私たちは迷子になりながらも(シュウがオークションやら、武器屋やら、綺麗な女戦士やら に流れていきそうになるので迷いそうになった。ホント馬鹿なんだから、)ようやく深い谷と呼ばれるところについた。
「ここが深い谷ってとこだよね?」
シュウは何も答えない…。
「ソウルブレッド」
シュウの右手が光り、指の間・・計4つの光る銃弾が現れ、左手のリボルバーに装填する。
「え…シュウ、何を…」
シュウの銃は真っ直ぐ私に向かって構えられている。その目は銃を持ったときだけ見せる、触れるだけで切れてしまいそうな鋭い視線だった。ふとさっきの言葉 を思い出す。
「最近PTを組んでのだまし討ちや、強盗が増えてるからね」
(そんな…。ウソでしょ? でもこのままじゃ間違いなく殺られる…。)
私はその場から逃げようと、足に力を入れようとするが、全然動かない…。それくらいシュウのさっきは本物だった。でもどうして…? シュウは。私の疑問に 答える代わりに、引き金に力を込める。銃身が青く輝く。「彗星」!?
「レフェル!」
「案ずるな。シュウが狙っているのは…」
レフェルが言い終わらないうちにパンでもバンでもない、「ひゅー」という何かが恐ろしく早く移動する音が、私の首筋から10センチも離れていないいないと ころを飛んで行く。
「キキッ!!」
私ではないなにかの悲鳴…その声の主であろう…バナナを持った猿のような魔物が、肩を打ち抜かれ倒れていた。シュウが狙ってたのはこいつだったのか!でも 今の、もう少し手元が狂っていたら…私もこの猿と同じような末路だっただろう。シュウは、
「町から出たらそこはもう魔物の住処だ。今のは危なかったぞ」
「もし当ったらどうするのよ! 今のだって…」
「危ない! 後ろだ!!」
グミが語り手どころではなかったので我が代わる。さっきの猿は、彗星を食らいながらもまだ余力があったらしく、グミの背中辺りから飛びかかってきていた。 シュウはまたも猿をポイントしようとするが、今度はグミのちょうど後ろで、グミを貫通でもしない限り猿をしとめることは出来ない。
「レフェル!! グミを頼む!」
言われずともそうしたい…が、しかし我が本体はまだ龍の口に収まっており、自力では抜け出ることも、スキルを使うこともできない。
「グミ! 我を解放…」
くっ…間に合わない!! だがそこに何者かが、雄たけびを上げながらこちらへとやってくる。
「パワーストライク!!!」
猿の頭上から振り下ろされた一撃は、猿の体を真っ二つに両断し、猿は断末魔の悲鳴を上げる間もなく、霞となって消える。両手剣クロディによる重い一撃…こ の男は。
「危なかったですね。お怪我はありませんか?」
茶髪でマジメそうな青年は、その場でへたりこんでしまったグミに手を差し伸べる。
「グ…グミ! 大丈夫か!?」
いつもながらタイミングが悪いヤツだ。シュウが近寄る前に茶髪の青年はグミを助け起こしていた。グミはまだ自分に何が起こったかよく分かってないようだ が、この青年が助けてくれたことだけは理解できたようだ。
「あ…あの、何処の誰かは知りませんが、助けてくれてどうもありがとうございました」
青年は少し照れながら言った。
「男が女の子を守るのは当然ですよ。それとそこのアンテナ頭君」
「なんだよ。まずお前誰だよ」
「人にものを聞く前に、まず自分から名乗ったらどうだい?」
「シュウだ」
「シュウっていうのか。僕の名前はコウ。銃声がしたからこっちまで来て見たけど、君は女の子1人すら守れないのかい?」
「くっ…グミを助けてくれたことには感謝してるよ」
いいとこどりされ、おまけに痛いところを突かれたシュウは、顔を歪めながらも礼をする。
「あの…今、コウって言いましたよね?私たち、PT屋であなたのPT募集をみてここまできたんですけど」
グミはポケットから紙切れを取り出しながら、PT屋で紹介されたことを話す。コウはそれを受け取ると、
「うん。確かにPT屋さんのサインだね。僕のPT募集にわざわざ来てくれたってことは、僕と仲間になってくれるのかい?」
シュウが慌てて止めに入る。
「おいおいこいつは…」
「シュウは黙ってて。コウさん、是非私たちの仲間になって欲しいんです」
コウは嬉しそうに微笑む。
「こんな可愛い娘にお願いされて断るわけにもいかないな。こちらを仲間に加えて欲しいくらいだ。だが…」
「ちっ…こいつが仲間かよ」
シュウは本人を前にしても変わらず毒を吐くが、コウは無視する。
「さっき私たちといいましたよね? もしかしてこの電波も仲間なのかな?」
気のせいか、シュウのアンテナがピクッと反応する。最も本人自体も結構ピクピクきてるのだが。
「えっと…一応これもPTです」
グミはシュウを指差しながら、真顔で言う。これって…。コウは残念そうに頭を振る。
「こんな粗暴で変態ぽいヤツが仲間とは…君にはふさわしくない。それと…君と仲間になるのはこちらからお願いしたいくらいだが、こいつと仲間になるのは死 んでもごめんだ」
「てめぇ…」
「私とはPT組んでもいいけど、シュウとはPT組みたくないんですね…。どうしよう…」
グミは頭を抱え悩みこむ。今まで一緒にいたというのに哀れなシュウ。
「グミ、当然俺だろ?」
「いいや僕だね」
シュウとコウはしばらく互いににらみ合い、激しく火花を散らしていたが、コウはシュウにあることを提案する。
「おい、アンテナ。このままじゃ埒が明かないから、僕と一勝負しないか?」
「勝負? 殺し合いか?」
どうしていきなり殺し合いになるんだ。しかしシュウは全身から殺気を放っている。あながち冗談でもなさそうだ。
コウは呆れながら、
「君はどうしてそういう考えが浮かぶんだ。彼女前でそんなこと出来るわけないだろう。君を倒すことなど楽勝だけどね」
こちらも負けてはいない。いつでも戦えるように身構えてる。
「俺を殺るだって? 笑わせてくれるな」
顔は全然笑っていない。まぁ当然といえば当然だが。
「だ か ら、彼女の前で人をぶった斬ったりしないといっただろ! 他の方法…そうだな。ここにいるモンスターを狩って、より多くの戦利品を手に入れたほ うが勝ちでどうだ?」
「狩り勝負か、学生時代は狩りの鬼とも呼ばれたシュウ様に勝負を仕掛けるとは上等だ」
「日時は明日の朝10時から日が落ちるまでだ。回復薬や銃弾はそれまでの間に準備しろ。異論はないな?」
「ない! 顔を洗って待ってろ」
「ちょ…二人ともそんなの…」
グミは間に入ろうとするが、入り込めない。
「勝ったほうがグミとPTだ。絶対勝つ!!」
シュウは意気込んで、コウに片手でバズーカを向ける。
「臨むところだ」
続く
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