辺りを見回しても、傷ついた猿が数匹取り残されているだけで、恐竜の姿はない。あれほ ど大量にいた猿も、シュウ、コウ、グミの活躍によって大半がやられ、生き残った残り10匹も不利を悟って逃げたらしい。恐竜も逃げたのか?
…先ほどの喧騒はなんだったのか、荒野は静まり返っている。
…カサ
「グミ!!」
何処に身を潜めていたのか、6匹の猿が一斉に飛びかかって来た。
「マジックシールド!!」
グミを中心に薄い光の膜が3人を包む。一見すると触れるだけで壊れてしまいそうだが、その強度は大抵の攻撃を撥ね返すほどだ。盾にぶつかった猿たちは元い た場所へと自動的に戻っていく。
「何のために来たのかしら…?」
我も一瞬グミと同じ疑問をもったが、疑問はすぐに解ける。罠だったのだ。
「グオオオオオーー!!!」
上に気を取られていたグミたちに対し、恐竜は猛スピードでこちらへ向けて走り出していたのだ。恐竜の突進攻撃は激しい音を立てて、グミのMCに衝突する。
「…重い…!!」
盾は何とか持ちこたえたものの、カッパードレイクは何度でも突っ込んでくる。
ガツン、ガツン、…ドレイクの重すぎる攻撃。
それだけでもきついというのに、起き出した猿たちもバナナを投げだした。繰り返されるモンスターの攻撃にグミの細腕はどれほど耐えられるのだろうか。
一方シュウとコウは…
「ソウルブレッド」
シュウの両手の指の間から計6発の弾丸が生み出され、シュウはそれを素早くリロードする。コウは目をつぶり精神を集中しているようだった。
「ソウルブレッド」
同じように右の銃にも弾を詰め始める。準備は整ったようだ。
「グミ、3,2,1でマジックシールドを切れ。オレ達がやる!!」
「分かった…でもあまりもちそうにないの…」
グミの震える体と大量の汗からヤバイことが見て取れる。
「3,2,1…・」
「キャアアア!!」
グミの悲鳴とガシャンという何かが割れるような音が鳴り響く。
グミの限界と共にマジックシールドが砕けたのだ。だがしかし、砕けるタイミングはシュウのタイミングと同時だった。
「パンパンパンパンパンパン」
6発の銃声はそれぞれ猿の顔面めがけて放たれる。シュウは目は目のも止まらぬ早撃ちで猿の急所を破壊し、消滅させる。コウはシュウと示し合わせたかのよう に、猿を全て無視しグミへと肉薄するカッパードレイクへ立ち向かう。
「僕唯一のオリジナル技だ。『スティンガー』!!!」
コウはドレイクの突進攻撃に合わせ、横にねかせた剣を心臓めがけて突き出す。あまりのスピードに残像すら見える。
「グォォオオオ!!」
 コウの大剣はカッパードレイクの胸に突き刺さる。がしかし、硬質な鱗のせいか傷はカッパードレイクを倒すには浅すぎる。
「くそっ…!」
 コウは大剣を引き抜こうとするが、ドレイクの強力な筋肉に付き返され、抜けない。ドレイクはコウの頑張りをあざ笑うかのように剣が刺さったまま振り払 う。恐らく、次に狙うはMPの切れたグミだ。グミはふらふらと立ち上がるがかなり辛そうだ。コウの武器が使えないとなると、シュウしかあるまい。
「シュウ!!」
我が叫ぶ前に、シュウは動き出してていた。
「彗星!!」
シュウが放った彗星はドレイクの右目を抉る。
「グォォオオ!!」
シュウの彗星は目を抉ったが固い頭蓋骨に弾かれ、致命傷にはならない。いやむしろ、逆上させてしまったという点では状況を更に悪化させてしまったといえ る。
「ちっ…とりあえずあいつをグミから遠ざけなきゃな。『ボム』!」
…何も起こらない。
「ん? ボム! ボム! おい出ろって!」
…どうやらガス欠のようだ。すさまじい勢いでスキルを使っていたから当然といえば当然だろう。無計画なヤツのことだから、MP回復薬も使い使い尽くしてい るに違いない。だが恐竜はそんなことを知るわけもなく、グミへと突進して行く。グミは一応我の体を盾にするが、どう考えても勝算はないと思う。だがコウの 武器はドレイクの胸に突き刺さったままだし、シュウは数メートル離れた所にいるので、こうするより他にしかたがない。
「レフェル…守ってね」
守れといわれても、どうすればいいのかとっさには思いつかない。
いや…一つだけある。
「グミ、ブーストだ! それをシュ…」
「ブースト!!」
我はシュウにかけて盾にしろと言おうしたのだが、どうやらグミは自分にかけることだと思ったらしい。
ブーストがかかったグミの周りに激しい旋風が巻き起こる。
「ガシン!!」
我の体に強烈な質量がのしかかる。だが、どこかに吹き飛ばされたり、グミの腕があらぬ方向に折
れ曲がっていることはない。
「受け止めた!?」
コウとシュウは同時に叫ぶ。そりゃあ驚くのも無理はない。自分達でも吹き飛ばされるか、何とか受け止められるかで精一杯だというのに、1人の女の子がドレ イクの突進を1人で受け止めたのだから。グミは自分でも驚きながらつぶやく。
「…!! すごい私ってこんなにすごかったっけ?」
いや、だから強化してるから強いんだ。
「グミ、早くしないとブーストが切れる。速攻で決めるぞ!」
「うん。シュウとコウは援護して」
しばらくあっけに取られていた二人もようやく我に帰り、シュウはバズーカ、コウはその辺に落ちていた棒切れを拾い、構える。
「わぁぁああ!!」
まず動いたのは、もちろん強化状態のグミだ。グミは普段の数倍のスピードでドレイクに接近し、力一杯に我を叩きつける。
「グオオオオオオオオオオ!!!!!!」
鉄球は小さな弧を描いて、ドレイクの顔面を直撃する。ドレイクはのけぞり、血を吐く。かなり効いている様だ。
グミの攻撃は先ほどの一撃よりもスピードを増して、繰り出される。
「えいっ! やっ! とう!!」
気の抜けるような掛け声だが、一撃一撃がドレイクの体力を確実に削ってゆく。シュウやコウも後ろでがんばっているようだが、ドレイクの鱗に弾かれほとんど ダメージを与えられていない。普段とは全く立場が逆である。ブーストがこれほどの効果とは知らなかったが、もしこれをもともと強いシュウやコウにかけたら どうなるのか非常に興味深い。グミでさえこうなのだから、シュウはバケモノクラスの強さを発揮するのは想像に固くない。
「レフェル…あれいくよ」
グミのくぐもった声からしても、あれというのはスマッシュに違いなかった。一応我も注意する。
「ただでさえブーストがかかってるんだ。スマッシュなんて撃ったら…」
グミはドレイクを殴りながらも、小声で言う。
「わかってる。でも、もう失いたくないの」
確かにここでグミがドレイクを倒せなければ、全滅する可能性もある。だがグミは…
「わかった。少しは手加減しろよ」
「うん」
グミは両手で我の本体をしっかり掴み、後ろに思いっきり振りかぶる。
「スマッシュ!!!!」
グミが放った我の本体は見る見るうちにそのサイズと質量を増大させていく。狙うは…ドレイクの心臓めがけて突き刺さったままのコウの大剣の柄だ。
「グオオオオオオオオオオオ!!!」
我が本体は釘を打つハンマーのごとく、大剣を叩きつけ深々と突き刺さる。
「グガガガガ…」
ドレイクは大きく叫んだあと大量の血を吐き出して、最後には巨大な頭蓋骨と鱗、そしてどこかで見たことのある、あちらこちらから棘のように突き出した宝 石…クリスタルを残して消えてしまった。
「やった。あ…」
グミはブーストの副作用とスマッシュの疲労で、どさっと仰向けに倒れる。その光景を見たシュウとコウが慌てて駆け寄る。
「まさか本当に倒しちまうとは…」とシュウ。グミの体は心配じゃ無いのか。
「グミさん、大丈夫ですか!!?」
とコウ。こちらの方が一般的な反応だ。いや…それ以前に誰から見ても大丈夫じゃ無いと思うがな。
「う…ぁ」
グミは疲労のためか、途切れ途切れに言葉を紡ぐ。
「私の…勝ちね。…私と…一緒に旅…するのは…」
……一時の沈黙。シュウかコウか…我に心臓はないが、もしあるとしたらどくどくと早鐘を打っているだろう。
無論、二人ともどきどきしてるだろう。
「s…」
「おおっ!!」
まだ最初の一音しか言ってないというのに、シュウが興奮し始める。
「すー」
グミは静かに寝息を立てながら、眠りに落ちていた。
続く
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