レストランは案外繁盛していて客もいっぱいいたけど、何とか二人分の席は取れた。何を頼 もうかなー。
とりあえずウェイトレスが来るのを待とう…。
「いらっしゃいませ。ご注文はお決まりでしょうか?」
ウェイトレスは慣れた口調で注文をとる。
「俺、キノコラーメン(豚骨)大盛りで!!」
「私はピザお願いします」
まだメニューを選んでなかったから、適当に選んだけど大丈夫かな?
「かしこまりました。豚骨大盛り、ピザ一つですね。そのまま少々お待ち下さい」
「早めに頼むぜ。」
注文をメモし終えたウェイトレスは軽く会釈して、元の場所に戻っていく。後は出来上がるのを待つだけだ。
「さてと…来るまでの間、何…うく」
シュウは私の口を手で塞ぐ。
「ちょ…ちょっと何のつもりよ!」
シュウは指を立てて、口元に当てる。喋るなって意味かな。どうやら隣で面白い話をしてるらしい。
「…でだな。どうやらエルナスのほうにしかいなモンスターが、こっちに1匹紛れ込んだらしい」
「エルナスにしかいないモンスターか。だったら高く売れそうだ…どんな格好なんだ?」
「それがな…なにやら白い…」
「大変長らくお待たせしました。ご注文のウナギ焼きです」
一番いいところで…シュウはチッと舌打ちする。男たちは聞かれていたことにも気付いてないのか、全員でウナギをつついている。
(白い…なんだろうね?)
シュウは少し考えて耳打ちする。
(エルナスってのはもう一つの大陸にある街だった気がする。こっちにはいない魔物がうようよしてるって噂だけど…レフェル、新大陸に行った事ないか?)
レフェルはポーラ師匠と旅していたことがあって、いろんなことに詳しい。
(新大陸といっても、二つに分けられる。雲のなかの町「オルビス」。冷気の町「エルナス」という感じで、前者は暖かく、後者は極寒の危険地帯だ。)
(ねぇ…白いモンスターっている?)
(よく覚えていないが、白くて巨大な雪男がいたことだけは覚えている。ありえないような力で、危うく負けるところだったからな。他には…)
レフェルは表情こそ分からないが、一生懸命思い出そうとしてくれてるみたいだ。事件がおきたのはまさにそのときだった。
「お…お待たせしました! 豚骨ラーメンとピザです」
妙に危なっかしいウェイトレスがお盆に載った料理を運んでくる。何でわざわざ顔の前に持ってるんだろう…。どうも手つきが危なっかしい。
「えっと…こ…こちらのお客様にラーメンですね。あっ…」
お盆の上に乗った熱々のラーメンは一瞬宙に浮き、ものの見事にシュウの頭に降りかかる。
「あちちちちいちち!! 何するんだよ! …ってかコレ味噌じゃねぇか!!!」
それ以前に頭にかかったスープ飲むな…。まぁ客の頭にラーメンぶっかけるウェイトレスもどうかと思うけど…。
ウェイトレスは半ばパニックになりながら謝る。
「ごめんなさいっ!! 今すぐ拭きますので…」
「いやーいいってことよ。まぁ誰にでも失敗はあるわな」
え…何この態度の変わり様。私の疑問はウェイトレスを見てすぐ解ける。ウェイトレスが可愛かったのだ。整った顔立ちに、長く伸ばした銀髪の髪…トパーズの 瞳。お人形さんみたいな印象…女の私が見ても可愛いと思うんだから、シュウなんていちころだろう。ウェイトレスはシュウの頭にかかったスープを汚い布で拭 いているけど、あれ絶対雑巾だよ…。シュウは雑巾で顔を拭かれながら、信じられないことを言い出す。
「君、カワイイね。今度一緒にお茶でも…いっ!」
私の靴底がシュウのつま先を踏み潰す。このバカ!
周りのウェイトレスやウェイターもようやくこの事態に気がついたのか、銀髪の女の子を引っ込めて謝罪する。
「お客様、大変失礼致しました。うちの新米がとんだ粗相を…。汚れた服は弁償させていただきますし、当然御代も結構です」
「いや…このコート気にいってるから、洗濯して着るよ。それよりさっきの娘、何て名前?」
「は、はぁ…『ユア』といいますが…あの子いつもあんな感じなんですよ。おかげで商売上がったり…」
ウェイターはユアと呼ばれた子の愚痴をいいながら作業をしているが、もはやシュウの耳には届いてないに違いない。だって天使でも見たような顔してるもん。 私はシュウを夢の世界から引き戻してやろうと、シュウのむこうずねを思いっきり蹴りつける。
「いてええええええええええ!!」
シュウの叫び声は店内に響き渡り、ようやく夢の世界から戻ってきたようだ。
続く
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