In 「ペリオン宿」
食事を食べ終えた私たちは、シュウの部屋で話し合うことにした。私は部屋につくなりドアを閉めて、シュウに詰め寄る。
「どうしてあの時、白狼に止めを刺さなかったの!! あのときやらなかったらまた誰かが被害に遭うかも…」
「信じられないかもしれないけど…あれは狼でもないし、魔物でもない」
シュウが意味不明なのは今に始まったことじゃないけど…信じる以前に何が言いたいのかわかんないよ。
「じゃあ何だって言うのよ」
「自分でもよく分からないんだが…あれは多分ユアだ」
ユアって…確かシュウにラーメンをぶっかけたウェイトレスじゃ…。でもユアは人間だし、さっきの白狼はどう見てもモンスター…。何言ってるのこいつ。
「…なんでその…ユアだと思うのよ」
シュウは考えながら、
「あの狼は豚や鶏を食ったが、人間には傷を負わせはしたが……てない。もしヤツが魔物、もしくは獣だとしたら、急所を狙って一撃であの世に送る…どんなに 弱いヤツでも数で来られると不利だからな。もし俺が白狼だったら、どんな雑魚兵士だろうが殺す…いや近くにいるやつを皆殺しにしてから食事だ。だから、ヤ ツ…余計な血は流さないっていうのが人間くさい」
あんな短い間にシュウはこんなこと考えてたんだ。普段何も考えてないように見えるけど…。
「人間かもしれないってのは分かるけど…まず、なんで人間が狼になるのよ。それにユアかどうかなんて全然…」
「血のにおいがしたんだ」
「え?」
「レストランで飯を食った(?)とき、ユアから血のにおいがしたんだ。それと、俺が殺られそうになったとき…一瞬だが俺のことを見て目つきが変わった。そ の後、それまであった殺意っていうか…傷つけるぞって感じがなくなったんだ。だからあいつは…きっと」
シュウが何が言いたいかはひしひしと伝わってくる。
「だからって…ユアとは限らないでしょ?」
「だからここに来てくれって白狼に言付けたんだ。もしここにユアが来て右腕に怪我してたら、十中八九ユアが白狼だ」
「そう…でも明日には勝負が控えてるのよ? 少しでも体を休めとかないと…」
シュウはベッドに寝転がりながら、
「12時まで待ってこなかったら寝るよ。それともグミも付き添ってくれるのか?」
「な…嫌に決まってるでしょ!! せっかく人が心配してるって言うのに… もう、寝るわ!」
私はシュウの部屋を飛び出す。ったく…狼のことを人間だっていってみたり、明日に勝負が控えてるっていうのに夜中までユアが来るの待つっていってみた り…。
 私は服を着替えて、ベッドに入るけど、明日のことを考えると目が冴えて眠れない。
「レフェル…もしシュウが負けたらどうしよ」
「コウと旅すればいい。我としても、より強い仲間と旅した方が安心できる」
レフェルってこういうやつだっけ…どうしてみんな、こうも楽観してられるの?
「シュウのことが心配なのか? ヤツは勝つ…と思う。お前が負けたらなんていうから、負けたときのことを考えてみただけだ」
「そうだよね。チンピラからも、グリフィンからも、大蛇からだって私を守ってくれたんだから、負けるわけないよね」
「あぁ…それよりもいいのか? もしユアがシュウの部屋にきたら、何が起こるか分かったもんじゃないぞ」
!!私はがばっと飛び起き、シュウの部屋のドアを蹴り開ける。
「ちょ…っていきなり入ってくるなよ! まさか夜這い…」
シュウはパンツ一枚で、しかもそれまで脱ごうとしていた。
「んなわけないでしょ! この変態!!」
私はレフェルをシュウに投げつける。
「ゴン!」
「いってェ…!!」
私はシュウに当たったかどうか確かめもせずに、部屋に戻って布団を被る。バカだバカだと思ってたけど…あそこまでバカなんて。あんなヤツの心配してた私ま でバカみたい…。目に浮かんだ涙を隠すようにして、私は目を閉じた。
*
一方シュウの部屋では…シュウが頭を抱えてつぶやいていた。
「何なんだよあれは…俺は着替えすることも許されないのか!? …あぁ痛い」
「お互い気苦労が耐えないな」
「そう言ってくれるのはレフェル、お前だけだ。カワイイやつー」
シュウが我のことをバンバン叩く。我は何も言わないが、シュウは手が痛くなったのか叩くのを止める。
「シュウ」
「なんだよ? 改まって」
改まってなど…いない。
「明日お前が負けたら、我がお前を殺してやる。絶対…勝て」
「言われなくてもそのつもりだ。第一あいつにもメイスにも負けたりしないがな」
*
朝、目が覚めると既にシュウはいなかった。もう勝負に行ったのかな? ユアはきたのかな…?
「おはよう。シュウならウォーミングアップとか言って、もう出かけたぞ。ちなみにユアは来なかった」
昨日シュウに投げつけたはずのレフェルが私の枕元にあった。いったいいつの間に…というよりなんで私の考えてること読まれてるんだろう?
「寝言、言ってたぞ」
…誰に見られてるわけでもないのに恥ずかしい。
「なんて言ってたの?」
「シュウが好きだって」
…!
「嘘だ」
「ばか…」
私はいつもの服に着替え、宿から飛び出していく。いざ決戦の場へ。
続く
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