突然剣に衝撃を受け、体勢を崩すコウ。これはもしや…
(この一点にかかる衝撃…銃弾か!!)
コウは崩れた体勢のまま、スタンプに蹴りを放とうとするが、青い銃撃によって空を切る。
「彗星!」
あまりの速度により一本の線にも見える銃弾は、アックススタンプの目玉を撃ち抜き、そのまま貫通して何匹かのデンデンをも貫く。
「いやー大丈夫っすか? 茶髪の兄さん。危ないところでしたねぇ…。油断してるからそうなるんすよ」
「こいつ…」
シュウの横殴りはかなりコウの精神を揺さぶったに違いない。それにあのセリフも白々し過ぎる。
 シュウは何事もなかったようにボムを仕掛けながら、モンスターを一匹ずつ確実にしとめていく。…さすが自分から狩りの鬼とまで名乗ったことはある。
「ちょっとレフェルー! 解説はいいから私にも戦い方ってヤツ教えてよ〜」
グミはデンデンだけを狙って着実に戦利品を増やしていたが、ボムやスラッシュブラストといった範囲攻撃を駆使ている二人にはかなり差をつけられてきてい た。1位はシュウ、次にコウ、グミといった感じだろう。
我としては、シュウが勝てばそれでいいのだが…グミが戦い方を教えないと何をするかわからない。しょうがない…ついでだから技を教えてやろう。
「そうだな。そろそろあの技を使えるかもしれない」
あの技…ポーラはあまり使いたがらなかったが、きっとスラッシュブラストのほうが見た目がよかったのだろう。
「ねぇ…早く教えてよ。早くしないとあの切り株に刺して、レフェルスタンプにしちゃうよ?」
やっぱりそんなこと考えてたか…。
「そんなことしたら手が付けられない強さになるぞ。いや……それよりスタンプが耐え切れずに消滅するかもしれないな」
グミは我の意見など無視し、早く技を教えろと催促する。
「どっちでもいいから早くー」
グミが本当にスタンプの方へ我を向けてきたので、この際解説は放置してそっちに専念しよう。我といえども我が身は大事だ。
「いいか…まず我が本体を引っ張って、鎖を伸ばせ」
グミが適当に我が本体である鉄球を柄から引っ張り出す。大体1メートル位だろうか…まぁこれくらいあれば十分だろう。
「で、どうしたらいいの?」
気が早いヤツだ。話しながらも狩りはやめないが。
「我の柄をしっかり握って、自分を中心に回転するんだ。思いっきりな」
グミは言われるがままに、利き足である右足を軸に回転し始める。何故か爪先立ち…バレリーナかフィギアスケートのつもりかもしれないが、手に持っているも のは凶悪な鈍器だ。くるくるくる…。我が体は遠心力によって少しずつ浮かび上がる。だがこれではまだまだ足りない。
「もっと早く!」
グミは更に回転するスピードを上げ…ようやく鉄球が龍の口の高さまで浮かび上がった。今だ!
「グミ、『レフェルトルネード』だ!!」
「れふぇるとるねーーど!!」
グミは回転しながら、我が適当に考えた技名を口にする。我が身に付けている技はほとんどポーラが名づけたものなので、ほとんど使われることがなかったこの 技には名がない。
「ジャラジャラジャラジャラ…」
グミがレフェルトルネード(仮)と叫んだ直後、我が本体と柄をつなぐ鎖がものすごいスピードで伸びる。正確には龍の口から吐き出されるといった方がいいの だろうか。鎖は2メートル、3メートルと伸び、最終的5メートルぐらいまで伸びた。グミを中心に回転する5メートルもの鎖と鉄球は半径5メートルにいる全 ての魔物(計20匹以上はいたと思うが)をなぎ払う。不運にも鉄球が直撃した円周付近にいた魔物は原形を残さないほどに変形した後、姿を消した。…まぁ初 めてにしては上出来…よし! 第二段階だ。
「そのまま少しずつでもいいから移動するんだ!」
小さな竜巻と化したグミは少しずつではあるが前方…グミにとっては前も後ろも分からないとは思うが、そちらへと移動し、射程に入った魔物をミンチにし、逃 げ遅れた魔物も容赦なく粉砕する。だが一つ困ったことに、シュウまで射程に入っていた。
「うわっ…! 何だその技は…って危ねぇ!!!」
シュウはすんでのところで回避するが、グミの回転は止まらない。いや、止まれないのかもしれない。まだ早かったか。
「止まらない〜〜〜〜!」
このまま魔物を倒し続けるのもいいが、その前にグミの腕、もしくは軸足が限界を向かえてしまうだろう…。どうやって止まるか…。
「シュウ、こいつを止めてくれ。我を受け止めるんだ」
「あんな竜巻を止めろってか…チッ、ガルス…耐えろよ!!」
シュウは腕に装着したバズーカを外し、両手で持って盾のような状態にして、高速回転する鉄球を受け止めるために、竜巻の中に割って入る。
「うぉぉぉぉぉぉおおお!!!!!!」
激しく火花を散らす我が体とバズーカ…。シュウは全力で我が体を止めようと足を踏ん張るが…シュウのボロ靴は、己の形に地面を削り取りながら後退してい く。
「ぐっ…重い!! ぐぁ!」
シュウの必死の抵抗もむなしく、遠心力の乗った鉄球によってバズーカ後と吹き飛ばされる。…こうなったら我を手放すしかないか…。だが手放したら最後、ど こまで飛んでいくか分からないのが難点だが。致し方あるまい。
「グミ、手を…」
「アイアンボディ!」
まさにグミが我を放そうとした瞬間、光の鎧に身を包んだコウが割り込み、我を剣の腹で我を受け止める。
「おおおおおおお!!!!!!!!」
コウもシュウ同様、靴をすり減らしながら後ろに下がるが…戦士だけあってタフネスが違う。
「止まった…」
これは我の声だ。コウを脅かせまいとあまり喋らないようにしていたのだが…つい喋ってしまった。どうやらコウにはよく聞こえなかったらしい。
「目が回る〜〜〜〜〜〜!」
 グミは目を回しながら仰向けに倒れこむ。まぁ何十匹ものモンスターを蹴散らしたんだから、このリスクをとってもトントンだろう。実際、今の猛攻で順位は 逆転し、グミ、シュウ、コウの順になったと思う。とりあえず、グミはもうダメそうだから後はシュウが頑張ってくれればOKだ。
しかし、この考えがあまりに安易だったということに気づくのは大分後のことになる。
「どどどどどどどどどどど」
何だこの地響きは…。
「おいおい…何だよあのでっかい恐竜はよ!?」
この地響きを起こしていた張本人もとい竜……異様に顔の大きな恐竜が、背中や周りに猿を従えながらこちらへと向かってきていた。
コウが思わず悪態をつく。
「クソッ…さっきのルーパンは偵察だったのか!それにしてもどうしてカッパードレイクがこんなところに!!!」
なんだか事態がよく分からない方向に進んできたな。。目を回して倒れてるグミ、鉄球で痛手を負ったシュウ、そしてシュウとグミの対戦者コウ…。そういや前 にもこんなシュチュエーションあった。我のせいでグミたちがピンチになるって状況だ。
続く
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