「オホン…えっと…本日午前10時を持って、これから旅して行くための仲間になる人を、 二人のうちから決定しま
す。何か質問はありますか?」
「何で…」
「シュウ君、質問は挙手を持ってお願いします」
「しょうがないな…」
シュウはゆっくりと手を上げる。
「シュウ君、なんでしょう?」
「あの…まず、なんでこんな面倒なことやってるんだ?」
「うるさいわね。気分よ、気分!こういうのは雰囲気が大事なの!」
…いきなりで分からなかった人も多いと思うので補足しておくが、これはグミの気分で始まった「これからのPT会議」らしい。どうやらPT会議というのは、 そのつどグミの気分で行われるようだが、今回は非常に重要な意味を持っている。
 グミは凄腕のガンナー…いやトラッパーのシュウと、華麗な剣技を持つ戦士コウのどちらかを選ばなければならない。これは狩場勝負でどちらかが決まるはず だったのだが…。グミが勝ってしまったために、再度こんなことになってしまった。これがグミの望んだことなのだろうか…。
「えーっと…話がそれましたが、これから二人のうちどちらかを仲間として選びます。”きちんとした”意見がある人は挙手をして意見を述べてください」
シュウの手が勢いよく挙がる。一方コウはうつむいて黙ったままだ。
「何よ、シュウ」
「何で俺のときだけ露骨に態度違うんだよ!!」
「うるさいわね。その質問は却下します」
「ちょっと待てって! 大事な質問…ってか意見なんだよ」
「だったらいちいち文句言わない! 何ですか、シュウ君」
「あの…あれだ。もう既にどっちを選ぶか決まってるなら早くしてくれ。覚悟ならできてるし、いいならいい、ダメならダメで早く楽になりたいんだ」
なんてストレートな男だ。まぁ他に聞くこともないとだろうが…。グミは少し考えてから、
「えーっと…うん。決まってるわよ」
どうやら決まってないようだ。戦闘ではどんなことでもすぐに判断するというのに、普段は普通以上に優柔不断だ。
「なら一思いにやってくれ。俺が選ばれたら今までどおり頑張るし、選ばれないなら…コウが頑張ってくれると思う。
さぁ…選べ!」
「うぅ…その前に一つ話を聞いて欲しいの。二人ともPTってのはやっぱりダメ?」
二人とも仲間…よくよく考えれば狩勝負自体、グミが望んだものではなかった。
グミが危険を犯してでも狩り勝負に加わった理由…それがこれか。シュウは戸惑いながらも答える。
「…最初はこんなヤツと誰が仲間になんかなるかと思ってたけど…グミがそういうなら俺はそれでもいい。こいつも結構見所あるしな」
シュウはコウの肩をとんとん叩く。コウは先ほどと同じ体勢のまま反応しない。
「シュウならそう言ってくれると思った。コウさんもいいよね?」
コウはまだ少し考えていたようだが、右手をゆっくりと天井に向けてまっすぐ伸ばす。
「コウさん、なんでしょう?」
「僕は…このPTを辞退する」
「え!!?」「はぁ?」「な…」
最後のは我だ。後は想像にお任せする。
「どうして!? そんなにシュウが嫌いなの?」
「おいおい…一緒に命を駆けて戦った仲だろう?」そうか?
コウは両手を前で組み、落ち着いて答える。
「シュウのことは好きでも嫌いでもないよ。そりゃ最初は嫌いだったけどさ…理由はもっと別な所にあるんだ」
グミは恐る恐る聞く。
「もしかして…私のこと嫌いになった?」
普通ドレイクを殴り殺すような女子を好きとか嫌いとか思う前に、怖いと思うだろう。
「グミさんは素敵な人だと思うし、嫌いなんかじゃ無い。問題は僕だ」
「…・・(沈黙)」
いつもタイミングを知らないシュウも、さすがに無言になる。コウが語りに入るのをそのアンテナで察知したのだろう。
「僕は弱い。グミさんやシュウを見てそう思ったんだ。僕じゃきっとグミさんどころか自分自身も守れないって」
グミは、
「コウさんがいなかったら、私なんてトルネードで自滅してたんだよ。それに、全然弱くなんてないよ」
「あれは僕が戦士で、たまたまアイアンボディーを使えたから止められたんだ。もしシュウにもアイアンボディーが使えたら、同じことができたと思う」
コウは続けて言葉を紡ぐ。
「それに僕は…猿に囲まれて気を失いかけたとき、目の前が真っ暗になって何も聞こえなくなった…死ぬと思った。そして呼吸も出来なくなるくらい怖かったん だ。でもグミさんは、自分の見も省みずに僕を助けに来た。自分よりも強い猿の群れにだ。そして…あの時シュウが助けにこなかったら僕だけでなく、グミさん も終わっていた。僕が足を引っ張ったんだ」
コウは二人とはじめて会ったときとはまるで違い、完全に自信をなくしていた。そして自分の無力さ、失望、憤りが自分自身を責め続けていた。足手まといと感 じたなんて、戦士の男が使うには相当苦しく、つらい言葉だろう。
「それに僕は、ドレイクなんて倒せるわけがない…倒すどころか返り討ちにあって殺されると思ったんだ。でもシュウはグミさんと仲間でいたいからと、正面な ら立ち向かっていった。そして最終的にグミさんは自分ひとりでドレイクを倒した。でも僕は…ドレイクに剣を突き立てただけだ」
「でもあれは強化呪文を使ってたし、その後倒れて丸一日起き上がれなかったんだし…」
とグミ。シュウは、
「誰だって死ぬことは怖いさ。もし俺とお前の立場が逆だったらゾッとする」
コウは、自嘲しながら答える。
「お前ならああはならない。僕よりずっと強いからな…グミさんを頼むぞ」
コウは剣を担いで立ち上がる。
「僕は今日、この街を出て行く」
続く
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