眠っていたから分からなかったけど、昨日は雨が降っていたらしい。草木につ いた朝露がキラキラと輝いてる。ついこの前に命を賭けて戦ったとは思えない程の綺麗な世界。世界は日を追うごとに移り変わるけど…いや変わっていくのは私 たち人間かもしれない。まぁ…とにかく朝は気持ちいいーっ!
 私は全身を使って伸びをする。さぁ今日も張り切っていこう! …と意気込んでいる所に邪魔が入る。
「2日も寝てたんだから外が気持ちいいのは分かるが、これからどうするんだ?」
「せっかく人がいい気持ちで考え事してたのに…レフェル。後で覚えておきなさいよ」
「……すまん」
「まぁいいわ…次に何するのか決めなくちゃいけないのは確かなんだから。それにしてもシュウはいつまで待たせるつもりかしら?」
噂をすれば影…走ってくるシュウを見て、私が怒鳴る。
「遅い! 何してたのよ」
シュウは息を切らしながらも言い訳しようとする。
「いや…朝飯食いすぎちまって、急に腹が下ってきてだね」
「なっ…」
顔がほんのり赤くなる。
「女の子の前でよくそんなことをぬけぬけと…。ちゃんと手洗ったの?」
「いや洗ってないけど。どうせ汚れるんだし…」
「洗ってきて! 早く!!」
「わかったよ…」
シュウはそこら辺のものを蹴散らしながら、手洗い場まで走っていく。ちょっと人間として大事な部分が欠けてるんじゃないだろうか…。モノの一分もしないう ちにシュウが帰ってくる。本当に洗ったのか怪しい…。
「洗ってきたぜ…。それよりこれからどの町に行くんだ?」
「私、大陸のコトは良く知らないんだけど、どの街が一番いいのかな?」
「ちょうどあそこにこの大陸に詳しいやつがいるから、そいつに聞いてみよう」
そいつと言われても辺りには買い物に出かけた主婦やら、鎧を着た冒険者が歩いてるし、顔を知ってるわけでもないので、全く誰か分からない。
「…どこにいるの? その人」
シュウはさも当然そうに遠くを指差し、言う。
「ほら、あそこのバニーガールの後ろだよ。あの目つきの悪い…」
シュウが指差した先には確かに二つの人影が見える。でも顔なんて全然分からない。
「こんなところから目つきまで確認できるなんて、目がいいのね」
「あたぼーよ! 銃ってのは目が良くなきゃ当るもんも当んねぇ。銃って言うのはだな…」
シュウが銃について語りだしたけど、私はそれを無視して、シュウが指差した方へ歩いていく。
私が銃に詳しくないの知ってるくせに…。
「おーい! 待てって! 待ってくれよ…!」
何かがものすごい勢いで追いかけてくる。私は追いかけてくるのが誰か分かっていたけど、走り出す。この歳になって追いかけっこはちょっと恥ずかしかったけ どね。
*
「…お前どうかしたのか? すごい勢いでここまで走ってきたようだが…」
目つきの悪い男が言う。お前とは失礼な…と思うけど口には出さない。それよりいこと思いついた。
「変態に追われてるんです! 助けてください!!」
「なに? こんないたいけな女の子を襲うとは…ふてぇ野郎だ!」
周りにいた冒険者や、おじさんが私の前に立ちはだかる。変態って言うのはもちろん…
「グミー! なんで逃げるんだよ。っておわっ!!? なに、この強面のお兄さんたち…」
「変態ってのはお前か…確かに髪型といい格好といい変態ぽいな…。覚悟しな」
シュウのアンテナがピクッと動く。
「いや…俺は別にそんなつもりじゃ…。グミ、何とか言ってくれよ!」
「この人ですっ! 怖いぃぃぃ!!」
我ながら名演技。シュウにはこれくらいのお灸をすえとかないと。
「うわぁぁぁ!!! グミなんてことをおおおお!!!」
「ドカ! バキ! ゲシゲシ!」音声のみお楽しみ下さい。
「…これに懲りたら二度とこんなことするんじゃねぇぞ!」
冒険者たちが去った後、シュウは何事もなかったように立ち上がる。こいつ…不死身か?
「いってて…いったい何の恨みがあってこんな事…」
「あんたの力を確かめようと思って…シュウならみんなやっつけるかなと思ったんだけど。抵抗しないんだね。見直したわ」
「だって相手は見知らぬ人だぞ? もし強かったらヤバイじゃないか!」
そんなこと考えてるんだ。でも全然効いてなかったみたいだけど…。
「終わったらヒールで直してあげようと思ったけど、たいしたことないみたいね」
「そういう問題じゃ無いだろうが…ほらここ、血出てるし…あ、止まってるな」
全然大丈夫じゃん…。ずっとつまらなそうにこっちを眺めていた目つきの悪い人が突然口を開く。
「茶番は終わりか? 何か用ならさっさとすませてくれないか」
そういえばこの人は私の前に出てこなかったわね…最初から分かってたのかな?
「いきなりこんなことやってスイマセン、この大陸の町について知りたいんですけど…」
「最初からそう言え。大陸の町については俺が一番知ってるからな」
この人なんか感じ悪い…でも町に詳しいのは本当みたい。私たちが行くべき町を示してくれるといいけど…。
続く