煉獄の火炎は我らを包み込み、辺りの風景ごとグミたちを消し炭にすべく狂喜する。並の 初心者ならば、当然ここで逃げ切れずに蒸発してしまうだろうが(と言うよりはスライムに押し潰されて、死ぬ者のほうが多いだろう)こいつらは違った。グミ がお得意の呪文を詠唱する。
「マジックガード!!」
淡い光の膜が、2人を包み込む。見た目の弱々しさに比べその防御力は、極めて高い。しかし、スマッシュを撃ち、シュウの傷を癒したグミの精神力は後どれほ ど残っているのだろうか?
 暴れ狂う炎の龍は、グミの精神力を媒介にして作られた光の幕を、貪欲に嘗め尽くそうとする。グミのマジックガードはまだ完全ではないので、炎の熱さはバ リアを超えて直接伝わってくる。グミは汗だくになりながら、半ば叫ぶようにして言った。
「シュウ、今のうちに弾丸をセットして! あまり…もちそうにないの!」
「わかってる! これが最後のチャンスだ!」
シュウはかなり大き目の弾丸を、自らの腕に装着されたバズーカに詰め込む。その間にも燃え盛る火炎は、衰えることなく、光の幕を削り続けている。ゆっくり と…だが確実にグミの体力と精神は消耗していく。如何に優れた鎧と言えども、全てのダメージを軽減できるわけではない。グミが悲鳴を上げる。
「もうっ…限界っ!!」
グミのひざが折れる。我を杖代わりにして、何とか体を支えているが…スマッシュを初めて発動し、ほとんど残ってもいない体力でマジックガードを使っている のだ。普通ならまだ気を失ったままでも不思議ではないというのに。
 グリフィンの炎がついに途切れ、グミのマジックガードも少し遅れて光を失い、四散する。
グリフィンはいまだくすぶり続ける炎の中に、たたずむ1人の男を見て何を思ったのだろうか?
今まで自分の炎を間近に見て生き残ったものなど存在しなかっただろうに。
 シュウは再びバズーカを構え、開け放たれたままのグリフィンの口の中に押し込み、言う。
「お前も俺を殺してはくれなかったな。期待してたのに少し残念だ」
何を言い出すんだこいつは…。口にバズーカを押し込まれたグリフィンは、目を見開いたまま硬直している。
「だが、お前はグミのことも殺そうとしたな。俺は自分のことはどうなろうと構わないが、グミを傷つけることは許さない。死して詫びろ」
 普通の人間ならまず見せることのないような冷たい表情…一瞬チンピラたちに見せた自虐的な顔とは少し違う。何の感情も抱いていないようにも見えるが、心 の中はマグマのように煮えたぎっているに違いない。
「一発10kもするキメ弾だ。もったいないがくれてやる」
グリフィンはようやく自分の置かれている状況に気付いたのか、最後の抵抗を試みようとするがシュウの方が早いというのは見なくてもわかることだ。例え、グ リフィンのほうが完全に先制を取ったとしても、シュウの優勢は不動だった。シュウはためらいなく引き金を引く。
「ドカン!ドカン!!ドカン!
引き金を引く音と共に鳴り響く爆音。グリフィンの頭、胴体、翼、四肢が、赤や青、緑や黄色といった、色とりどりの火花を散らしながら爆砕する。
「『大花火』こいつを買わなければ、グミと出会うこともな かっただろうな…さてと」
シュウは腕からバズーカを外し、グミと一緒に背に負う。たった今グリフィンを肉塊にした人間の行動とは思えないほど、やつの行動は自然だった。
「ラスボスも倒したし、コレで念願の転職だな! ん? 何だこれ?」
バズーカを外し、すっかり人の変わった(戻った?)シュウは、足元に落ちているものを拾う。
「綺麗な宝石だな…。なぁレフェル、起きてるんだろ? これなんて種類か知らないか?」
あんな状況で寝ているわけないだろうが…。
それは今まで見たこともない形に精錬された見事な宝石……というよりもクリスタルといった方がしっくりくる。雪の結晶にも似た赤いクリスタル。みていると 不思議な魅力に吸い寄せられているような錯覚に陥る。
「見たことのない宝石だ。一般には出回っていないものだと思う」
「そうか…もしかしたらコレが合格を証明するための戦利品か? グミにあげたら喜びそうだな…。これで借金も帳消しになっかも…」
「喜ぶとは思うが借金帳消しはないだろうな」
シュウはがっくりと肩を下ろそうとするが、背中にグミをし背負っているのでそうすることも出来ない。
ちなみにさっき言ったことは、グミがメルにうるさいからと言うわけではない。10k程度の借金のために、命を張る人間などそうはいないのだから。
続く
第3章6 ぐみ2に戻る