ザ クッ…大蛇の牙はシュウのわき腹に突き刺さり、背中の傷跡からは鮮血が流れ出していた。シュウはまたも血を吐く。
「ネコ…邪魔だから…あいつの所いってろ」
「…にゃ」
イルも血を流している。シュウの血かと思ったが、どうやらイルの血らしい。鋭い牙はシュウのわき腹を貫通し、イルのことをも突き刺していた。二人とも傷は 浅くない。
「お前にも刺さっちまったか…ぐはっ…。今向こうまで送ってやるよ」
シュウはイルの傷口ではない部分を持って、私に向かって放り投げる。私は慌ててイルのことをキャッチするが、その衝撃でイルの血が私の顔に飛び散る。…マ マ。いくら自分を抑えても、忌まわしい記憶が思い出される。目の前で殺される父。自分を最後までかばった母。なんだか今の状態と似ている…。そのとき、レ フェルの声がしてふと我に帰る。
「何ボーっとしてるんだ! さっさとヒールしないと猫が死ぬぞ!!!!」
「んぁ…え…えっとヒール!!」
イルの傷口はどんどん塞がっていくが、激しい痛みによるショックのせいかイルは目を覚まさない。
「傷は癒えても確かに攻撃を受けたんだ。傷は残らなくても痛みは消えない。そいつが死なない限りはな」
そ…そうだ!シュウはイルより酷い怪我を負ってるんだった!!
「シュウ! ヒールを!!」
「俺は後でいい。もう一度ネコにヒールをかけろ。こんな傷ぐらい屁でもないさ」
やせ我慢しているが、口と背中から流れてる血の量は半端ではない。突如襲った痛みにシュウがあえぐ。
「ぐっ…」
大蛇が勢いよく牙を引き抜く。傷口は荒々しく裂け、黒い血が流れ出す。
「まずいぞ…あいつ、内蔵をやられてる。早くヒールしないと」
「うん!」
私は自分も重傷を負うことなど考えずにシュウに駆け寄るが、今にも大蛇の牙はシュウの心臓めがけて振り下ろされようとしていた。確実に間に合わない!
「今は守るものがない。だからお前の攻撃を食らう必要はない」
シュウは敵の姿もろくに見ずにポイントするが、右腕に持ったままだった銃の銃口は真っ直ぐ大蛇の頭を狙っていた。心なしか銃が青く発光してるように見え る。
「死ねぇぇぇええ!!!!!」
シュウが引き金を引いた直後に、銃口からは青い光に包まれた弾丸が発射される。私には弾のスピードがあまりに速すぎて、青い一本の線にしか見えなかった。 青く燃え上がる灼熱の弾は大蛇の黄色い目を射抜く。
「キシャアアアアアアアア!!!!!!」
大蛇はあまりの痛みに絶叫し、壁を大破させながらのたうち回る。このままじゃ洞窟が崩れちゃう!
「シュウ! シュウ!! 大丈夫?」
シュウは気を失っていて、全く動かない。もしかして死んでるのかもしれない。だってアレだけ痛い目にあったんだし、こんだけ血が出てれば出血多量で、普通 は…。ってそれどころじゃない。
「ヒール!!」
シュウの傷口は小さくなるが完全には塞がらない。さっきまで気絶していたイルもきて、シュウの傷口を舐める。
「うぁ…お前のヒールのおかげで助かったぜ。綺麗なお花畑が見えちまったけどな」
「冗談いってる場合じゃ無いでしょ!ほらヘビが暴れてンのよ!」
「ホントだ…ってこっちに向かってくるぞ!!!」
シュウの言ったとおり大蛇はこちらに向かって猛スピードで這って来る。私たちは急いで逃げるが、手負いのシュウと、女の子の私じゃ、あっという間に追いつ かれそう。火事場のなんとやらってやつかしら…大蛇は洞窟の壁を破壊しまくり、落盤に身を打たれながらもこちらへと向かってくる。蛇らしい執念というもの だろうか? ジュニアネッキはかわいらしく、岩に潰されて死んでるけど。
「シュウ! 追いつかれちゃうよ!」
「まだ手はあるぜ。最後の銃弾でお前の墓標を作ってやるよ!」
シュウは大蛇に向き直り、左手の銃を構える。またさっきのすごい技かな!?
「パン!」
普通の銃弾だった。というか…全然見当違いのところに飛んでる。シュウにもミスってあるんだなぁ…しかもこんなときに限って…
ドカン!!
大蛇の前の地面が爆発する。そっか…最初の不発弾を狙って無理やり爆破し たのか!! そんなこととっさに思いついて、しかもあんな小さな的に当てるなんて。というかよく考えるとあの不発弾って30秒経っても余裕で爆発しなかっ た気が…。とにかく今は走って逃げないと私たちもここが墓になっちゃう!
*
「とりゃあ!」
私とシュウが洞窟から脱出すると同時に洞窟は崩れ落ちる。まるで最初から 何もなかったかのように。
シュウの罠に嵌った大蛇は爆風によって押し戻され、自らの壊した洞窟の落 盤によって潰されてしまったみたい。
助かった〜。イルも無事だし、シュウも無事だし一件落着っと。。今まで緊迫してたから、ちょっと気が抜けちゃった。
「イルー? 大丈夫?」
「にゃー」
「大丈夫そうねー」
すぐ近くでのびていたシュウが飛び起きる。
「ネコより先に俺心配してくれよ! 俺の大活躍ぶり見ただろ?」
「うん。すごかったね。それよりさっきのビーム…何?」
「全然心配してねぇし…ん、さっきのは何か気合込めて撃ったら何か銃が青く光って。もしや!?」
シュウはポケットから本を取り出して乱暴にページをめくる。
「あった!『彗星 MP消費中 青く輝く銃弾を放つ。非常に速く、貫通力がある。』だってかっくいぃ〜」
「新しいスキルおめでとう! じゃペリオン向かって出発ー!」
「ちょ…ちょっと休憩させてくれよ。さっきの死闘による疲れが…」
「そんなこといってたら夜になっちゃうよ! ほらさっさと立つ!」
シュウは文句を言いながらも、しぶしぶ立ち上がる。今度はイルも逃げてないし、完璧ね。そんな中、シュウがボソッと何か言う。
「なぁ…出発はいいけど、ここどこなんだ?」
わかんない…
続く
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