「ったく…ラーメンは食えねぇし、グミには殴る蹴るなどの暴行を加えられるし、最悪だ ぜ」
シュウはレストランのことでまだ愚痴を言っている。確かに散々な目にあったけど、半分は自分のせいだ。
「あんたが鼻の下伸ばしてるから、あんな目にあうのよ」
「しょうがないだろ。あの子が可愛すぎるんだから…あぁユアちゃん、もう一度会いたいなぁ…」
こいつ…全然懲りてないな。もう一発やらないと分からないのかしら。
「そんなことより、さっさとPT屋に行くわよ。早くしないと日が暮れちゃう」
「ユアちゃん…ってあ、うん。そうだな。行こうか」
もう…いったいどうしたらいいのかわかんないよ…。
*
「いらっしゃい。君たち見ない顔だけど、初めてかい?」
店長らしきおじさんがカウンター越しに挨拶してくる。もっといかつい人がたむろしている場所なのかな?と多少心配してたんだけど、優しそうな店長といい、 楽しそうにだべってる人たちといい、私のイメージとは全然違った。
「はい。初めてなんですけどよろしくお願いします!」
「ユア…げふん…よろしく!!」
「うん。よろしくね」
店長だけでなく、円卓を囲んで話していた数名までもが、「よろ〜」とか「よろしくー」と返してくれた。あの人たちもPTを集めているのかな? 何の職かは 見当もつかないけど…。とりあえず、話聞いてみよう。
「えっと……ここってPTを募集している人が集まったりする所ですよね?」
よく分からないので曖昧に聞いてみる。
「基本的にそうなんだけどね。ここにも色々ときまりがあるんだ。メンバー登録とか、PT申請とかね」
「あの…どっちも分からないので、教えてもらえます?」
「もちろんさ。まず、メンバー登録ってのは、レベルや職業、コメント、年齢などを書いて、PT屋の会員になることなんだ。コレをやらないPT屋の利用はほ とんど出来ない。次に申請だけど、何々レベルのなんとかですが、何々レベルのコレを募集しています。って感じで登録すると、条件の合った人がいれば、こち らから通知するんだ。どう? 画期的なシステムだろう?」
シュウはウンウンとうなづいている……と思ったら寝てる!?
私はシュウの耳を引っ張り、こちらへ引き寄せる。後ろから「おぉ…」と歓声が上がった気もしたけど、反応してる場合じゃない。
私はシュウの耳元で囁いた。
「何寝てるのよ! 今大事な所なのに!」
「いや…生まれつき自分の興味がないことは眠く……」
「もう…しっかりしてよ。じゃあ登録するから、レベルとか確認するために本だして!」
シュウはコートの中からごそごそと本を取り出す。ついさっきスープを浴びたばかりだというのに、本は全く汚れていない。さっすが魔法の本!
「あれ、俺って24レベだっけ?」
え? 確か二人とも20レベルじゃなかったっけ…でもシュウの本にははっきり「24」と書いてある。店長さんは驚いている(?)私たちを見て笑いながら、
「それはレベルが上がったってことだよ。激しい戦闘や、強敵を倒したんじゃないのかい? というより、レベルが上がったら本が何らかの形で知らせてくれる はずなんだけど……」
あんな臨戦状態じゃ気付かないよね。それにしても4レベルも上がってるなんて……。
「うお〜!?」
シュウはページをめくりながら、なにやら興奮している。
「ボムが10レベになってるし、彗星も5レベに……! しかも新しいスキルまで使えるようになってる!!!」
シュウの本には今まで書いていなかったページが一枚、字と絵で埋まっていた。
「『ソウルブレッドレベル3』MP消費中。精神力で銃弾を作り出す。一回に最大6発まで。…っくうううう
〜〜!!!! よっしゃああコレで銃弾買わなくてよくなった! あれって一発100メルもするんだぞ…」
「それで小金が貯まって借金返せるといいね。今度は私の本見てみよ」
私はカバンの中から本を取り出す。
「えっと…私も前20レベルだったよね。上がってますように!」
二人一緒に表紙を眺める。「23」 3上がってた!!!
私は大して戦ってないのに何でだろ?私の疑問を察してくれたのか、レフェルがこっそり教えてくれる。
(お前たちは申請こそしていないが、れっきとしたPTなんだ。だからお前が戦わなくても、PTであるシュウが戦えば経験値は共有され、お前のレベルも上が る。)
(なるほど…ありがと。)
「なぁ…コソコソ話してないで、さっさとページめくってくれよ。気になるだろうが」
「うん。えっと…ヒールが10レベル、マジックシールドが10レベル、ブーストが3レベルになってる! そういえばブーストって一度も使ったことないよ ね」
私はシュウの方にレフェルを向けてみる。シュウは少したじろいで、
「その呪文はホントにやばい時だけ使ってくれ!」
本気で嫌がってる。私が遊び半分でかけたりする訳ないのに…いやちょっとはあるけど。私は更にページをめくる。白紙のままだった。
「えっと…あとはないみたい」
「二人とも終わったかい? メンバー登録するなら準備できてるよ」
そ…そうだった。何か二人で座り込んで話しちゃったけど、ここってPT屋のなかだったんだ。ということはあんなことやこんなことも見られたってことじゃな い…ハズカシ…。そのときばかりは、顔を朱に染める私をニコニコと眺めている人たちがすごく意地悪に見えた。
…って何でシュウまで見てるのよ!
続く