一度コウのもとを去ったグミたちは、明日の準備を整ええるためにと、道具屋にいた。
「シュウ! あんな約束しちゃって大丈夫なの?」
「心配するなって。俺が負けるわけないだろ? あ…おっちゃん青ぽ20個くれ」
「はい! 4kだよ」
シュウは渡された品物を受け取り、代価を払う。もちろん借金だ。前回と合わせて24kの借金になる。
「だってコウさん強そうだったし…それにもし負けたら…」
シュウは薬を懐にしまいながら返事する。
「借金のことなら心配しないでくれ。万が一のことがあったら内臓売ってでも返すから。まぁ負けるなんて0,001%もありえないけどな」
「そうじゃなくて…その…」
シュウが鈍いからか、それとも気付いていない振りをしているのか…。前者だとしたら鈍すぎだ。
「俺が負けたら、コウと一緒に旅するといい。手負いとはいえ猿を一発でぶった切るなんて、25レベルやそこらのなせる技じゃない。ヤツの自信もハッタリ じゃ無いってことさ」
「そうじゃないの…私はシュウと…」
グミは泣きそうになりながらも、必死で何かを口にしようとする。グミに背を向けたままのシュウは聞こえてるのか聞こえてないのか、声を大きくして
「俺が勝ったら、今まで通り仲間でいてくれ。俺も…」
「大変だ!! 見たこともないモンスターがうちの家畜を襲ってるんだ!!」
シュウの話が終わる前になにやら事件が起こったらしい。毎度ながらタイミングが悪い。シュウは素早く袖から銃を出す。
「例の白い何かだな! グミ、行くぞ!」
「うん…」
二人で事件があった現場へと向かう。事件があった場所は誰に聞かなくともすぐ分かった。
「おい!! 誰かあいつを止めてくれ!!」
家畜小屋の主人と思われる人は、助けてくれ止めてくれと叫んでいるが、現場は思わず目を背けたくなるような光景だった。切り裂かれた豚の四肢や、食いちぎ られた鶏の頭部、どうにかしようと白い何かに挑んだが、全身を強打され血の海にうずくまる戦士数人。まさに伏魔殿だ。その伏魔殿を作り出しているのは、白 い体毛を血の朱に染めた白狼…確かホワイトパンだったと思う。白狼は鋭い牙と爪を器用に使い、家畜を平らげている。
「うおぉぉおぉおぉおおお!!!!!」
まだなりたての戦士が白狼を止めるべく真正面から飛びこんで行く。勇敢なのは結構だが…自殺行為だ。勇気と無謀を履き違えてもらっては困る。
案の定白狼は戦士が放った斧などものともせず避け家畜を食い漁る。
「こいつ…俺を無視しやがって…!!」
怒り狂った戦士はまたも真正面から切りかかる。戦いの鉄則も知らずによく戦士になれたものだ。白狼は斧を軽々とかわし、戦士の腹部に鋭い蹴りを入れる。
「ぐはっ…」
戦士は鎧越しだというのにかなりのダメージを受けたらしく、気絶した。当然といえば当然の結果だ。いつもシュウたちの戦いを見ていると、ああいうのが普通 に思えてしまうが…やはりあれは特例なのだな。
 白狼の膂力、スピードは共に大抵の魔物を凌駕している。こんな魔物が新大陸にはごろごろしているとは何なのだろうか。誰もが成す術がないと半ば諦めた 時、2つの黒い影が動いた。
「ヒール!」「彗星!」
グミのヒールが傷ついた戦士たちを癒し、シュウが放った彗星は白狼の右前足を抉る。
「ウオォォオン!」
被弾した白狼は、腕を抉られているにもかかわらず大地を蹴って疾走する。シュウは白狼をポイントし一発、二発、三発と続けて撃つが全てかわされる。一見 シュウの腕が悪いように見えるが、それほどに白狼のスピードが速いのだ。
 銃では白狼を傷つけることが出来ないことを悟ったシュウは、バズーカを構えカウンターの要領で突き出す!
「食らえええええ!」
シュウの全力の突きは、スピード、間合い共に避けられるものではない…が、しかし白狼はそれすらも読んでいたのか…高く跳躍し、シュウの急所めがけて爪を 振り下ろす。
しかし、そこは我の狙い通り…。解き放たれた我の本体は白狼の腹部にヒットする。
「うぉ…」
手応えはあった…。白狼は骨が折れたかまでは分からないが、内蔵にダメージを受けたらしく血を吐いて落下する。落ちた場所はシュウの目の前。やるなら今 しかない。
シュウはバズーカを白狼の頭に押し付け、
「…もう十分だろ。今日の夜、宿に来てくれ」
え…なにそれ…!?
続く
第5章7 ぐみ3に戻る