールドを展開する。勢いよく盾に突っ込んだ僕は同じスピードで元の位置まではじき返され る。僕は全身を地面に打ち付けたが、とっさに受け身を取ったためにダメージはほとんどなかった。僕は既に立ち上がっている。
「どうして邪魔するんですか! 僕たちはまだPTじゃないでしょう? どうしてもそこをどいてくれないなら…」
僕は愛刀クロディを鞘から抜き出し、スティンガーの体勢を構える。刀身を横に伏せ、地面と水平に真っ直ぐとグミさん…正確にはマジックシールドへと刃を向 ける。このスティンガーは盾を破壊してグミさんを傷つけるためのものではない。僕だってあの薄い膜がドレイクの攻撃をはじき返したのを見ていたのだから、 あの盾の強さは熟知しているつもりだ。だから一点に重い一撃を叩き込んだあと、ふらついたグミさんをやり過ごして逃げればいい。
グミさんを傷つけるつもりなど毛頭ない。
「グミさん、逃げてくださいね…スティン…」
後頭部に当てられた冷たい感触に、スティンガーが発動する前に止められる。
「コウ、何やってるんだ? グミを傷つけたりしたら、ただじゃ済まさないぞ」
 いつの間にかシュウに追いつかれていた。シュウは今僕の命を握っている。生かすも殺すも自由…死にたくなければ武器を下ろせといっているのだ。言わなく てもわかって。僕はやむなく地面に地面に投げ捨てる。
「グミさん、シュウ…これで分かっただろ? 僕がなんかとPTを組まなくても、君たちはやっていけるさ」
 本音が出た。これが僕の結論…グミさんが何か言う。
「私はただ…お別れが言いたかっただけなの。何も言わないで、ただ出て行くなんてずるいよ」
 そういえば僕は出て行くといっただけで、お別れを言わなかったかもしれない。だがもう会うこともないというのに、別れは必要なのだろうか?
「え…お別れを言うためだけに追いかけてきたのか? 俺はてっきりボコしてでも無理やり仲間にするのかと…」
こいつ…やっぱりバカだ…。僕は、
「グミさん、シュウ、わざわざお別れを言いにここまでありがとう。僕は、今より強くなるために修行するよ。そしてシュウ…」
「ん?」
「お前は僕のライバルってことに決めた。お前は僕が倒す。だからそれまで絶対に負けるなよ」
「ああそっちこそ死なねぇように頑張れよな。俺が負けるなどありえないけどね」
一体何なんだ、この根拠のない自信は。まぁ…あいつらしいな。
「コウさん、また会うときまで元気でね。私たち待ってるから」
僕は軽くうなずき、これでグミさんの声も聞き納めかなと思う。僕は二人に手を振って、出口へ向かって歩みだす。
「何度も言うけど死ぬんじゃねぇぞ。それとペリオンをでてどこに行くんだ?」
僕は振り返り、自分の本を二人に見せる。
「30レベルになったから、2次転職をしに行くんだ。僕は強くなる!! 誰かを守れるくらいにね。じゃあ行くよ」
そう、僕はこの間の狩勝負で4レベルも上がった。
勝負に負けはしたが、この成長は大きい。僕は二人に背を向け新たな一歩を踏み出す。次に会うときには奴を…
*
「行っちゃったよ。また会えるかな…」
私はレフェルにだけ聞こえるように小さくつぶやく。
「また会うだろうな。それよりも、もしコウがPTを辞退せずどちらか一人選ばなければならなかったら、どっちを選んだんだ?」
シュウは自分のコートを押さえながら何かを探している。
今なら…
「それは…シュ…」
「おーい! グミ、これ見て見ろよ」
シュウ自分の本…サインするときに無茶やったせいでいたるところに血が飛び散った本を見せる。私は慌てて言葉を飲み込んでしまった。
「ほらここだよ。30レベルだってよ」
確かにシュウの本には30レベルと大きく書いてあった。
前は確か24レベルじゃなかったっけ。とにかく自分のレベルを確かめてみる。
「…29レベルになってる」
前は23レベルだったから、シュウと同じく6レベルも上がっていた。やはりちょっとうれしい…シュウは、
「なぁ、俺が30になったわけだし、二次転職しに行かないか?」
「うん。それでどこの町に行けば、二次転職できるの?」
「それは俺はガンナーみたいなもんだから、カニングシティかな?」
「それってどっち?」
「看板に書いてあるから、多分あっちだ」
 シュウが指差した方向には、ついさっきまで私がふさいでいたペリオンの出口があった。
 続く
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