チチチチチ…鳥のさえずりと窓から差し込む朝日で目が覚める。私は朝日のまぶしさに目を 瞬かせながら、上半身を起こす。起き上がるときに全身が少し痛んだけど、昨日と比べると随分と楽になった。私は一応全身にヒールをかける。
「ヒール、ヒール、ヒール!」
長い間寝てたせいか、まだ体は重いけど、痛みはほとんどなくなった。これなら立てそう。。
「おはよう。体の方は平気なのか?」
枕元から声がする。置いてあるのはメイス状になってベットに立てかけられたレフェルだった。
「…あ、レフェルおはよ」
昨日まで出そうとしても出せなかった声が出せるようになっていた。
「どうやら元気になったみたいだな…」
レフェルも何だかんだいって心配してたみたい…シュウは何処にいったんだろ。レフェルに何か言われるのは嫌だけど、意を決して聞いてみる。
「レフェル…シュウはどこに行ったの? 強盗か何か?」
「いくらあいつが借金持ちだからといってそこまではやらないだろう…。シュウなら先にPT屋で待ってると言って出て行った。グミも着替えと朝食を済ませた らすぐ行くといい」
「ん? 何でシュウはPT屋何かに行ったの?」
私はシュウがPT屋に行く理由を、単純に思いつかなかっただけなのに、レフェルは心底呆れたような声を出す。表情はないけど、その分口調や話の間で呆れて る様子は分かる。
「…忘れたのか? ドレイクを倒したヤツが勝ちだってシュウが決めただろう。だからお前はシュウとこのまま旅を続けるか、コウと新たにPTを組むか選ぶ権 利があるってことだ。それで、二人してグミの到着を今か今かと待ってる」
ドレイクを倒したヤツが勝ち? そんなこと言ってたっけ…。そのとき私気絶してたと思うんだけど。
…まぁいいやそんなこと。私はベットから飛び起きて、着替えをすることにした。
「ガサゴソ…」
…良く考えたら私、旅だと思って必要最小限の服しかもってないや。いつもの服は来たまま寝かされてたみたいだから、今日はTシャツとジーンズにしよう。さ てと、いつもの服を脱いで…
「…………」
……!? 私がバトルドレスに手をかけたとき、何処からか突き刺さるような視線を感じた…。
「レフェル、あっち向いててよ」
「我はお前の着替えなどに興味はないのだが…まぁ見ないでおく」
レフェルには目はないので、見てるか見てないかというのは分からないけど、どうやら最初に感じた視線はレフェルのものではなかったらしい。その証拠に…ほ んの少しだけあいたドアから血走った目が覗いてる。
私はレフェルを手にとって、本体を龍の口から開放する。
「何してんのよ! このド変態!!!!」
私は怒声と共に解放されたレフェルはドアの隙間めがけて超スピードでとんで行く。
「やべっ…」
変態は急いでドアを閉めるが、レフェルはドアを砕いてそのまま変態の頭部を直撃する。
ゴン!!
硬いものと硬いものがぶつかる鈍い音、手ごたえ有り…。私はレフェルを引き戻し、変態の顔を覗き見る。
「やっぱりシュウね!! PT屋に行くとか言っておいてホントは覗き見するつもりだったとは…」
シュウは痛みに頭を抑えて唸っているが、誰かの手によって、半壊したドアが完全に開かれる。
「だから僕は止めておけって言ったのに…」
額に手を当てながら、シュウを見下ろしていたのはコウだった。気持ち頬が赤い気がする…。
「コウさんまで覗いてたなんて…」
コウは慌てて弁解する。
「いや僕は止めろって何度も言ったんですけど、こいつが勝手に僕を引っ張ってきて…」
「痛っつつつ…。お前だってホントは見たかったんだろ?」
いつの間に起き上がったのか、シュウはコウに茶々を入れる。
「だから僕は…」
「見たかったって?」
二人は無言で睨みあっている。今にもケンカしそう…人の着替えを覗こうとしてしまいには人の部屋でケンカし始めるとは……これには温厚な私もぶちキレる。
「もう! 何でもいいから早く出てってよ! 着替えられないでしょ!!!」
にらみ合っていた二人も、私の声に気圧されてこちらを見る。そしてさも申し訳なさそうな顔しながら、捨て台詞を残して下へ降りていった。シュウは頭からだ らだら血が流れたまま、階段を下りて行く。
「じゃあ先に食堂で待ってるから。言っておくけど別にのぞきに来たわけじゃなくて、グミが遅いから様子見に来ただけだからな! ついでにレフェルもつれて くから」
さっきまで手にあったレフェルがいつの間にかシュウの手に収まっていた。いつの間に取ったんだろ?
それにしても…心配してくれたのは嬉しいけど、覗いてたのは事実じゃない…。とにかくさっさと着替えて行こっと。
私はバトルドレスを脱いで、戦闘用でない普段着に着替える。そういえば何でレフェルまで連れて行ったのかしら?
*
「おい。何故我まで連れて行く」
シュウは名残惜しそうに何度かグミの方に振り返りながらも、コウに引っ張られ、食堂へと 降りてゆく。
「なんでって…お前だけおいしい思いをさせるのは悔しいからな。だからつれてきた」
…読者の方々にも伝えておくが、我はそういったことに断じて興味はない。全てシュウの偏見である。誤解しないで欲しい。
我が呆れて黙っていると、シュウが独り言を呟く…いや、我に言っていたのかもしれない。
「あぁ…俺もレフェルみたいになりてーな」
我のことを何一つ理解してないくせに、軽々とそんなことを言うシュウに、我だけでなくコウも吹き出していた。
続く