時刻は明朝…モンスターの住処である深い谷では、二人の男が対峙していた。
一人は青い長髪に巨大なバズーカを背負い、両手に双銃を持った男。髪が数本固まってしまったかのように重力
に逆らって上を向いている。
もう1人の男は短く刈りそろえた茶髪に、鋼の大剣を方にかけ佇んでいる。
「逃げずによく来たな。……コウ!!」
「君こそ来ないと思ったよ、アンテナ君。さっさと始めようか」
コウは両手で剣を持ち、シュウはバズーカを取り出して地面へ立てる。
「ルールは一つでも戦利品が多い方が勝ち。狩場はこの深い谷一帯。妨害、横殴り…なんでも有りだ。時刻は……わかるよな?」
シュウは挑むようにコウを見上げる。
「日没まで…。早くやろうぜ!」
コウはポケットから10メル硬貨を取り出し、シュウに見せる。
「今からこいつを宙に放り投げる。これが地面に落ちたらスタートだ。今も周りを囲まれてきている。…行くぞ!!」
「ちょっと待ったぁ〜!!」
「ん?」
「え?」
町の方向から現れた黒いドレスを身にまとった少女…何も言わずに座っていれば、そこらの女の子より可愛いという感想しか抱けないが、その手に握られた禍々 しいモーニングスターが普通の女の子ではないことをありありと証明している。
「グミ!?」
「グミさん!?」
やけにハモるなこいつら…。グミは邪魔なスタンプやデンデンを蹴散らしながら、こちらへと走ってくる。
「わ…私も…この勝負に参加する!」
コウもシュウもあまりのことに驚きを隠せずにいる。というか我も少なからず驚いている。。シュウは、
「これは俺たちの勝負だ。グミは関係ないだろ」
「そうですよ。グミさん、これは僕の…」
コウもシュウと同意見のようだ。だが、グミも譲らない。
「関係ならありすぎるくらいにあるわ。もし私が勝ったら…」
(ゴクッ…)
普段から痛い目にあっているシュウはつばを飲み込む。もはや条件反射らしい…。
「私が勝ったら、私の好きな人とPTを組むわ」
(じゃあ間違いなく俺だな)
(僕が…)
「じゃ早くコインを投げてよ。私たちもう囲まれてるみたいだし」
グミの言うとおり3人は既に魔物に取り囲まれていた。魔物たちはタイミングを見計らって攻撃を仕掛けるつもりらしい。だが、もうだいぶ痺れを切らしてるよ うにも見える。
「グミ、我を…」
「わかってるよ」
グミは私の本体をカチャカチャっと外す。準備完了。
「チャリーン」
コウが親指に乗せて弾いた硬貨は、回転しながらどんどん上昇して行く。宙に舞った硬貨はある一定の高さまで上昇し、その後重力に引かれ地面へと落下す る………「コン」
「スタート!!」
ついに戦いの火蓋は切って落とされた。司会は我ことレフェルが行う。
シュウ、グミ、コウの三人はそれぞれ一番近い魔物…スタンプ、デンデン、アックススタンプへと近寄る。三人は一体全体どんな戦い方をするのか…。シュウが 動く!
「おおおおお…!!!!」
いつの間にやら右腕のプロテクターに装着していたバズーカと、左手にリボルバータイプの銃を握って。スタンプにバズーカで殴りかかる。
「ぐぐぐぐぐぐ…」
ぐしゃっと言う何かが崩れる音と、形容しがたいうなり声のようなものを上げたスタンプは一瞬自分の身に何が起きたのか分からないようだったが、数秒後に一 つ目を見開いたまま半壊する。
「OK、一匹目」
シュウは周辺を見回しながら、次の獲物を探している。コウの方はどうなっているかというと…
「せいっ!! はっ!!!」
頭上に刺さった斧を武器に突進してくるスタンプを避けることなく、真正面から切りかかり、更に切り返す。あれは2次職のEXアタックと見間違えるほどの素 早い剣戟。スタンプは消失する前に薪に変わっていた。
一方グミはというと…
「えいっ!」
短めに伸ばした鎖と、我の本体を上手に使い片っ端からデンデンを潰している。…今のところ1位はおそらくグミだろう。長いリーチに強烈な打撃。一振りで3 匹のデンデンが粉々になる。案外ポーラの再来かもしれない。
「ドン! ドン! ドン!」
今度は何だ。激しい爆発音…間違いなくシュウだ。どうやっているかはここからではよく分からないが、ところどころにボムを仕掛けながら、戦っているらし い。シュウが魔物と戦闘してるときの隙を見計らって、背後から近づこうとする魔物やわけもなくうろうろしている魔物は、ボムを踏んで勝手に爆殺されるとい うわけだ。これがトラッパーという特異職のなせる技なのか。。
 おっと…シュウばかり見ていては不公平だ。コウはどうなったのだろうか?
見るとコウは10数匹の魔物の群れの中で1人佇んでいる。絶体絶命のピンチだというのに、何故あんな涼しい顔をしているのだろうか?
不意にコウのクロディが赤く閃光を放つ。
「スラッシュ…ブラスト!!!」
コウが体をひねりながら繰り出した回転切りからは、コウ自体から発せられた鎌鼬のような衝撃波がコウを中心に発生する。これにスタンプやデンデンが耐え切 れる道理もなく、上半身と下半身を真っ二つに分けられ消失する。
…強い!! だが、コウの額にはじっとり汗の粒が浮かんでいた。
(何なんだあのガンナー…! ガンナーは弓と同じで接近戦が苦手なはずだろう? それになんなんだあの爆風は…)
コウはシュウの戦闘に焦りを感じながらも、目の前のアックススタンプに切りかかるべく大剣を振り上げるが、刀身に重い衝撃を受け、体勢を崩す。コウの身に 何が起こったのだろうか?
続く
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