(くっ…意識ははっきりしてるのに体が重い。このままじゃ…)
私の視界には少し距離をとったグリフィン、戦闘態勢のシュウだけ…。もし私がグリフィンなら真っ先に、動けない私を狙う…。つまり今、私の命がやばいって こと。誰か助けて…!!
「ギャース!!」
私の願いは通じなかったのか、空を飛ぶようにグリフィンは私に向かってくる。どうせ死ぬのなら一撃で死にたい…。涙で全てがぼやけて見える…どうせ見えな いのなら目をつぶってしまおうか。何も見えない、何も聞こえない…いや何か聞こえてくる…?
「あいつは俺が片付ける!そこで休んでてくれ!!」
シュウだ…そういやあいつがピンチになったから私が今こんな状態なんだっけ。声が出ないから心の中つぶやく、 「もしここで死んだりしたら、七代先まで呪うから。まぁシュウもダメかもしれないけど」
キィンという金属音が耳に障る…少し休もう。そうすればきっと…
*
 レフェルだ。まず少しお詫びをしておきたい。この章でPTが全滅することになったら全部我のせいだ。読者の方ゴメンナサイ。
ちなみにグミは生きてはいるが、動けない。シュウは無傷だが、相手は強敵だ。勝てる可能性といえば10%くらいだろうか? まぁ何にせよ、生き残る確率は 低いと言うことだ。こうなったらシュウに全てを託すしかあるまい。いささか不安だが……。
「おぉぉぉぉぉ!!!」
シュウが怒濤の猛ラッシュでグリフィンを攻めている。あまりの速さに残像まで見える…がどれも致命傷にはならない。普通、いくら相手がレベルの高い魔物で あっても数を叩き込めば勝てるはずなのだが、あのグリフィンは少しおかしい。そもそも最初の一撃で死んでもおかしくないはずだが……
「ちっ…外がダメなら…」
グリフィンの鉤爪をかわしたシュウは、グリフィンの口めがけてバズーカを突っ込む!
「中身をぶっ壊すまでだぁ!!」
外がダメなら中を破壊する。全くもって正しい。 普段頭の回転はそれはもう遅いほうなのに、戦闘となるとこの回転の早さ…天性の才能かなにかか? シュウは引き金に指をかける…!
「カチッ、カチカチ…」
……。爆音を予想したのにカチカチ? おい、まさか…。
「弾入れるの忘れてた…」
何のためのバズーカだ…。
「早く引っこ抜いて弾詰めろバカ!!」
「そのつもりだがよ…抜けねぇんだ!」
なるほど…グリフィンが口にくわえてるのか…いったい何のつもりだ?
「ぐっ…」
突然シュウがうめき声を上げる。見ればその左肩から鋭い爪が生えている…。こいつ…すぐに殺すつもりはないようだ。グリフィンは勢いよく、爪を引き抜く。 シュウの肩口から大量の鮮血が吹き出す。
「この野郎…さっさと放しやがれ!」
シュウはグリフィンの頭を何度も蹴り上げるが、グリフィンの口はバズーカを固く咥えたままだ。
「ぐ…」
蹴り上げた右足はグリフィンの鉤爪に引き裂かれる。さらに飛び散る血潮…このままじゃ出血多量で貧血を起こすのも時間の問題だ。その前に痛みによるショッ クで死ぬかもしれないが…。
 ついにシュウが血の池に崩れ落ちる。右腕はバズーカと一緒に咥えられたまま、シュウを支えようとするが、全く意味を成さない。
「シューシュー」
…何の音だ? 風…? いやこれは!?
 シュウが血を吐きながら、途切れ途切れに言葉を紡ぐ。
「こいつ…さっき攻撃を、かわさなかったのも…バズーカを咥えたまま俺を襲ったのも…全部このためか。ブレスで骨も残さず…焼き尽くす気だ。息を十分に吸 い込み終わったら…終わりだ」
シュウの表情からは絶望さえ感じられない…顔色は血の気を失い蒼白だ。ふいに我の体が持ち上がる。
「死ねこのケダモノっ!!」
我が体は吸い寄せられるように、グリフィンの顔面を強打する。
「ギャアアアアア!!」
グリフィンの口からバズーカが落ちる。それと同時にシュウは右足の力だけでバックステップし、距離をとる。あんなに血を流したのにどこにそんな余力が…火 事場のなんとやらってやつだろうか。
「助かったぜ…グミ。もう大丈夫なのか?」
「しゃべらないで。ヒール!!」
グミの全身から放たれた淡い緑が、シュウの左肩と左足を包み、癒していく。完治とはいかないが、出血は止まり、痛みも少しは引いたようだった。シュー シューという音が止まる。
「ありがと…危ないっ!」
シュウの危険察知もわずかに遅く、グリフィンの吐いた煉獄の火炎は、グミたちの視界を埋め尽くした。
続く
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