三角の耳、茶色の毛、つぶらな瞳…かわいいー。
男が後ろから取り出した(?)のは一匹の茶猫だった。
「護衛してもらうというか、ペリオンまでこいつを届ければOK…おつかいみたいなもんだ」
シュウはネコの背中を掴んで持ち上げる。
「護衛ってネコかよ! まぁそれで金もらえるんだからいいんだけどさ…」
「ちょっと私にも抱かせて。わぁ…ふわふわ〜」
「大事にしてくれよ。そいつはペリオンに住んでる、あるヤツに届けなくちゃいけないんだが…そいつがいかにも食人族見たいなヤツでさ」
「だから俺たちに任せるってのか…」
食人族だって…そんなのが町の中をうろうろしてるなんて、ペリオンってメチャクチャ危険そう…。
「いや俺はココを離れられないんだよ。毎日新しい冒険者が訪れるからな。まぁ食人族に会いたくないってのも本音だが」
目つきの悪い男は言い訳しながらも”会いたくない”と肯定してる。そりゃ誰だって会いたくはないだろうさ…。
「まぁとにかくお前らに任せたぞ。金も渡したし、もしネコに逃げられて食われても俺を恨んだりするなよ」
「気をつけます。ところでこのネコの名前は?」
「確か…イルって言ったけな?」
「イルちゃんか…よろしくね」
私がネコの背中を撫でると、イルは嬉しそうに「にゃ〜」と鳴いた。
「よし! それじゃあ出発するか!」
「うん。じゃ行こう…ってイルは?」
「え? グミが持ってたんじゃ…」
ついさっきまで、私の腕の中でうずくまっていた暖かいものは、既に姿を消していた。このままじゃ食われrgfdがッが(ry
「取り乱してる場合じゃ無いぞ! ほらあそこだ!!」
シュウは全力疾走でネコの背中を追っていく。私も行かなきゃ…!
「コラネコ〜!! 待てやー!!」
「シュウ〜置いてかないでよっ!」
イル、シュウ、私の2人と1匹は、脇目も振らずに険しい山々の方向に走り出す。そちらがペリオンの方向とはつゆほども知らずに。 残された男は1人ごち る。
「あいつらネコの名前は聞いたくせに、俺の名前も聞かないし、礼の一つも言わなかったな…もうネコに逃げられてるし…。でも大物になりそうなヤツらではあ るな」
*
イルの100メートル程の逃走劇は、シュウの罵声によって幕を下ろした。
「はぁはぁ…やっと捕まえたぞ! ネコのくせに逃げるんじゃねぇ!!」
ネコに言ったって無駄でしょ…と思いつつも、自分がしっかり捕まえてなかったせいもあるので何も言えない。でもどうして逃げたりしたんだろ?
「今度は逃がさないようにちゃんと持っててくれよ」
シュウはイルを私に投げてよこす。モノじゃないんだからもっと大事にしてよね…。私は無駄だと知りつつも、イルに話しかけてみる。
「ねぇイルちゃん。何で逃げたりしたの?」
「にゃ〜にゃにゃにゃ〜」
うわ、当たり前だけど何言ってるか全くわかんない…。
「ネコに聞いたって答えるわけないだろ。それより審査官からもらったスキルブックの中身…見たくないか?」
スキルブック? 何だっけそれ?? あぁ思い出した。スキルが書いてある本だったっけ。
「そうね…もしかしたらいいこと書いてあるかも」
「じゃまず俺のから見てみるぞ。…ふむふむ。えっと俺が使えるスキルは…」
「そういえばトラッパーって普通の職じゃないんだよね。どんなのあるのかな?」
「『ボムLv3』MP消費小。自らの精神力によって爆弾を作り出す。ボムは30秒経過するか、何かショックを与えると起爆する」
「ぷっ…シュウそれ…ボンバーマンじゃん
「うるせー えっと次のスキルは…」
「爆弾の次は何かなー? キックかな?」
シュウが”また”絶望的な表情に変わる。
「ない…他のページは白紙だ…」
「えっ…? わ、ホントに何も書いてない」
「うわ…俺マジでボンバーマンじゃねぇか… 死ぬときもきっと自分のボムで爆死だな…」
なんてポジティブとネガティブの差が激しいんだろ…少しアドバイスしてあげた方がいいのかも。
「もしかしたら、スキルを覚えるのには何か条件がいるのかもね…。きっとこれからってコトだよ。ねぇレフェル?」
「いきなり振るな。まぁそうだな…スキルってのはグミの言うとおりある程度の条件がそろわないと出ない。逆に最初からたくさん出てるヤツもいるが、最終的 にスキルの数が最初少なかったヤツの方が、多くのスキルを習得していたりすることもあるくらいだ。人によって千差万別…それがスキルブックだ」
「へぇ…なんとなくわかったよ…。とにかくこれからってコトなんだな」
「そうそう。じゃ私の本も見てみようよ。はい! イル預かって」
私は強引にイルをシュウに押し付ける。
「わぁったよ。手早く済ませてくれよな」
「わかってるわよ。えっと私の使えるスキルは…」
「『ヒールLv5』MP消費小。傷を癒す」
「いつものあれだな…ってもうLv5かよ!」
「『マジックシールドLv3』MP消費中。自分の周りに円形のシールドを貼り、受けるダメージを軽減するが体力の代わりに精神力をを消費するため、多用は 危険。…これってマジックガードじゃなかったんだ」
「それってそんな危険な術なのか…俺が使わないで済むようにしないとな」
「次は…『ブーストLv1』MP消費大。自分、もしくは他の人間の力、瞬発力を強化するが、この呪文を受けた者にかかる負担は大きい。多用は避けるべき だ。…こんな術も使えるんだ。こんどやってみようね…シュウ」
「負担が大きいって書いてるじゃねぇか! そういうのはいざという時にだけ使ってくれ」
「冗談よ、冗談。えっと次のページは…白紙ね。でも最初から3つもスキル使えるなんて嬉しいかも…」
「俺はまだ一個だからな…これからよ!」
「そうだといいがな…何分特異職だからそれ一つかも知れんぞ」
レフェルが口をはさむ。
「うるせーきっと俺は大器晩成型なんだよ。今に見てろ…」
「まぁせいぜい頑張ることだな。頑張りすぎて死なないようにな」
トマトみたい顔を赤くしたシュウは、拳を振り上げ今にもレフェルに殴りかかりそうになっている。多分痛いのはシュウだと思うけど。
「この…メイスのくせしやがって……!!」
こういう普通の会話…それでもシュウがいると楽しい…。私はふと異変に気付く。
「ケンカしないでよ。それよりシュウ、イルは?」
「ん? あ…いねぇ!! あっちだ!!」
チラッと茶色の毛玉見たいのが見えたけど、あっという間に視界から消え去っていった。シュウがまた全力疾走でイルを追いかける。深い深い森の中へと。
続く