夜の夕闇の中、私は目を覚ました。どうやら私はどこかに寝かされているみたいだけど、全 く体が動かない。
ここは何処なんだろう?
何でここにいるんだろう?
どうして体が動かないんだろう?
最初の二つはまず動かないと分からないよね。でもどうして動けないんだろ。…もしかしてこれが噂の金縛りってヤツ!?
うんんっ…両手両足に力を入れてみる。でもピクリとも動かない。動くのは今のところ重たいまぶただけ。…でもこう真っ暗じゃほとんど何も見えない。耳に届 く物音もほとんどなくシーンとしている…ん?
「ぐー」
…!?私のいびきじゃないってことは…何かいる!?もしかしてそれが私に乗っかっているから動けないかも…。
私はもう一度体を動かそうと試みる。うーん…
「いたっ!!」
動かそうとした右腕の筋肉に激痛が走り、思わず声が出る。その声に驚いたのか近くにいた何かは、どこからかドタドタと激しく転げ落ちる。
「ってて…グミ、もう大丈夫なのか?」
私を呼び捨てにするやや高めな男の声。えっとこの声は…
「明かりつけるぞ」
ぽっとランプに火を灯す音が聞こえ、暗かった部屋がぼんやりと照らされる。
「お目覚めか」
今度の声も聞いたことがあるけど、さっきのとは違って無愛想で抑揚の無い声。頭のすぐ近くで話しかけているみたい。私は大丈夫と答えたくなったけど、上手 く口が動かせない。大丈夫じゃないのかもしれない。
私は目だけを動かして声の主を確認する。ランプの明かりだけではよく見えないけど、あのアンテナは多分シュウだと思う。
シュウ。私の呼びかけは声にはならず、心の中だけで響く。
声にならなかったはずなのに、シュウにはわかったようで、
「何も言わなくていい。立て続けにあんだけ無茶やったんだから疲れてるんだよ。明日になればきっと少しはよくなるだろうし、何なら自分の体にヒールかけて みたら?」
…ヒール。これも声にはならないが、ほとんど動かない両手から淡い光が浮かび上がる、光のまわり…手、腕、足、おなか辺りの痛みが少し和らぐ。でも今の私 にはこれが精一杯見たいで光はすぐに消えてしまった。
まだ聞きたいことは山ほどあるけど、それは明日にして今日は寝よう。明日もここでありますように…。
*
…沈黙。変な髪をした男とメイスが面と向かって話している。他から見ると男が独り言を喋ってるように見えることうけあいだ。
「またグミは眠ってしまったようだな。」
「当然だ。あれでぴんぴんしてたらこっちがビビる。ただでさえドレイクをぶち殺したのには驚いたんだからな」
「我はお前にブーストをかけて盾にしろと言おうと思ったんだが…」
男は少し身を引いて、死んだようにベッドに横たわる少女を指差しながら
「お前、俺もこうなる所だったじゃねえか!」
「お前ならここまではならなかったと思うぞ。というかぴんぴんしてそうだ」
「俺はゴキブリじゃねえんだよ。まぁグミもスマッシュの副作用が合わさってぶっ倒れたんだと思うけどな」
グミは我が止めろと言うのも聞かずにスマッシュした。グミは他人の怪我には敏感なのに対し、自分自身にはとことん無関心で鈍感なのかもしれない。
まぁそれがドレイクを打ち倒し、グミ自身を気絶&副作用による全身への大ダメージとなったわけだが。それにしてもどうしてあんなリスクの高い技ばかり使え るようになるのか…スマッシュ、トルネード、ブースト、マジックシールド…どれもグミ1人で使用した場合かなりの危険が伴う。まさかとは思うがグミは他人 と仲間になることを前提に冒険者になったのだろうか…。この点だけはシュウに感謝しなくてはいけない。
「おい。レフェル、寝てんのか?」
「…考え事してただけだ。それにお前を見張っていないと何をしでかすかわからいから眠る気などない」
「うっ…俺だって心の奥底から浮かび上がるヨコシマな気持ちを何とか抑えてるんだぞ…。まぁいいや、俺も寝るからグミが不審人物に襲われたりしないよう に見張っててくれ」
不審人物はお前だという言葉は飲み込み、シュウの行動を見張ることにした。シュウはグミの横に立ち、おやすみといった後額を軽くつついて、自分の部屋へと 歩いていった。
 部屋はグミが眠っていた時と同じように静かになる。聞こえるのはグミの寝息だけ。きっと明日には元気になっているだろう。そしてグミが…二人のうちから どちらかを選ぶことになる。狩り勝負の勝利者はグミなのだから当然だが、その前にシュウが一日寝ず(?)にグミのとなりに座っていたことを伝えるべきかど うかが悩みどころだ。
続く
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