シュウの本には私とはまた違った字体で文字が浮かび上がる。シュウの希望職は『ガン ナー』と言って銃器のプロともいえる職業だけど…本は小刻みに振動しているが、文字はなかなか浮かんでこない。浮かんだり消えたり…全くなんて書いてある のか想像できない。審査官が口を開く。
「これは…本が悩んでいる。もしや…」
ほんの振動が止まり、今度はしっかりとした文字が浮かび上がってきた。
「ト…」
ぇ、この時点で”ガ”ンナーじゃないような。
「…ラ…ッ…パ…−」何それ…。
それを見た途端…シュウの顔は青ざめ、床に手をついてうなだれる。やっぱりこいつといえどもショック
だったのかなぁ…。ガンナーになれると思ったら、こんな得体の知れない職だったんだもんね。でも審査管さん、何をあんなに驚いてるんだろ…目がまん丸だ よ。
「…まさか私が生きている間に2度も特異職を拝めるとは…」
シュウはさっきと同じ体勢のまま何かをつぶやいている。
「オヤジ…すまねぇ。俺ガンナーになれなかったよ…すまん、俺の友。すまねぇ、ガルス…」
ガルスって何さ。
審査官はシュウに近づき、大声で何かを説明し始める。
「シュウ君! 何しけた顔してるんだ。これはすごいことなんだよ」
「え…俺のコトはほっといてくれよ…ガンナーになれなかった俺なんて…」
シュウは同じ体勢のまま、起き上がろうとしない。大分キテるみたい…。それにしてもさっきはあんなにテンション高かったのに、感情の起伏激しすぎ…。審査 官の力説は続く。
「ガンナーなんて目じゃ無い! 君が選ばれた『トラッパー』という職業は特異職といって…戦士、弓使い、魔法使い、盗賊、ガンナーなどの比較的数の多い 職…我々は一般職と呼んでいるが、君の職とは一般職とは異なる。ちょっと本を見せてみなさい」
シュウは危なげな手つきで本を差し出す。まるで手に力が入っていない。審査官は本を見るなり唸りを上げる。
「うぅむ…トラッパーというのはガンナーの派生職のようだな…。使用は武器は銃やバズーカといった君が前から使ってたものと同じだよ」
シュウの顔が明るさを取り戻す。
「おっさん…いや審査官! 今言ったことが本当なら、要するにトラッパーってのはガンナーみたいなもんなんだな!」
「あぁそうだよ。ただしガンナーのスキルの他に特異職しか使うことのできないスキルもあるはずだ。その逆もね」
シュウは窓を開けて「よっしゃああああああ!!!!!」と叫ぶ。まだ朝なのに近所迷惑とか考えないのかしら…。何故か知らないけど審査官が語りに入る。
「私が生きている間にまた特異職を見ることが出来てよかった…。特異職って言うのは、特別変異職の略でね…。その人の素質と技術などが微妙な割合でそろっ た場合にだけ発生するんだよ。冒険者何ていうのは、この世界に何万といるが、特異職は100人といないはずだ。しかもトラッパーなんて職は初めて聞いた。 グミちゃんの飛び級といい、君たちはきっといい冒険者になれるよ。…いやぁ、今日は本当に驚いた。この仕事をやってて2番目に驚いたよ」
「やったやった! よかったなグミ」
シュウがこっちに走り寄ってくる。が私はとっさにカウンターをしていた。
「ちょっと…どさくさにまぎれて抱きつこうとしないでよ。全く油断もすきもないんだから」
「いてててて…読まれてたか…」
やっぱり…。こいついったい何考えてるのかしら。。審査官の語りは続く。
「私を一番驚かせたのは1人の女の子だった。そう、彼女も君と同じく飛び級したんだ…しかも特異職に。あれにはたまげた…しかも特異職だったから、2 次か3次も分からなかった。今はどうしてるのかな…」
「あの…その人の名前は?」
「確かサリアといったかな。よく覚えていないが…なにぶん10年以上も前のことだからね」
どうしてこんなこと聞いたんだろう? こんな話私たちにとってどうでもいいはずなのに。もしかしてライバル意識ってヤツかしら。そうこう考えている間に、 審査官は帰りの支度を始める。
「そろそろ洞窟の修繕をしなくてはいけないな。これから会うこともそうはないと思うが、影ながら温かく見守らせてもらうよ」
シュウは座ったまま、私は立ってお辞儀をする。
「ありがとうございました!」「ありがとな!」
もっと聞きたいことはあったけど、私たちの責任でああなってしまったのだし、引き止めるわけにもいかないよね。
「それじゃあまた」
審査官は階段を降り、元の場所へ帰っていく。審査官がいなくなった直後、シュウのおなかが鳴る。つられて私のも…。
「よし! 転職も無事終わったし、今日の出発のために飯だ飯!」
「そうね…シュウの借金は増えるばっかりだけど、しょうがないわね…」
「マジスカ…」
「マジです」
 私たちの旅はまだ始まったばかり。これからどうなるのかはまだ誰も知らない。さっきまで黙ってた(寝てた?)レフェルが口を開く。
「転職できておめでたい気分になってるようだが、お前らの旅はここから始まるんだ。その先に何があるかは分からんがな」
私は黙ってうなづく。そう、私たちの旅は続く。
続く
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